第105話 VSシガー・1
「よーい…………ドゥォォォォォォン!!」
クティの迫真の効果音が合図となり、俺とシガーが同時に踏み込む。
「海潮の剣・残留!」
俺は水属性を短剣に付与し、シガーと向き合う。
「オラァ!」
シガーの強烈な突きが風とともに飛んでくる。
とんでもない速さだ、想定より遥かに速い。
だがそれを俺は身体を傾けることによってそれを避け、懐に飛び込む。
「いくぞっ!」
「それはこっちのセリフだ」
「それはどういう…………」
「いきなり一人脱落か?」
「なっ!?」
なんと槍が弧を描くように曲がり、俺の背中を突き刺そうとしてくる。
想定外の速さには対応できたが、これには対応できない……
だが…………
「ハードプロテクション。」
「……ビクともしない」
ベルの防御魔法が俺を水の槍から守る。
ベルなら防いでくれると信じていた!
俺は刃をシガーに突き刺そうと力を込める。
「めんどうな連携だな」
シガーはバックステップで後ろに飛び退く。
俺はそれを追いかけるために地面を蹴った。
しかし、それは致命的なミスとなる。
シガーは俺との間に人間一人入る程度の大きさの水球を生み出したのだ。
「しまっ……」
俺は足を止められずに水球に突っ込んでしまったが、むしろその勢いのおかげで水球から脱出できた。
しかし、その代償に勢いが緩まってしまい、大きな隙が生まれてしまった。
そんな隙をシガーが見逃すはずもなく、一気に踏み込んで槍を突き刺そうとしてくる。
しかし、先程とは違いある程度想定外には備えていた。
「はあっ!」
俺はシガーの水の槍を魔法剣で弾く。
最初に付与した水の魔力がまだ残っていて助かった……
「これを弾くのか。中々の威力だな」
「次は私たちのターンだよ!」
メアリスがフォークを片手に果敢に飛び込む。
メアリスがフォークに力を込めるとその大きさは二倍、三倍、五倍…………どんどん大きくなっていく。
「そんなの当たらねぇよ」
シガーはまたもバックステップで距離を取る。
メアリスの巨大フォークは砂浜に突き刺さり、大量の砂煙が舞い上がった。
その砂煙の中でシガーを狙う影が一つ……
「……ここや!」
「うお!?」
目に見えないほどか細いメディアスの糸……それをシガーはすんでのところで躱す。
だが、俺たちの連携攻撃はまだ終わっていない。
「アイシクルランス。」
「ちっ」
ベルが大量の氷の槍を作り出し、シガーに向けて撃ち出す。
シガーも水の槍を大量に生み出して迎え撃つ。
詠唱したわけでも、魔法を使った訳でもないのになんでベルの魔法が相殺されるんだ!?
やはり、原初の種には常識が通用しない。
「そうだとしても……」
「二人がかりなら!」
俺はメアリスとともにシガーに向かって駆ける。
シガーはそれを素早く察知し、地面に手を着く。
「いでよ」
すると、シガーを囲うように水の壁が出現する。
水の壁から水の槍が飛び出し、魔法を迎撃しながらシガーはこちらに構える。
水の壁があるせいで近距離戦はできない。
…………水?
それなら!
「雷鳴の剣・連打!」
水は電気を通す!
俺は雷属性の斬撃を飛ばしまくる。
「電気か。めんどうくせぇ」
シガーは直上に飛び上がって水の壁から脱出する。
「空なら無防備でしょ? 墜落しちゃえー!」
メアリスが空中のシガーに向かってパレットナイフを投擲する。
シガーはそれを見ても表情一つ変えず、地面に手を向ける。
「単調な攻撃だな」
地面に向けた手から竜巻のように回転する水が放たれる。
それを動力としてシガーはとんでもないスピードでそこから離脱した。
本当、なんでもありだな…………。
ここまでやって傷一つつけられないとは……
「脚の動かないあたしなら戦闘経験が無いとでも思ったか? むしろその逆。あたしはそんな状況で身を守るために徹底的に防御を鍛えた。お前らはどうなんだ? 五対一なはずなのに……あたしに攻撃を掠らせることすらままならない」
「…………」
「…………本気じゃないだろ、全員。特にそこの小動物に関してはなにもしてねぇじゃねぇか」
『なぁーっ!? 真打は後から活躍するのだ!!』
「……とにかく、本気で来いよ。クティの言葉を信じてさ。お前らは優しすぎるんだよ」
シガーは大量の水の槍を生み出し、指をクイックイッとして挑発するような仕草をする。
「全く、あたしにこんなことやらせるなよ…………揃いも揃って、めんどうくせぇ奴らだな」
シガーは大きくため息をつく。
しかしその顔には嫌悪感は含まれていない。
どこか優しさが感じられる表情だ。
流石に、ここまで言われたら…………
「……黙ってられないな。みんな、シガーがあぁ言うなら大丈夫だと信じよう。手加減なし、殺す気でいくぞ。覚悟を見せるためだ」
「くすくす! そうこなくっちゃ! 楽しくなってきたね!」
「新しい魔法の実験台にならってもらう。」
『ふん! このわがはいの前でそのような口を聞くとは生意気な小娘なのだ! 貴様に神獣の力を見せてやるのだ!』
「患者を助けるためには強さも必要ってことやな。うちはどんな患者でも見捨てない主義やし、本気でいかせてもらうで」
殺す気でいく…………自分で言っていて少し胸が締め付けられるような感じがする。
でも、それでも。
こんなに真っ直ぐな気持ちをぶつけられて手を抜く訳にはいかない。
「…………いくぞっ!」




