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故郷を失った少年、最強絵画の少女とともに冒険者をする (打ち切り)  作者: いちかわ
情報屋兼酒場『晩杯屋』ですわー!
108/133

第96話 よく分かんないけど負け?



──────



「…………うぅ……。」

『な、なのだ……』


…………ここは……晩杯屋。

そして…………


「ベルたちの。負け。」

「えぇ、ベルさま、アナさま。敗北でございますわ」


でも…………


「なにも。覚えていない。」

「えぇ。ですが、ベルさまたちの負けですわ」

『だが、なぜかなんだか妙に納得出来る敗北なのだ』

「うん。聞きたいことがあったけど……今は旅を優先しないと。」

『うむ、質問はまた今度でいいのだ』

「おほほ、次の機会になんでも質問してくださいですわー!」

「笑い方。変わった?」


傍から見ると、あまりにも不自然である。

先程まで必死に尋問していたはずなのに、急にそれをやめてしまった。

これが……


(これが、闇のゲームという魔法ですわ)


「わたくしがお見送り致しますので、お嬢様は部屋にお戻りください」

「うーん…………いえ、わたくしもお見送りしますわ」


シャーロットは少し迷う素振りを見せながらも、エルたちの見送りをすることにした。



「わざわざ。ありがとう。」

『感謝なのだ!』


一人と一匹は軽く礼をしてドアノブに手をかけ、開ける。


「あ、ベル。おかえり、話は済んだか?」


ドアを開けると、エルが優しい笑顔で出迎えてくれる。

それを見てベルはやはり表情一つ動かさずにエルの横に立つ。


「うん。済んでないけど大人しく旅にもどる。」

「うん? え?」

『こやつはなにか意味わからんことを言っているだけなのだ。話は済んだから旅にもどるのだ!』

「そ、そうか? まぁベルとアナがそれでいいなら…………」


うーん、なにか変な気がするんだけど。

気のせいだろうか?


「情報屋兼酒場、晩杯屋のご利用ありがとうございました」


俺がベルの違和感について考えていると、バトラーが礼儀正しく礼をしてくれた。


「そういえばここは情報屋だったな。楽しい話も良いけど、なにか聞くべきだったな」

「では、最後に情報屋らしく有益な情報を二つ! お渡ししますわ!」


シャーロットが晩杯屋の中から話しかけてくる。

壁際から顔を覗かせるように出していて、ちょっと可愛いと思ってしまった。

俺はそんな気持ちを一旦引っ込め、俺はシャーロットにその情報とやらを聞くことにした。


「なんだ? ぜひ聞かせてくれ」


その願いに対してシャーロットは笑顔で首を縦に降り、口を開く。


「エルさま方、マリエスタに行くのですわよね?」

「あぁ、そうだな」

「海って初めて見るよー! 楽しみだなぁ!」


メアリスは笑顔でそう言う。

傍から見ても一瞬ではしゃいでいることが分かる挙動だ。


「そのマリエスタに、勇者様がいらしているのですわー!」

「へぇ~! 勇者様か!」


シャーロットと俺の言葉を聞くと、メアリスの顔は笑顔からハテナ顔に変わる。


「勇者? エル、勇者ってなに?」

「うちもあんまり詳しいことは知らへんなぁ」

「じゃあ、それはマリエスタの道程で説明するよ」


そんな俺たちの様子を見て、シャーロットは穏やかな笑みを浮かべながら次の情報を話す。


「そして二つ目の情報ですが…………この情報はすごいですわ」

「なんだろう。」

「大魔王接近中! とか?」

「シャレにならないからそれだけは勘弁して欲しいな……」


俺たちがうーんうーんと考えていると、シャーロットが指を振り……


「ちっちっち、違いますわ! 今マリエスタは今言うことの話題で持ち切りなのですわよー!」

「勇者よりも大きな話題。気になる。」


勇者といえば、この世界で唯一無二の魔王を倒せる人間。

そんなすごい人が訪れていること以上にすごい話題とはなんだろう?


というか、ベルは勇者様のことを知っているのか。


「それでそれで!? その情報ってなに? 楽しみすぎて朝昼晩しか寝れないよー!」

「一日中寝とるやないか!?」

「ふっふっふー、その情報とはですわねぇ……」


シャーロットがドラムを叩く時のように指をパタパタさせ、口でドゥルルルルルル…………と自分で効果音をつけて焦らしてくる。


「だだん!! なんと! 今現在、マリエスタでは原初の種(オリジン)の目撃情報が多数あるのですわー!」

「なっ」

「おー! それはすごい!」


原初の種が……人間の街に……!?

そんな事が有り得るのか……!?


そんな俺の驚きをよそにシャーロットは話を続ける。


「その目撃情報が冒険者たちを駆り立て、仲間にしようと思う者も居れば……捕まえて売ろうとする者までたくさんいるのですわ」

「捕まえるやって!?」

「ひどい! そんなの許せないよ! エル、早くその原初の種を助けにいかなきゃ!」

「…………そうだな……こんな話を聞いたら放っておけない。シャーロット、その原初の種はどこで目撃されているんだ?」

「主に海の浅瀬で目撃されていますわ。ですが……」

「ですが?」

「証言によると、視界に入れてから少しでも目を離せば綺麗さっぱりいなくなってしまうとか」

「な、なんだそれ…………」

「不思議。」


やっぱり原初の種には驚かされることばかりだな…………


だが、今はまだ無事でも時間が経てばどうなるかは分からない。


そもそも里でもなければ一箇所に原初の種が留まること自体がほぼないのだ。


もしかしたらベルのように里を抜け出してきたのかもしれないし、メアリスのように閉じ込められる等でずっとそこにいるのかもしれない。


「ありがとうシャーロット。最後はこんな慌ただしくて申し訳ないけど……」

「いいのですわー! 原初の種であろうと積極的に助けようとするその姿勢、わたくしは好みですわ。いってらっしゃいませ」

「ご武運を祈っております」

「バトラーさんもありがとう。また、会えるといいな」

「えぇ……そうですわね」

「エールー! 早く行こ! 原初の種が人間なんかに捕まっちゃう前に!」


メアリスが急かすようにその場でエアーランニングをする。


「俺も人間なんだけど…………それじゃあ、またな二人とも!」

「えぇ、またお会いしましょうですわー!」

「あぁ!」


俺はシャーロットの言葉に返事をし、メアリスたちを追いかける。

シャーロットとバトラーは俺の背中が見えなくなるまで、じーっと見つめていた。


「…………彼ら、大丈夫でしょうか」

「なにがですの?」

「マリエスタに行く理由、それは分かりませんが…………船を使うということは秘宝を求めているのでしょう。わたくしの調査では少々面倒な輩が秘宝を狙っているようですし…………実力不足ではないでしょうか」

「いえ……その問題はありませんわ。正確に言えば最もメジャーなあの秘宝ではなく、場所の記憶を見る魔道具…………おそらくエルさまはそれを求めていますわ」

「なぜ分かるのです?」

「それは……エルさまが()()()出身唯一の生き残りだから、ですわ。それに、たとえその輩に出くわそうとも、エルさまたちなら勝てると信じておりますわ」


シャーロットはエルの背中が見えなくなったのを確認し、晩杯屋の奥へ消えていった。

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