第102話 謎の鳥じゃないよ!
「メアリス、こいつしまってもらってもいいか?」
「お易い御用だよー」
「あ? 何言っ────」
喋っている途中でもお構い無し。
男はメアリスのブローチに吸い込まれていった。
本来相手側の了承がなければブローチに収納することはできないが、圧を浴びせたおかげで精神が不安定になり、強制収納を可能にした。
「……ベル、アナ、出てきていいぞ」
「ん。」
『待ちくたびれたのだ』
ベルは幻影魔法を解除し、岩陰からこちらにトテトテと走ってくる。
「…………さて、気を取り直して原初の種探しを再開しようか」
「本題にいくまでに大分時間がかかっちゃったねー。原初の種は無事なのかなー?」
「それは……祈るしかないな。俺たちにできるのは見つけ出して、もうここを離れるように忠告することだけだ」
『いいや、わがはいたちのパーティに入ってもらうのだ』
「新しい仲間ができたらごっつ嬉しいけどなー。まぁ強制するわけにもいかんし、向こうから人間と冒険したいなんていう原初の種は少ないと思うで?」
「いや。みんながみんな人間嫌いじゃない。人間と交流のある原初の種だっているし。」
そうなのか……人間と交流している原初の種、気になるな。
「原初の種と一口に言っても色々いる。仲間が増えるのは俺も大歓迎だし、見つけたら誘ってみようかな」
ミレーユさんの言っていた魔族の戦闘力のことも気になるしな…………
戦力はあるだけあった方がいい。
もちろん無理強いするつもりはないが…………
「それで。いい情報は貰えた?」
「残念ながら…………」
俺はギルドでなにも情報を得られなかったことと、勇者パーティが原初の種について探っていることを伝えた。
「勇者パーティ……気になるなぁ」
「さっきみたいなごみくず?」
「うーん、多分違うと思うよ? なんとなく慣れ親しんだ感じ」
『…………』
俺が否定しようとしたところで、俺より早くにメアリスがフォローを入れる。
大の人間嫌いなメアリスが珍しいな。
それだけ他の人間とは違うということか?
『情報がないなら、これからどう動けばいいのだ?』
「うーん……ベル、探知魔法に引っかからないか?」
「ううん。反応無し。エルたちが尋問してる間に展開したけど。やっぱりシャーロットの情報が鍵になるかも。」
シャーロットの情報…………
確か、視界に入れてから少しでも目を離したら消えてしまう…………
ファーストコンタクトが重要ということか。
そしてそんな手品のような芸当ができるのはやはり原初の種だからこそだろうか?
それともベルのように魔法が得意で、それで姿を隠しているのか?
しかし、精霊族以上に魔法に優れた原初の種など存在しない…………
となると原初の種の固有能力と考えるのが妥当か?
「海にいる原初の種と言えば。海獣。」
「海獣? かっこいい名前!」
「海獣か……」
原初の種の一種、海獣。
原初の種の中でずば抜けて高い水中戦闘力を持ち、水中では無類の強さを誇ると言われている。
水を自在に操るその姿はとても美しく、人魚と呼ばれることもある。
「だけど……海獣は人間と関わった歴史はほとんどないはずだ。今になって急に人間の街に近づくなんておかしくないか?」
「それは分からない。あくまで海の原初の種として挙げただけ。」
「うんうん、それでそれでー?」
「そうだなぁ、ダメ元で船で探してみ…………うん?」
俺は聞き覚えのない声に違和感を感じ、みんなの方を見る。
「エル、どうしたの?」
「なんや、なんかあったんか?」
『何を呆けておるのだ』
「ほんとだよー、わたし、心配すぎてズッキュンバッキュンだよ?」
「うん。この場にはベルたちと。謎の喋る鳥がいるだけ。特に変なことはないはず。」
「うーん、そうだよなぁ」
メアリス、ベル、アナ、メディアス、そしてひよこみたいな謎の鳥…………ん?
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その謎の鳥…………」
「え? 謎の鳥さんがどうしたの? 長年一緒に旅してきたでしょ?」
「今初めて会ったけど!?」
「何言ってるのエル。ベルたちはこの謎の鳥と幾多の死線をくぐり抜けてきた。違う?」
「違うが!?」
『あぁぁぁぁぁぁ!!? この謎の鳥はなんなのだぁぁぁぁぁ!!?』
「気づくのが遅すぎるだろ!?」
ちょ、ちょっと待て……どうなってるんだ?
一体何が起こってる!?




