第104話 立ちあがる
「それで……頼んだわたしから言うのもなんだけど、どうするの?」
「まずは診察からや。うちに任せとき!」
メディアスは膝をついてシガーの方へ視線を降ろす。
「待て。あたしがどこの馬の骨とも知らんやつに無抵抗で好き勝手されると思ってんのか?」
「シガー! それは……」
「あたしを治そうとしてくれるその気持ちは嬉しい。だがそれだけだ。めんどうくせぇから説明させるな」
…………シガーの言うことはもっともだ。
いきなり現れた奴に自分の身を任せろという方が無理だ。
あまりに展開が急すぎるしな…………
「でも……俺たちはシガーを助けたいんだ。どうか……俺たちにその身を預けてくれないか……?」
「くどい」
「頼む! 俺たちは……!」
「めんどうだな、お前は。あたしのことはどうでもいいからさっさとどこへでも行ってろ」
「どうでもよくなんかないだろう!?」
俺は思わず顔を歪めて大きな声を出してしまう。
「俺たちのことはともかく…………そこの鳥はシガーのことを助けたくてこれまで色々してきたんじゃないのか……?」
「…………」
シガーはゆっくりと鳥に顔を向ける。
「クティ…………」
「……ごめんね、シガー。わたしは独りよがりだったのかもしれない」
「何言って……」
「わたしはシガーを助けたい一心で……あなたの気持ちを考えてなかった…………いきなりすぎるよね……ごめんね……」
「…………あぁ……どいつもこいつもめんどうくせぇ」
シガーがクティと呼ばれた鳥の方へ向き、ため息をこぼす。
「シガー……?」
「あれこれ考えるのはめんどうだ。クティ、アレを展開しろ」
「え? 今? なんで?」
「説明するのもめんどうくせぇ。早くしろ」
「…………分かった」
クティはそう言うと頭の上に輪っかを出現させ、それを弄くり回す。
なんだ?
何をしているんだ?
「偽物の世界、展開! ギュオォォォォン!」
謎の効果音がクティの口から流れ、それと同時に光が俺たちの視界を遮る。
「なっ……なんだ…………!?」
「眩しい……」
そしてそれからしばらく…………視界が回復してきた。
視界の回復した俺たちの目に映ったのは…………
「…………ん?」
先程までと同じ、綺麗な海と砂浜。
辺りを見回しても特に変わりないように見える。
なら、今のは一体…………?
しかし、先程までと違う点が一つだけあった。
「あぁー…………最近怠けてたからな、ちょうどいい」
「えっ!?」
『なのだっ!?』
先程までと違う点……それは…………
「し、シガー……なんで…………立ってるんだ……?」
「いいことを聞くじゃないか、エルソンくん! シガーがなぜ立っているのか、それはわたしの魔法のおかげなのだー! 」
『わがはいのアイデンティティをとるななのだ!?』
「言ってる場合じゃない。それに……なんだか見覚えがあるような。」
『む? そういえばわがはいもなんとなく…………まぁ、そんな事はどうでもよいのだ!』
「そうそう! まぁ詳しくは説明しないけどね!」
「なんでや!?」
「めんどうくせぇから!」
「おい」
「とにかく……ここなら思う存分戦えるよ。傷つけられようが、腕をもがれようが…………現実世界にはなんの影響もないから安心して!」
い、いきなりそんなことを言われても…………混乱して頭の整理がつかない……
そもそもそんなすごい魔法があるとは思えないし…………
そうやって混乱している間にもシガーは水を生み出し、それで三又の槍を形作り、こちらに矛先を向ける。
「今だけは……想いだとか、気持ちだとか、恩だとか…………めんどうくせぇもんは全部捨てる。五対一でいい。お前らの全てをあたしに見せろ」
…………ここまでの覚悟を見せられて戸惑っているわけにはいかないな。
今はクティの言葉を信じるとしよう。
「…………あぁ、分かった。シガーを助けるために、俺たちは本気で戦う」
みんなもそれに続き、強く頷く。
それを見て、初めてシガーが笑みを見せた。
「みんな、準備はいい? 最後の確認をするよ。この空間はいわゆる偽物で、どんな傷を受けてもみんなの身体は無傷。遠慮なくやっちゃって大丈夫だよ!」
「あぁ」
「分かった」
俺たちの返事を聞き、クティが小さな翼を天に掲げる。
「よーい…………ドゥォォォォォォン!!」




