第106話 VSシガー・2
「雷鳴の剣・解放!」
俺はありったけの雷魔力を短剣に込め、シガーに向かって思い切り踏み込む。
「バカか? なにも学ばなかったみたいだな」
シガーは俺との間に水球を作り出す。
この勢いでは止まることはできない。
なら、止まらなければいい。
「フレス!」
俺の身体はその勢いのままふわりと浮き上がり、水球を飛び越すことに成功する。
「私もいくよー!」
メアリスが超巨大フォークに飛び乗り、俺より少し遅れてにシガーに接近する。
「ちっ、撃ち落としてやるよ!」
そう言いながらシガーは大量の水の槍を生み出し、俺たちを迎え撃つ。
だが、防御に反して意外と攻撃が疎らだ。
不慣れな飛行魔法でもギリギリ避けきれる!
メアリスの方は全てパレットナイフで楽々と撃ち落としていた。
「……めんどうくせぇな」
「やっと接近できたぞ!」
俺はシガーに向けて魔法剣を振るう。
下から上、そこから流れるようにクルリと回転させていきなりの方向転換。
しかしそれは全て読み切られているのか、シガーは刃に掠ることすらない。
それどころか……
「蹴りなら入りそうだな」
「がはっ!?」
反撃をもらってしまう。
「よくもエルを! 串刺しになっちゃえ!」
「危ねぇな」
メアリスの乗った巨大フォークはシガーを串刺しにすることはなく、砂浜に突き刺さる。
それと同時に辺り一体に砂煙が舞う。
「ダーツの始まりー!」
メアリスが砂煙の中からパレットナイフを投げまくる。
「よく分からねぇが、あれに当たるのはまずそうだな」
シガーは直感でそう判断し、水の壁を作り出す。
パレットナイフは水の壁で止まり、紫色の魔力波とともに爆散した。
「あんなのまともにくらったら一発KOじゃねぇか、めんどうだな」
「ドロウ・インテリア!」
「クエイクエッジ・チェイン・ヘイルスピア。」
「ちっ」
メアリスが飛び上がってシガーの頭上にいくつかのシャンデリアを降らせた。
視界を塞ぎつつ攻撃にもなる便利な技だ。
それに続けてベルが連鎖魔法を唱えた。
砂煙のせいで詳しい位置が分からなくとも、範囲の広いベルの魔法なら大まかな位置が分かれば当たる。
加えてベルが魔法を使うことは事前に通信魔法でエルたちには伝わっていたので、安全圏に避難することができている。
パワープレイだが、最適手と言って間違いないだろう。
「こいつは一番めんどくせぇな…………」
シガーは深呼吸をし、目をカッと見開く。
その数瞬後、シャンデリアとベルの放った魔法がシガーを襲う。
これで決まるか……?
しかし、そんな考えをシガーは吹っ飛ばす。
迫ってくる氷の槍も、下から突き出す結晶も、この激しい攻撃の中ゆっくり落ちてくるシャンデリアも、全て水を利用した最小限の動きで受け流されていく。
おいおい……連携の末に放たれた精霊族の連鎖魔法だぞ……?
それを受け流すなんて……!
……だが、俺たちの連携攻撃はまだ終わっていない!
「……ここや!」
「ぐっ……!?」
メディアスの放った毒の糸がシガーの足を貫いた!
背中の六本の脚の分の糸も含め、合計十六本の糸を束ねたものがシガーを貫いた!
シガーは顔を歪めるもすぐに糸を断ち、水を地面に放射して距離をとる。
「っぐ……毒か……めんどうくせぇ……」
「メディアスちゃんお手製の毒のお味はどうや?」
「……いや、まだ軽いな。こんくらいなら何発でも耐えてやるよ」
「強がり……でもなさそうだな」
「あぁ、まだまだいけるな」
はったりではない。
それが恐ろしい。
受け流しているとはいえ、ベルの連鎖魔法のダメージは大きいはず。
メディアスの毒は継続ダメージ目的だったとしても……それを何発でも耐えてやると豪語する自信、そしてそれに伴う実力。
間違いなく過去最強の相手だ。
「だが、必ず弱点があるはずだ……」
「来ないのか? ならあたしが攻めにいくぞ」
考える間もなくシガーが水の槍を三本生み出す。
一つはシガーが握り、もう二本はシガーと並走するようにこちらに飛んでくる。
「さぁ、あたしと一緒に踊ろうか」
シガーならもっと大量の槍を生み出せるはずだ。
それこそ何十本とともに攻めることもできたはずだが……なぜそれをしない?
「……何かされる前に落とす! くらえ、ソーンズウィップ!」
そもそもこの戦いの中で未知の攻撃を予測する余裕などない。
ならば先に手を打って相手の策を潰すのが良い、そう考えた。
植物の力を宿した魔法の鞭がシガーと槍を討ち取ろうと暴れ狂う。
しかし……
「なっ!?」
なんと、水の槍は意思を持っているかのように俺の魔法を躱していくのだ。




