第10話 虹色の閃き
「どうしたんだ? アクス……!?」
「これは……白黒……だね」
何故か、アトリエ内は白黒だ。
色がない、という表現が正しいだろうか?
建物にも色はあるし、周りの木々は当然緑色だ。
「なにかある……と考えるのが妥当だな」
アクスは俺たちを手で制止し、警戒しながらアトリエに足を踏み入れる。
すると、驚くべきことが起きた。
「うお!? 足が……!?」
アクスの足が、アトリエに入った部分のみ白黒に変化してしまったのだ。
アクスは慌てて足をアトリエから出すと、元の色に戻った。
「これは……魔法、なのか?」
「こんなの見たことないな……メアリスはなにか分かるか?」
「私も、こんな魔法は知らない……」
メアリスならなにか分かるかも、と思ったのだけど……流石にそんな都合のいいことはないか。
「アクス、メアリス、入ろう。ここまで来たら引き返せない」
「そうだな……腹括るしかねぇか」
「そうね、みんなを助けるために、こんなところで止まってられないわ」
俺たちは三人同時にアトリエに一歩踏み出す。
するとやはりと言うべきか、全身が白黒になった。
アトリエというだけあって、キャンバスに染料、筆、パレット……創作に必要なものは全て揃っている。
それと……植物?
いや、植物なのか……?
葉は鎌のように不自然に曲がり、着いた実には渦巻きのような模様があり……白黒なのが不気味さに拍車をかけている。
「エル? その植物は毒があるから素手で触っちゃダメよ」
「そ、そうなのか、ありがとう。それにしても、なんでそんなものがあるんだ?」
「それを使って染料を作るんだよ。それで作れる色は……確か黄色だったはず」
「こ、これが……? 黄色……?」
この世の食材全てを混ぜ込んだ闇鍋のような黒い色をしていて……これから黄色の染料が作れるとは思えない。
だが、ソロウを傍で見てきたメアリスが言うのだからそうなのだろう……。
「メアリス、この引き出し、開けてもいいか?」
「いいわよ。今は時間がないし、許可なく開けちゃって大丈夫」
「了解」
引き出しを開けると、小さな直方体の箱が顔を覗かせた。
「綺麗だな……」
その箱はとてもカラフルで、様々な柄が描かれている。
ハート、水玉、星……たくさんの柄がある。
だが決してごちゃごちゃしているわけでなく、計算された美しさがある。
と、いうか……
「……ちょっと待てよ? なんでこれだけ色が……」
その箱は不思議なことに、白黒のアトリエの中でも色があるのである。
なにか重要なものに違いない。
持ち上げて色んな角度から観察してみる。
「お、これは……」
箱を開けられそうなでっぱりを発見した。
指でつまんで力を入れてみるが……
「……開かない、魔法でロックが掛かってる。」
魔法でロックが掛かっていた。
重要なもの物という可能性がさらに高まった。
なんとか魔法を解除したいが……
「エル……? それ、どこにあったの?」
メアリスはなんだかぼーっとした目で箱を見つめている。
視線がその箱に引き寄せられているように。
「この箱のことか? ここの引き出しだ」
「それ、貸してくれる?」
「あぁ、いいぞ。ただ、魔法でロックが掛かってるみたいで……」
メアリスが箱を持つ手に力を入れ、パカっと開けた。
「普通に開いたよ?」
「え?」
箱を凝視すると、ロックが解除されていた。
力づくで開けたわけではないようだ。
メアリスが解除したんだなと、今はそれで片付けておくことにした。
メアリスは箱の中に手を入れ、中身を掌に載せる。
「……これは、私の持ってるやつの色違いね」
箱から出てきたのは、メアリスがこのアトリエに入る鍵を作るのに使った球体の色違いだ。
橙、緑、藍、紫の四色だ。
この玉もこのアトリエの中だというのに色がある。
「たぶん、次も鍵の掛かったところを探すのがいいわよね?」
「そうだな、それが得策だと思う」
「それなら、ここにあるぞ。いかにもな引き出しがな」
アクスの指さした先には勉強机のようなものがあった。
その下に取り付けられた引き出しの鍵穴にはこれまた色があり、虹色に輝いていた。
「アクス、お手柄だな!」
「へへ、だろ?」
アクスが誇らしげな顔をする。
虹色の鍵穴か……そういえば、アトリエの鍵穴は赤青黄の三色だったな。
メアリスが作った鍵も、その三色だった。
……なら、この引き出しを開けるのに必要な鍵は……──────
「……メアリス、さっきの三色の鍵出してくれ」
「三色の……? あぁ、ここを開ける時に使ったやつね。ちょっと待って……」
メアリスがポケットから鍵を取り出した。
その鍵もまた、色がついていた。
「え……? これも?」
「その鍵とさっき見つけた四つの玉、最初鍵を作った時みたいに合わせられるか?」
「ん……やってみる」
メアリスは三色の鍵を玉の形状に戻す。
そして七つの玉を両手でこねるように合わせ、メアリスが手を開けば……
「すごい! 鍵ができたわ!」
白黒のアトリエで虹色の輝きを放つ、虹色の鍵が姿を現した。
それを見たアクスが俺に肩を回して背中をバンバン叩きながら豪快に笑う。
「すげぇなエル! お手柄だ!」
「えへへ……ありがとう」
背中が痛い……けど、それが気にならないくらい嬉しい。
こういう発想が冒険者になる上で大切だと、アクスに教えてもらったからな。
ちゃんと教えられたことを生かせている……ってことなのかな。
「敵が出てくる可能性もある。警戒しとけよ」
アクスは瞬時に切り替え、俺たちに注意喚起をする。
確かに閃いたことの嬉しさで警戒心が薄れていたかもしれない。
まだまだだったな。
俺は自分の甘さを噛み締めつつ、警戒のギアを一段上げた。
メアリスの方を見ると、深く呼吸をしてこちらも集中力を上げているみたいだ。
そうして目をぱっと開き、鍵穴の前に立つ。
「それじゃあ……開けるよ」
──────ガチャリ
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