第11話 ソロウの残滓
──────ガチャリ
「うわっ!?」
メアリスが解錠したその瞬間、引き出しから七色の光が視界に飛び込んできた。
流れ星の如き速さで溢れ出す光に、俺は反射的に目を閉じてしまう。
「くっ……メアリス、アクス!! 大丈夫か!?」
「だ、大丈夫よ。眩しいだけ」
「こっちも特になんともねぇ」
やがて光が収まり……チカチカする視界が徐々に回復してきた頃……
「色が……戻ってる……」
白黒だったアトリエに、色が戻ってきた。
アトリエ内を見回してみると、古びて汚らしくなった外観とは打って変わり、床材の大理石は白く輝いており、明るい茶色の木の壁からは温もりが感じられる。
更には鍵のついていた勉強机は新品同然にぴかぴかだ。
まるで、時が止まっていたかのように。
「……ここ、覚えているわ。私はたぶん、ここでお父さんに描かれた」
メアリスは枠だけになったキャンバスに撫でるように手を置く。
罅の入った硝子に恐る恐る触れるように、優しく。
「……ごめんなさい、つい。引き出しを開けましょうか」
「大丈夫だ。もう少し浸っていても……」
「いいえ。家族が待っているもの。私が一人ここで余情を味わっているわけにはいかないわ」
そう言ってメアリスはキャンバスに背を向けた。
強い人だ。
彼女には最高傑作として家族を守る、引っ張るという確かな責任感が備わっている。
彼女なら、この先どんな障害があろうと作品たちを良い未来に導けるだろう。
俺が感心している間に、メアリスは引き出しの取っ手に手をかける。
そして俺たちの方へ首を向け……
「開けるわよ」
そう言った。
俺たちがそれに対し首を縦に振るとメアリスは慎重に取っ手を引く。
「……封筒?」
引き出しの中には分厚い封筒があった。
封筒にははち切れんばかりの紙が入っているようで、開け口を閉じる蝋は今にもはがれそうだ。
メアリスは引き出しから封筒を取り出し、開け口に貼られた蝋を剥がして開けた。
中を覗いてみると……
「……手紙?」
手紙が入っていた。
ひい、ふう、みい……数えるのも億劫になるほどだ。
「皆の名前が書いてある……お父さんの字だわ」
一つ一つ異なる装飾がなされていて……
ソロウの芸術家としてのこだわりと、作品に対する愛情が感じられる。
百を超える作品たち……全員に手紙を書き、デザインしたのだろうか?
本当に愛だけでメアリスたちに心が宿ったのかも、そう信じてしまいそうになる。
「……私の名前」
メアリスがひとつの手紙を取り出してそう呟く。
優しい緑の洋封筒には純白の薔薇があしらわれており、手紙が入っているであろう洋封筒の開け口には薔薇の形をした金色の蝋が貼られている。
流石に時間が経ちすぎているのか、剝がれかけているようだ。
メアリスが手首を返して裏を見ると
『私の愛する家族 メアリスへ』
と書かれている。
「さっきあぁやってかっこつけたばかりだけど……読んでもいいかしら。なんだか、今読んだ方が良いって思うの」
メアリスはしっとりとした瞳でこちらを見つめる。
「もしかしたらなにか有用な情報もあるかもしれないし、読ませてくれるなら読み上げるわよ」
「俺はいいと思う。アクスは?」
「まぁ、こんなの見つけて読むなって方が無理だろ。ソロウってやつからの手紙だろうしな」
「ありがとう……じゃあ、読み上げるわ」
メアリスは洋封筒の封を開けて中に入っている紙を取り出した。
それから数泊置いて読み上げ始める。
「私の愛する家族、メアリス・ローザへ──────」
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