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故郷を失った少年、最強絵画の少女とともに冒険者をする (打ち切り)  作者: いちかわ
情報屋兼酒場『晩杯屋』ですわー!
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第95話 闇のゲーム・3

「まだまだ行きますわよー!」


シャーロットは弦楽器の形に変化した鎌を弾きまくり、赤黒い音符を生み出す。

そしてそれをベルとアナに向けて飛ばす。


「フレス・チェイン・ファスガ。」


ベルとアナは素早く飛び上がり、音符の嵐を避けていく。

しかし……


「あ、危ないのだ!」

「マジックバリア。」


ベルとアナは避け切ることが出来ず、一部を受ける判断をした。


「そんな壁なんて、ないのと同じですわー!」


それはどういう意味なのか。

なんと音符の弾はベルの魔法障壁をすり抜け……


「えっ。」

「なのだっ!?」


直撃。

ここで初めての被弾である。

ファーストアタックはシャーロットに取られてしまった。


「うっ……。くらった。痛い。」

「ギザギザしててすごく痛かったのだ!」

「それにしては元気。もしかして。M?」

「そんなわけないのだぁーっ!!」

「お。図星の反応。」

「なんでそうなるのだ!?」


この一人と一匹のふざけ具合はいつもと変わらずだが、その身体は一度被弾しただけでボロボロで、先程までのオーラは感じられない。


(ここまで実力差があるなんて……。)


正直、ベルはシャーロットたちを甘く見ていた。

いや、甘く見ていたというよりは考えないようにしていたのだ。


「あんなに楽な代償…………。何かあるに決まってる。」


あまりに大きな実力差。

ベルはすでに、闇のゲームというあまりに理不尽な性質をもつ魔法の時点で察し始めていた。

シャーロットはおろか、バトラーにすら敵わないと。


「…………。」

「いつまで負けることばかり考えているのだっ! ベル!!」

「アナ…………。」


アナが鎧姿のままベルに怒鳴る。


「わがはいは誇り高き神獣なのだぞ! このわがはいが負けることなど有り得ないのだ!」

「アナ。それは……。」

「冗談で言っているつもりはないのだ。わがはいは必ずこの戦いに勝利するのだ。そう確信しているのだ。なぜか、ベルに分かるかなのだ?」

「…………なんで?」

「なぜなのかというとなのだ……」


アナはフッハッハと笑い始め、腕を組む。


「分からないのだ!! フッハッハッハ!」

「…………。」


ベルは気持ちいいくらいの大笑いをするアナを見てパチパチと瞬きする。

そんな彼女の顔はどことなく笑顔のように見える。


「なぜかは分からないのだ! だが、わがはいには帰らねばならぬ場所があるのだ! ベルも同じであろう」

「…………そう。だね。ベルが。主と認めた……エルのもとに。仲間(家族)のもとに。」

「そう! わがはいたちはあやつらの元へ()()()帰らなければならないのだ! つまり……」

「こんなところで…………負けられない!」


ベルは身体という身体に残った全てのエネルギーを全てを放ち、シャーロットに向き合う。

そのエネルギーは目に見えるほどに、ベルの身体を輝かせていた。


「シャーロット…………ベルは。ベルたちは負けない。覚悟して。」

「うむ! それでこそ我が盟友! ベル、貴様がやるというのならば、わがはいもそれに続くだけなのだ!!」

「おーふっほっふ! いいですわ! 来なさい! わたくしが全て受け止めて差し上げますわ!!」


笑い方の定まっていないシャーロットが弦楽器となった鎌を向けてそう言い放ち、シャーロットもオーラを放つ!

深く、闇の感じられる紫と赤。

夜と対峙したのではないかと思うほどに、そのオーラには底が見えない。


「一撃で…………決める。アナ。全力。」

「合点承知之助なのだ!!」

「その心意気……いいですわ! わたくしも正面から、本気でぶつかりますわよ!!」


互いに力を練りあい、鋭い視線が交差する。


「…………シャーロット。正直。ここまで戦って。あなたは酷い人では無いと思った。外道では無いと思った。」

「わがはいは最初からそう言っていたのだ……」

「アナは簡単に信じすぎ。」


それを聞いてシャーロットが不敵な笑みを浮かべる。


「そうですわね。わたくしに負けて記憶を失うことですし、教えて差しあげてもかまいませんわよ?」

「いいや。ベルは勝って。シャーロットに直接聞く。それに。まだベルはシャーロットを信じきってはいない。負けたら死ぬ。その覚悟で戦っている。」

「全く、相変わらず頭がかたいやつなのだ」


アナがやれやれという感じでベルを見る。


「…………本当に、わたくしに勝つ気で…………ふふ、そう遠くはないかもしれませんわね」

「なにが?」

「あら、わたくしに直接勝って聞くのではありませんの?」

「くすくす。そうだね。」


互いに負けられない戦い。

その火蓋を切ったのは…………シャーロットだ。


「あぁ、満月(つき)よ。その幻想に隠れた素顔を我に描かせたまえ。夜の王たる我が円舞曲(ワルツ)、とくと聴くが良い」


その詠唱で、弦楽器のような形だったシャーロットの鎌はピアノに形を変える。


そのタイミングでベルとアナは詠唱に入る。


「「森羅万象を照らし出す神の光よ、この世を愛し、命を重んじる心を以て命ずる。光よ、我が道を照らし出せ!」」


その刹那、空気が揺れた。


「「私だけの道(オンリーマイ・ウェイ)神ノ光(イルミネイティドゥ)・チェイン・クリスタルエッジ・チェイン・プラズマバスター・チェイン・フローズンダイヤモンド・チェイン・ボルケーノバースト!」」


ベルとアナ、二人の全力をその一撃に込める。

五つもの魔法の合わさった連鎖魔法は今までのものとは次元が違う。

神の光に照らされた超級、上級魔法たち。

それらが融合し、シャーロットにくらいつこうとする。

それはまさに、神の一撃。

何者にも貫けない一撃………………


…………そのはずだった


「残念ながら、ベルさまもアナさまもまだまだですわ」


そう言いながらシャーロットはピアノ鍵に指を置く。

すると、背中から黒い何かが飛び出した。


「月夜の流麗なる大円舞曲(ワルツ)終焉(フィナーレ)


シャーロットが鍵を叩いた。


その瞬間、空間が満月の夜へと姿を変える。

寂しい夜に響く妖艶な音色は波紋のように広がり、瞬く間にこの空間を満たした。


「わたくしに挑戦するにはまだ早かったというわけですわ。では…………ごきげんよう」

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