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第101話 いてこましたるぞボケ

「ちっ…………!」

『…………見つけた。マジックバインド。』

「ぐっ!? な、なんだ!?」

「え!? な、なんや!?」


戦いに勝利したメディアスの目の前に、魔法のロープで縛られた人間が降ってくる。

流石にこの状況では困惑を隠しきれない。


「おい! てめぇの仕業か!? 離せ!」

「え、えーっとー……?」

『この人は恐らく魔物使い。さっきの魔物はこの人が操ってた。だからベルが捕まえた。』


ま、魔物使いやと……人間は魔物を従わせられるんか!?

……って、今はそれどころやあらへんのやった。


「……てか魔法使っとるやん! バレてまうで!?」

『抜かりない。死角から魔法を発動した。その後すぐに姿を魔法で消した。問題ない。』

「それならいいんやけど…………」


ベルの言葉を聞いて胸を撫で下ろすのもつかの間、男がギャアギャアと喚く。


「おい!! 聞いてんのかよ!!」

「……こいつはどうするん?」

『放置。後でベルが今の記憶を消去する。そうしたら適当な場所にぽい。』

『お、おそろしやなのだ……』

「こ、怖すぎるんやけど……」

「てめぇ、いい加減にしねぇと……」

「あぁもううるさいなぁ。ちょっと黙っててや。いてこましたるぞボケ」

「ひっ……」

『……メディアスも大概。』

『……同意なのだ』


メディアスは大して怒っていないが、なぜか縛られている冒険者に恐怖を与えられてしまった。


普段陽気で明るい人ほど、その言葉の棘は鋭いのだろう。


「というか、なんで記憶を消す必要があるんや?」

『ベルたちにも事情があったとはいえ。証拠もなしに冒険者を拘束した。この場合悪いのはベルたちになる。可能性がある。』

「そんなことあるかいな……うちらが襲われたんやで?」

『人間のことはよく分からない。でも人間ほどのゲスさならそれが有り得る。保険はあればあるほどいい。』

「せやね。確かに保険はあればあるほどいいわ」


二人とも人間に住処を追われた原初の種(オリジン)

人間への負の感情は人一倍強いのだ。


エルと接して人間も悪い奴ばかりでは無いとわかったものの、基本的には二人とも人間を信用しない。


二人が柔軟な思考を持っているからこそ、この男は今生きているのだ。


『……ん。エルたちが来た。』



◇◇◇◇◇



「あ、あれは……?」


情報収集を終え、戻ってきてみると…………

ベルの魔法で縛られた冒険者であろう男とメディアスの姿があった。

ベルの姿が見えないが……魔法で姿を隠しているのか?


「なんか気持ち悪いドロドロも近くにあるよ?」

「本当だ……メディアスの毒か?」


とりあえず行ってみないと分からない。


そう思い、俺は二人のいる砂浜に向かう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お、エル。おかえりやでー」

「ただいま……じゃなくて、こいつはなんなんだ?」


近くで見るとがちがち震えている。

メディアスに怯えているようだ。

一体なにをしたのやら…………


「ベルいわく、魔物使いらしくて……ほら、そこのドロドロはさっきうちが倒した魔物や。神経毒やから死んではあらへんで。魔物といえど数時間は動けんけどな」

「魔物使い…………!? ……なるほど……つまり、こいつはメディアスを襲ったのか…………」


俺は冒険者に歩を進め、顔を近づけて睨みつける。


「なっ……なんだよ……」

「なんでメディアスを襲った? メディアスがお前になにか危害を加えたのか?」

「いや……」

「なんでメディアスを襲った? 答えろ。場合によってはギルドに突き出すぞ」

「そ、それはご勘弁を……」


俺がギルドと一言零せばたちまち男は態度を変えてしまった。


「自分から喧嘩売ったんに、弱いやっちゃなぁ」

「うぐ……」


文句を言いたげな顔だが、負けた上にギルドの名まで持ち出されては反論できない。


「…………俺は原初の種を狙ってここに来たんだよ。そこにいる女がライバルかと思って潰そうとした。それだけだよ」

「…………はぁ。お前は冒険者だろう? 冒険者同士の争いはギルドのご法度だって知らないのか?」

「それは…………」

「お前は事が終わったらギルドに突き出す。仲間を傷つけられそうになって黙っている訳には行かないし、そもそも魔物を手懐けるのは禁止されている」

「てめぇ……!」

「仕掛けてきたのはお前だ。牢獄の中で反省してろ」


俺はそう言って冷たい視線を向け、軽く圧を浴びせた。

すると男はたちまち縮こまってしまった。

本当は殴ってやりたいが、それでは正当防衛ではなくなり、こちらも悪者になってしまう。

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