第88話 この力は……
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「なんだか、すっごく仲が良さそうだね! 師匠と弟子の関係っていいなぁ」
「卵焼きのためにがんばるエル……かわいい。」
「いや、これはだな……母さんの卵焼きが美味すぎるのがいけないんだ」
「結局かわいいやんけ」
『これではどこかの絵画と同じくらい子どもなのだ』
「ア~ナ~?」
『な、なんでもありませんなのだ!!』
アナがとんでもない勢いで土下座をする。
その姿からは神獣の誇り高き姿とやらは微塵も感じることはできない。
「素晴らしい親子だったのですわね。その後、卵焼きはゲットできたんですの?」
「あぁ、あの後父さんがな…………」
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「────そしたらエルがな、魔法剣を発動させたんだよ!」
「そうなの!? すごいじゃない! 母さんの卵焼きのためにそんなにがんばってくれるなんて……全くもう! エルはかわいいんだからー!」
「お、おかあさん……くるしい…………」
「あら私ったら、ごめんなさいねエル」
母親は我が子の苦しみの訴えを聞き、抱き潰していた息子を解放した。
少年は解放されると、よろよろとふらついてしまう。
だが、その表情はマイナスのものではない。
親の愛情を真正面から受け止める、心優しい子の顔である。
「父さんに一撃入れることは出来なかったが、今日は特別だ。父さんの分の卵焼きをやろう」
「ホント!? やったー!!」
少年は喜びを心の内に収めきれず、家中をぴょんぴょんと跳ね、駆け回っている。
それを見守る親の顔も、また心優しいものであった。
しかし、その表情の中には…………
「…………こんなかわいい子に……重い、責務を背負わせてしまったな……」
「…………オーウェン、これは私たちの決めたこと。なら、私たちは私たちのやるべきことをやらなければならないわ」
「…………そうだな、アメリア」
「おとうさん? おかあさん?」
少年は空気の違いを読み取ったのか、疑問符を浮かべて二人を見る。
母親はそれに対してすぐに笑顔を貼り付けた。
「なんでもないわ。さぁ、美味しい卵焼きのために母さん張り切っちゃうわよー!」
「…………?」
少年はその笑顔の裏に、なにかを感じ取っていた。
だが、踏み込んではいけない気がして、その違和感は心の中に留めておくことにした。
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「我が子のために美味しい料理を作る母親……素晴らしいですわ~!」
シャーロットが大きな声をあげてそう言う。
心の底から俺の母さんを賞賛しているようだ。
「エルの母上。ベルの母上みたいなところあるかも。ベルもよく抱き潰されてた。」
「幸せなんか幸せじゃないんか……微妙なラインやな」
「今となっては、俺はあれは幸せだったって言えるかな」
「大人になってから親の愛情に気づく、恋しく感じるというのはありがちですわよね」
「確かに、それもあるかもしれないけど……」
そんな感じで気づいた、というよりは…………
「エル?」
「あっ……ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「…………話したくない?」
「いや、別にそんなことは……」
「無理、しなくていいんだよ?」
……すごいな、メアリスは…………
俺の僅かな悲しい感情を読み取ったのか?
みんなも少し心配そうな顔をしてこちらを見つめている。
「少ししんみりするかもしれないけど……でも、いずれはみんなに知って欲しいことだから、話させてくれ」
「……わかった」
俺はメアリスの言葉を聞いてから、いつの間にか出されていたカウンターのお酒を一気に飲み干して口を開いた。
「実は、俺の両親は…………もう…………──────」
◆◆◆◆◆
「襲撃だぁっ! 襲撃だぁっ! 住民は即刻避難せよ!」
しゅうげき…………しゅうげき!?
しゅうげきって…………なんだろう?
わかんないけど……なんだかいやなよかんがする。
でも、いまは……お母さんも、お父さんもいない…………
どうしよう? どうしよう?
「や、やめてくれぇぇぇぇぇ!!」
「たすけてえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「!!」
ひめい…………!?
すごく、くるしそうなこえ…………
「お父さん…………お母さん…………」
こわい。こわい。
こわい…………けど…………
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「うぅぅ……もうたたかいたくないよ…………」
「…………いいか? エル。お前は強い。とっても強い子だ」
「ふぇ?」
とつぜん…………なんだろう?
まだおけいこのとちゅうなのに。
「お前は……強い力を持つ者が何をするべきか、分かるか?」
その問いかけに、少年は数秒固まってしまう。
「えーっと…………まもる?」
「そうだ。強い力を持つ者は、力を持たない者を助けるために居るんだ。そして、エル。お前はとても強い力を持っているんだ」
「だから……たたかうの?」
「……………………そうだ」
少年はしっかりと父親の言葉を胸に刻み……
「…………がんばる」
決意の言葉を口にした。
「いい子だ」
おとうさんはおれのあたまをやさしくなでる。
ふだんのわしゃわしゃとはおおちがいだ。
「…………エル」
「なに?」
「……この言葉を覚えておいてくれ。お前の持つ力……それは、『仲間を守るためにあるもの』。これを覚えておいてくれ」
「うん。わかった!」
「偉いぞ、エル」
おとうさんはまたおれのあたまをなでる。
そのてはとてもあったかくて、ねむってしまいそうになる。
◆◆◆◆◆
「このちからは……なかまをまもるためにあるもの…………」
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