第91話 差し上げますわー!
「皆様方、朝ですわよー!!」
シャーロットは鉄の板をバンバンと叩き、寝室内に轟音を響かせる。
「わーっ!? なんや!? 敵か!?」
「ふわぁ~…………ベルはまだ眠い。あれ。アナ?」
『あ…………あ……』
アナは人間より何倍も優れた聴覚を持っているので、手で耳を塞ぎ、頭を抱えて悶えている。
「返事がない。ただの屍のようだ。」
「うぅ、今までありがとうアナ……」
「あの時アナから横取りしたお肉、美味しかったよ……」
『貴様だったのか絵の娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
「なんでそれで復活するんや!? 食い意地張りすぎやろ!?」
そんなメディアスのツッコミとともに、俺たちは騒がしい朝を迎えた。
そんな盛り上がりをよそに、メアリスは戸惑うように辺りを見回す。
「というか、あれ? ここってどこ?」
「晩杯屋の寝室だよ」
「お酒を飲んで眠ってしまっていたので、わたくしたちがお運び致しました」
いつから居たのか、バトラーが現れてそう教えてくれた。
「わざわざ。さんきゅー。」
「とんでもありません」
『待つのだぁぁぁぁぁぁ!!! 絵の娘ぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
「やっだよー! あっかんべー!」
『ぷ、ぷじゃけるなぁぁぁぁぁあげはぁ!?』
「いつまでも見苦しいことしない。」
かなりの速度でメアリスを追いかけていたアナに、ベルの鉄拳が降り注いだ。
「うわ……今の、結構いったで…………」
「うぅ。一体誰が。」
「あんたやろベル!?」
「メディアス、擦り付けはよくないよ?」
「あぁ、罪はしっかり認めた方がいいぞ?」
「なんでうちなん!? ベルやろ!?」
「なんてキレのいいツッコミ…………わたくしも負けていられませんわー!」
「なんでこんなんで戦慄されなあかんのや!?」
この状況にシャーロットも参加し、更にカオスな状況になってしまった。
そろそろ本格的に収拾がつかなくなるころだろう。
「お嬢様、このようにふざけていては皆様を早く起こした意味がありませんよ?」
そんな空気を察したのか、バトラーがシャーロットに声を掛けた。
「あら、確かにそうですわね。もっとお話したかったのだけれど……仕方ないですわ」
そう言いながらシャーロットはどこかに歩いていき、姿を消してしまった。
「皆様、朝ごはんをご用意いたしました。ここを発つ前にぜひお召し上がりください」
『「ごはん!? 早く言ってよ! (なのだ!)」』
バトラーの言葉を聞くと、メアリスとアナは凄まじい速さで寝室を出ていった。
「ごはんは逃げませんので、転んだりしないよう……」
『のわー!? なのだー!?』
──────ガシャンガシャァァン
アナが凄まじい勢いでずっこけ、お皿やグラスの入っている棚に突っ込む。
当然、グラスは砕け散り、綺麗な柄が描かれていたお皿もぱっくりと割れてしまっていた。
俺はそんな惨状を目にし、思わず頭を抱える。
「バトラーさん……すいません……手遅れでした…………」
「問題ありません。お嬢様が招いたお客様を無下には出来ませんので」
「本当にすいません……必ず弁償するので…………」
「弁償などっ……っとと…………いりませんわー!」
そんな声の方へ顔を向けると…………
「しゃ、シャーロット…………? なんだ、その大きいものは……?」
とても大きなものを運んでいるシャーロットが居た。
「シャイレーツに行くのでしょう? 船ですわよ?」
「ふ、船って……え?」
「あら? バトラー、確か船が必要と言っていましたわよね? 」
「そうですね。わたくしがいい伝手があるとお教えし、ここにご案内しました」
「……そうですわよ?」
いや、シャーロットはその場に居なかっただろう。
「確かに言われたことは言われたけど…………そんなええもん貰ってええの?」
「えぇ、えぇ。それはもちろんですわ。なにせわたくしは……」
「わたくしは。なに?」
ベルが少しだけ怪訝そうな顔をしてシャーロットを見る。
それに対してシャーロットはニコッと笑顔を浮かべ、大きく口を開いた。
「なんでもありませんわー!」
「…………ふーん。分かった。船をくれて。ありがとう。」
ほんの数瞬、重苦しい空気が流れた。
「どういたしまして、ですわー!」
「エル。メディアス。ベルたちも朝ごはん食べに行こ。」
「せ、せやな」
「……シャーロット、船、ありがとう」
「わたくしにそんなお礼の言葉などもったいないですわー! 遠慮せず受け取ってくださいまし!」
◇◇◇◇◇
「…………ふぅ、中々に骨が折れますね」
心地よい潮風が流れ込んでくる砂浜。
そこに、ある男はいた。
「さっさと秘宝を渡して洗脳されればいいものを…………とんだ手間でしたね」
そう言うと、男は倒れているドラゴンを足で踏みつける。
「ぐっ…………」
「秘宝の場所はどこですか? 早く言わなければ……どうなるかはお分かりでしょう」
──────ザァァァ……
響くのは、波の音だけ。
たとえ踏みつけられていても、ドラゴンはなにも発さない。
「…………はぁ、非常に面倒ですね。記憶操作の類は効かないようですし…………仕方がない、洗脳して駒にするとしますか」
「…………!! ぐおぉ……!」
「おっと、あなたは寝ていてください」
男は脚を思い切り振り上げ、ドラゴンの首に踵を落とした。
「がはっ…………!?」
ドラゴンは恨めしそうに男を睨みつけながら、その意識を闇に落とした。
「はぁ……番人といえどこの程度ですか。張り合いがありませんね。がっかりです。この程度の強さではあの男たちを倒すには至らな…………む?」
男がなにかを感じ、視線を向けると、そこには不気味な鳥が一羽。
男の方へ飛んできている。
「おや、なにか新しい指令でしょうか?」
男は鳥の持っている包みを手に取り、開封しはじめた。
「このタイミングで一体何が………………おや、これは中々使えますね。クフ、クフフフフフフフフ」
◇◇◇◇◇
「あ~…………めんどうくせぇ」
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