第100話 エル? 違う。
「今目撃情報が出ている、原初の種について教えてくれないかい?」
その言葉に思わず俺は勇者様の方に目を向ける。
「原初の種の情報ですか…………現在当ギルドでは情報が錯綜しており、正確な情報がお伝えできないのです。わざわざお越しくださったのに申し訳ありません…………」
「ううん、ありがとう。こちらこそ急に押し掛けてすまない」
「い、いえそんな……!」
「お騒がせしてすまない。みんな、行こう」
そう言葉を残し、勇者様御一行はギルドを後にした。
その様子を見てメアリスは焦りの表情で俺の方を見る。
「え、エル……これって勇者とかいうのに先を越されちゃうんじゃない?」
「…………いや、それならそれで大丈夫だと思う。勇者様は原初の種を売り飛ばすような真似はしないはずだ。協力者が増えたと思っていい」
「そうなのかなぁ。確かに外道の匂いはしなかったけど……」
げ、外道の匂い…………
あっさりとそう言うメアリスに少し恐怖を覚えてしまった。
「とりあえず……今以上の情報を望むことは難しそうだ。一旦ベルたちのところに戻ろうか」
「りょうかーい」
◇◇◇◇◇
「波の音が綺麗やねー…………うっかり本題を忘れてしまいそうやわ」
「同感。これは卑怯。」
『貴様ら! その体たらくはなんなのだ! ちゃんと周りを見回して原初の種を探しつつ不届き者の成敗に備えるのだ!』
「お、アナが珍しくやる気やな」
メディアスの言う通り、アナは珍しく張り切っている。
短い手足で準備運動までしていて、普段のだらけたアナからは考えられない。
『当たり前なのだ! 原初の種はわがはいたち神にとって我が子同然、守って当たり前なのだ』
「ふーん。アナにそんな思考があったなんて。ちょっと見直した。」
「せやね。もっとちゃらんぽらんかと思っとったわ」
『な!? わがはいはちゃらんぽらんなどではないのだ! この誇り高き……』
「それもう飽きた。」
『なーっ!? 飽きたとはなんなのだー!!』
アナがベルの頭で地団駄を踏む。
正直、アナがやってもかわいいだけである。
ふわふわもちもちの足がベルの頭をつついているだけである。
意味が無いのである。
「…………アナ。集中。誰か来た。」
『……む、確かにそのようだななのだ』
「な、なんでそんな早くに分かるんや…………」
「アナとベルは魔法で姿を隠す。ヤバくなったら助ける。おーけー?」
「ま、まだうまく飲み込めてへんけど……いけるで」
困惑しながらも強く頷くメディアス。
それを見てベルは安心して魔法を唱える。
「ライネル。」
ベルが魔法を唱えると、綺麗さっぱりベルとアナの姿が消えた。
「……もしかして、ここにいる原初の種もあぁやって姿を隠してるんかな? これなら納得がいくわ」
とと、今はそれどころじゃあらへん。
戦闘準備や。
激しい戦闘やないなら後ろの脚を展開する必要はあらへんな。
ベルのサポートは最終手段やし、なんとかうちだけで抑えんとな。
「…………ん? エル?」
向こうに見えるのはエルやな。
なんや、誰か来たってエルのことかいな。
身構えて損した気分やわ。
「エル、おかえりやで。原初の種の情報はどうや?」
「…………」
…………あれ、返事があらへん。
『メディアス。そいつ。エルじゃない。』
「なんやて!? おわっ!?」
剣を振るようにエル?の腕がメディアスに降ってくる。
メディアスはそれをギリギリのところで躱した。
ベルがいなければやられていただろう。
「な、なんや? どうなっとるんや?」
『メディアスは幻覚魔法にハマっていた。今解除する。待ってて。』
メディアスは困惑したままエル?の前に佇んでいる。
そして一瞬でベルの魔法がメディアスを幻惑の世界から引きずり戻した!
『これで……ほい。』
「…………ん……? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!? なんやこいつ!?」
メディアスは反射的に糸を生み出して薙ぐ。
それもそのはず、目の前に居たのは人型は辛うじて留めているものの、ドロドロで液状なのだ。
メディアスの糸はそいつを綺麗に切断する。
「や、やったか!?」
『まだ。ちょっと厄介なやつが来ちゃった。メディアス。下から来るよ。』
「し、下? ほわっつ!?」
メディアスに切断されたはずのそいつはメディアスの真下から拳を振り抜く。
メディアスはベルの素早い指示に反応して躱す。
『頭がいい魔物。本来ならこんな動きはしないはず……。なんでだろう。』
「そんなこと言ってる場合ちゃうで!? こいつ意外と素早いんやけど!」
そう言いつつもメディアスは軽い身のこなしで魔物の攻撃を避けていく。
「切ってもだめなら……毒や!」
メディアスは腕から遠くにある岩に糸を伸ばし、自分の体をそこへ引っ張る。
「よっと」
華麗に着地し、魔物と距離をとれたメディアスは集中して毒を作り出す。
魔物は人間よりも毒耐性が強く、抗体が出来上がる前に仕留めなければならない。
そのため集中して強い毒を作る必要があったのだ。
「いくで!」
メディアスは体内で作った毒を糸に乗せ、魔物に狙いを合わせる。
目に見えないほどに細いその糸は魔物の身体を容赦なく貫く。
一本、二本、三本…………メディアスは容赦なく魔物の身体を毒漬けにしていく。
やがてその魔物は変色し、あっけなく動かなくなった。
「ふふん! うちだって戦えるんやで!」
「ちっ…………!」
『…………見つけた。』




