第98話 湧き上がる怒り
「前方に魔物の反応が四つ。」
「任せてー!」
メアリスが虚空に指を向け、何かの絵を描くように指を動かす。
するとメアリスの手に帽子掛けが出現する。
「いっくよー!」
メアリスが帽子掛けを手にグルグルと回転する。
「ガアッ!」
「ウキャー!」
ゴブリンのような魔物が茂みから飛び出す。
それに目掛けてメアリスは帽子掛けをぶん投げる!
「吹き飛んじゃえ!」
「ギェッ!?」
「ギャア!?」
帽子掛けは回転しながら二体の魔物に向かって飛んでいき、魔物の身体を吹き飛ばす。
「こっちでしょ!」
「ブギャ!」
「ボガア!?」
メアリスが隠れていた魔物の位置を看破し、指をクイっと動かすと、それに反応して帽子掛けもメアリスの指と同じ方向に曲がる。
残りの魔物はメアリスの回転エネルギーの加わった帽子掛けにボコボコと打撃を加えられ、魔石に姿を変えた。
無詠唱で帽子掛けの軌道をコントロールし、その上で無傷で倒すなんて、やっぱりメアリスの強さは化け物級だ。
「回収する。」
ベルは飛びながら器用に指から光線のようなものを発射し、それが魔石に触れるといつの間にかベルの手元にその魔石があった。
本当、一体いくつの魔法が使えるのやら…………
『すんすん……なにやら独特な匂いが風と共にわがはいの鼻を襲っているのだ』
「それ、潮の香りやない? てことは……」
「シャイレーツ海が近いってことだな。みんな、最後まで油断せずに進むぞ!」
「「「合点承知之助!」」」
『なのだー!』
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その後は特になにもなく、俺たちは順調に森を突き進んでいった。
「周囲に魔物の反応はない。」
「そのへんの昆虫に聞いてみたんやけど、この森ももうすぐ抜けられるらしいで!」
「虫さんとお話…………楽しそう!」
「メディアスのその能力にもビックリだが…………まだ気を抜いちゃだめだぞ、何度も言ってしつこいと思うが……」
「その忠告はしつこいくらいがちょうどいい。むしろもっと聞いた方がいいくらい。」
『え、わがはいはもう聞きたくなごはぁ!?』
「何度言えば分かるの。そろそろ怒るよ。」
『ご、ごめんなさいなのだ……』
アナがベルに怒られて珍しくナーバスになっている。
しゅんとして尻尾が垂れ下がっている。
かわいい。
『うう、しかもまた失礼なことを考えているやつがいるのだ…………というか全員なのだ……』
アナが丸まって顔を覆い隠してしまった。
かわいい。
それにしても、前々からそうだと思っていたけど、もしかしてアナは心が読めるのだろうか?
今度ゆっくり出来る時に聞いてみるとしよう。
「…………と、出口だな」
木漏れ日が強くなってきたので、一度足を止めた。
慎重に歩いていくとそこには、真っ青ななにかが視界に広がっていた。
「あ、あれが…………海……?」
「そう…………みたいだな……」
「……綺麗。」
「なんて、なんて広いんや…………」
『…………(パァァ)』
俺たちは初めて海を見て、思わず唖然としてしまう。
鮮やかな蒼、耳をくすぐる心地の良い波の音、規則性もなく揺れ動いているその様………………
まさに、この世の神秘と呼ぶに相応しい光景だ。
「…………ん?」
なんだろう、今……なにかされたか?
俺は思わず辺りを見回す。
すると、二人の男がこちらに向かってきているのを発見した。
一人の男は筋骨隆々で、船を肩に乗せている。
その男たちは落ち込んでいるのか、とぼとぼと歩いてきている。
俺が注意深くそいつらを観察していると、向こうから話しかけてくる。
「…………お、兄ちゃん。あんたも原初の種を探しにきたのかい?」
「……あんたもって……もしかして……」
「あぁ、俺達も原初の種を求めてここに来たのさ。原初の種なんて高く売れるに決まってるからな」
「っ…………!」
えも言えぬ怒りが俺を襲う。
こいつら……原初の種をなんだと思っているんだ…………!!
人間以外にはなにをしてもいいと思っているのか…………!?
…………我慢だ。
表情には出さずに拳を握りしめるだけに留める。
「……そうなのか。それで、あんたたちはどこに行くんだ? 原初の種はここにはいないのか?」
「そうだな…………海に居るっつう情報があったから来てみたはいいものの……二時間探してなんの成果もなしさ」
「船まで使って探したんだけどよ、痕跡すら残ってなかったぜ。原初の種なんてやっぱりただの噂だったのかもな」
…………嘘をついているようには見えないな。
「諦めるのか?」
「あぁ、本業は冒険者だしな。一攫千金狙うのもいいが、その分海には危険も多い。俺たちは辞退することにした」
「兄ちゃんたちも海を探索するなら気をつけな」
「……あぁ、忠告感謝する」
そう俺が言うと冒険者の男たちはこの場を去っていった。
「…………早く見つけないと、他の冒険者に先を越されるな」
「うん。早く探すべき。」
「やっぱり人間は許せない。自分と違う生き物をお金としか見てないの?」
「これは早く助けてやらなあかんな!」
『この神獣様の目の前で神の子同然の原初の種を売り飛ばそうとはなのだ。必ず助け出すのだ!』
みんなも今の冒険者たちの話を聞いて奮起してくれている。
原初の種を売り飛ばそうとするようなやつらに先を越される訳にはいかない。
急ごう。




