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故郷を失った少年、最強絵画の少女とともに冒険者をする (打ち切り)  作者: いちかわ
情報屋兼酒場『晩杯屋』ですわー!
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第92話 勘づいた精霊

「ありがとう二人とも、泊めてくれてすごく助かったよ」

「とんでもありません」

「お安い御用なのですわー!」


二人はそう言いながら深々と頭を下げる。


「また会えたらいいね!」

「せやねー! 料理もホンマにうまかったし、ベットもフカフカで最高やったし……何度でも来たいくらいやわー」

「あらあら、それは光栄ですわー! ところで皆様、船の使い方は覚えられました?」

「あぁ、ばっちりだ。でも本当に……こんなすごいものを貰ってもいいのか?」


そんな俺の問いに、シャーロットは勢いよく首を縦に振る。


「えぇ、えぇ。何度も言っている通りですわ。わたくしにとってはいらないものでしたし! それならば、ちゃんと使ってくださる方の元にあった方が、その道具も幸せでしょう」

「…………。」

「そうか? でも、いつか必ずこの恩は返すから、待っててくれ」

「ふふ、楽しみにしていますわー!」

「それじゃあ……またな」

「えぇ、いつか、必ずお会いしましょう」

「どうか、ご武運を」

「うん! 二人もね!」

「営業がんばれやで!」

「キュイ! (また来てやってもよいのだ!)」

「…………。」

「ベル?」


さっきからどうしたのだろう……?

ベルがずっと黙りこくっているし、いつもは読み取れる感情も読み取れない。


「…………エル。ベルはこの二人に話したいことがある。先に行ってて。」

「いや、一人じゃ危ないし……置いていくことはできない。それに……」

「マーキング。」


ベルが俺に人差し指を向け、そこからなにかを発射する。

思わず身構えてしまうも……特に何も起こらない。


「今。エルに印をつけた。これで迷うことはない。」

「いや……でも…………」

「心配なのであれば、わたくしがエル様の所までついていきますよ」

「お願い。これは必要なこと。」


……………………もし、ベルを置いていってしまったら……


『…………エルさま、単刀直入に言わせてもらいますと……あなたはおバカさんですわ』


……………………


『それはあなたの大切な仲間を危険に曝す行為と同義なのですわよ?』


「…………はぁ、分かった。どうせベルもやめろと言ったところでやめないだろう?」

「うん。当然。だから。エルたちは先に……。」

「いや、先には行かないよ。俺たちはここで待ってる」

「え。いや……。それだと……。」

「シャーロットたちと内緒の話がしたいなら外で待ってるよ。確かに、そろそろ出発したい時間だけど…………最優先するべきは仲間だろう? 話したいことがあるならゆっくり話して大丈夫だぞ」


ベルは目をぱちぱちし、謎のポーズを取りながらこちらに顔を向ける。


「ありがとう。」

「…………どう……いたしまして?」


なんだかつっこんではいけない気がして、普通に返した。


「…………ふふ、流石ですわ」

「…………。」

「では、他の皆様は一度寝室に戻られますか?」

「いや、外で待ってるよ。気遣いありがとう、バトラー」

「いえ、お気になさらず」

「…………。」



──────ガチャン



俺たちはベルの方をちらりと見てから、晩杯屋の外に出た。


「…………」

「…………」

「…………。」


ベル、シャーロット、バトラーだけがいる空間。

その空間の空気は決して穏やかとはいえないものだ。


「…………ベル様、わたくしたちにお話したいこととはなんでしょうか?」

「…………単刀直入に言う。ベルたちに何をした?」


淡々と、ベルはそう言った。

相変わらず表情はピクリともしないが、彼女から放たれている圧はとんでもない。


「あらあら…………鋭いですわね、ベルさま」


誤魔化されると思っていたのか、ベルの眉が狭まる。


「…………でも。一歩遅かった。もう。飲んでしまった。」

「そうですわね。あなた方は、わたくしの出した葡萄酒を飲みましたわね」

「…………あれに入っていたもの。何。」

「うふふ、悪いものではございませんのよ?」

「信じられない。」

「まぁ、そうですわよね。言ったところで証拠がありませんもの」


ベルは目を閉じ、大きく深呼吸をし…………


「もう一度聞く。」


自分の中にある感情を全て外へと押し出した。


「ベルたちに飲ませたもの。何?」

「うふふ…………」


シャーロットはそれに物怖じしていないのか、ニコニコ顔のまま口の周りをぺろりと舐めた。


「教えない…………と言ったら?」

「力づく。」

「あらあら…………流石は原初の種(オリジン)ですわね」

「…………!!」


あの表情を滅多に動かすことの無いベルが、歯をガリッと噛みしめ、焦りに表情を変化させる。


「あら? あらあら? 随分と焦っているようですわね」

「…………やっぱり。只者じゃなかった。…………ベルたちをどうする気?」

「そう素直に質問に答えるとお思いで?」

「う……。」


先程までベルが握っていたこの場の空気は、あっという間にシャーロットのものとなってしまう。


原初の種であるベルの覇気がここまで通用しない……

そして、ベルはその底も視ることも叶わない。


(まずい。エルたちを呼ぶ? ベルはベル自身の実力を理解している。ベルが。その辺りの人間なんかに負けるわけない。なら。シャーロットはなに? バトラーも只者じゃない。せめて。アナが居れば…………それとも。逃げる?)


実はベルは、エルのパーティの中で一番の頭脳派だ。

すぐに最適解を閃き、それを難なく実行してきた。

そんな彼女だからこそ、ここまで解決策が導くのが難しい状況に慣れていないのだ。


「…………お嬢様、流石に意地悪が過ぎるのでは?」

「…………いいえ、わたくしはまだまだ楽しみたいですわー! バトラー、あれの準備をなさい!」

「…………かしこまりました」


バトラーは渋々シャーロットの要求を聞き入れ、右手を上に挙げる。


(なにか来る。)


ベルは自身を魔力で覆い、魔法を構える。


「…………おいでませ、アナ様」

『な!? な!? なんなのだ!? や、やめ、やめるのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?』


アナの声…………!?

まさか。外の皆が…………。


「イグニートフレア。」


ベルは扉を破壊しようと、火属性の魔法で攻撃する。

だが…………


「させません」


バトラーが扉に手を向ける。


「う……。うそ……。」


ベルの魔法は扉に直撃……したはずだった。

しかし扉には傷一つつくどころか、火の粉すらも届かない。


精霊族であるベルの魔法を、手を向けただけで無効化してしまう。

その行動ひとつで、バトラーの実力が証明されていた。


そして…………


『あづっ!? あつい! やめるのだぁぁぁあ!!?』

「わふ。」


ベルに何かが直撃し、床にばたんと倒れる。


『うぅ…………酷い目に遭ったのだ…………。ここはどこなのだ?』

「アナ。なんでアナがここに?」

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