第97話 緊急事態だよね?
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 全員一回ストップ!」
晩杯屋で一晩を過ごし、情報を貰ってからシャーロット、バトラーと別れた。
その後俺たちは次の目的地、シャイレーツ海を目指すため、その海があるマリエスタという街に向かっていた。
そのとある情報を聞いた瞬間、皆居てもたってもいられなくなったのか、走り出してしまったのだ。
そして、今ちょうど追いついた。
そのとある情報というのは…………
「どうしたの!? 急がないとパイレーツの原初の種が悪い人間たちに捕まっちゃうよ!」
「違う。シャイレーツ。」
現在、シャイレーツで多くの原初の種の目撃情報があり、様々な人間たちがその原初の種を狙って動いているというものだ。
「分かってる、急がないといけないのは分かっているが…………今、どうしても聞いて欲しい話がある」
俺の真剣な空気を察したのか、メアリスはバタバタさせていた足を落ち着かせてこちらに視線を向けた。
「今、どうしても?」
「そうだ。今、この急いでいるという状況だからこそ言わないといけないことがあるんだ。本当に詳細な話は後日改めてしようと思っているから、今は俺のお願いを聞いて欲しい」
「お願い?」
俺はある程度言うことを頭の中でもう一度まとめ、話し始める。
「俺は戦う前、いつも油断をしないようにと口酸っぱく言っているが…………それが足りないように感じる。というか気づかされた」
『誰になのだ?』
「シャーロットだ」
これには全員が驚き、目を大きく見開いた。
「さっき言ったように詳しい話は省くんだが…………今後は緊急の用以外の時はこういう森みたいなところを突っ切るんじゃなくて、ちゃんと整備された道を通れ、そう言われたんだ。その行為は互いを危険に晒していることと同義ですわ……ってな」
俺の言葉にみんながハッとする。
「…………確かに。一種の慢心だった。」
「うん……言われてみたらそうだよね。私はみんなに酷い目に遭ってほしくないのに……」
「シャーロットの言う通りや…………うちは、仲間を危険に晒していたんやな……」
『ふん! 誇り高き神獣であるわがはいが全てを守れば良いだけでがはぁ』
アナの頭に拳が降り注ぐ。
「そういうところ。だからあの戦いで負けたんだよ。」
『あの戦い? あの戦いとはなんなのだ?』
「…………あれ。言われてみれば。あの戦いってなんだっけ。忘れちゃった。」
『全く……わがはいたちが負けるわけなかろうなのだ』
「それはない。そういう慢心が仲間を危険に晒している。今エルがそう言ったじゃん? 分かってないの?」
『うぐ…………き、気をつけるのだ……』
…………みんな、真剣に考えてくれている。
それだけみんな仲間を想っているように感じられて、こんな状況だが胸が暖かくなった。
「急いでいるのに足を止めてごめん! 急いでいる今だからこそ言いたかったんだ」
「ううん、今聞いてよかったよ。ちょうどその危険な道を通ってるわけだし……」
「せやね。見ず知らずのうちらにアドバイスをくれたシャーロットに感謝や」
『わがはいにはそんなのいらな……』
「じー。」
『貴重なアドバイスありがとなのだ酒場の娘ぇぇぇぇぇぇ鉄拳はやめるのだベルぅぅぅぅぅぅ!!』
「ギリギリセーフ。」
なんというか、懲りないな。
「それはそうと、今の話だと……確か緊急の時には森を突っ切ってもしょうがないってことだよね?」
「そうだな。でも、本当に緊急の時だけだ」
「だよね。今の話を聞いたばっかりでちょっと反省してないみたいだけど…………」
メアリスはくるりと一回転し、小悪魔的な笑みをこちらに向ける。
「今って、緊急の用だよね? あ、みんなの事を大事にしてないわけじゃないよ!?」
「分かってる。メアリスがそんなことするはずない。」
「えへへー、ありがと!」
「人助け……いや、原初の種助けか? 一刻を争う事態ではあるんやし…………どうや、リーダー?」
「……そうだな。悪い人間に捕まってからだと遅い」
できる限り森を突っ切るようなことはしたくなかったんだが…………
「困っている人を放っておくわけにはいかないな」
『そうこなくては! なのだ!』
「その代わり! マリエスタに着くまで絶対に油断しないように! 急いでも魔物の気配により敏感になること! 原初の種を助けることももちろん大事だが、自分の身と仲間の身を一番に考えること! 慎重に、が合言葉だ!」
「「「『合点承知之助!!』」」」
◇◇◇◇◇
「ねぇ、シガー。そろそろなにか良いことが起こるよ」
「つまんねぇ励ましだな」
考えるだけで頭が痛くなるほど広い海。
そこには一人の少女と謎の鳥が一匹。
「もう! せっかくわたしが励ましてるのに! もう怒っちゃうよ! ぷんぷん!」
「ったく……相変わらずめんどうくせぇやつだな」
「今回は本当に良いことが起こるの!」
「なんでそう言えるんだよ」
謎の鳥はムムム……と考え始める。
「キュピーン!」
自分で思いついた効果音を口に出し、笑顔を少女に向けた。
「…………なんだか……暖かい力を感じるの! あの方みたいな!」
「あの方? 誰だそいつ」
「えーっと、それはねー…………あれ、分かんなくなっちゃった」
「なんだよ、やっぱりお前はめんどくせぇな」
「なーっ!! わたしだってねぇ……──────」




