彼はハンター
扉につけられた鈴がカランカランと音を鳴らして開かれる。
扉から入ってきた西日が冒険者ギルドにほんの少しだけ差し込む。
夕暮れ時は冒険者にとってもう仕事の時間ではない。
日が落ちると都市の門は閉められるし、魔物が活発化して少数パーティーの冒険者に取って危険な時間になってしまうからだ。
だからみな早朝に依頼を受けて昼過ぎに帰ってきて夕方は大概が酒場や娼館、自己研鑽にあたる。
夕暮れ時は人が出ていくことはあっても入ってくる時間ではないのだ。
だから中にまだいた人の殆どが顔を上げて扉の方を見た。
そこにはかなり大柄な種族でも余裕を持って入れるように大きく作られた扉を埋め尽くすほどに大きな板状の(よく見れば刃のようなものがついた)物を持っている小柄な人間がいた。
「あれは一体何なんですか?」
偶々この街に配達の依頼を受けてきた冒険者が話していた受付嬢に問う。
「はぁ...ハンターさんです」
呆れたような顔で受付嬢はため息混じりにそういった。
「狩人がこんなところに?」
冒険者の疑問は真っ当なもので、狩人は動物や時に魔物を狩ってその肉や皮を商会などに売って稼ぎを得ている市民のことであって、引退した冒険者がなることはあっても彼らが冒険者ギルドに来ることはない。
そもそも狩人は危険を犯してまで近接戦闘はしないで大体が弓矢を担いでいるのだ。
あんなに巨大なものを担ぐようなしょくぎょうではない、というかあんなに巨大なものを担いでいる人間など見たことがない。
理解できないと顔にありありと示している冒険者をみて受付嬢は更にため息を付いてこう言った。
「彼、勇者なんです...」