仲間に魔王のスパイがいる気がする
「みんな準備はいいか」
俺は勇者
レベル57の勇者
ついに魔王の部屋の前までたどり着いた
そんな勇者だ
今は仲間を鼓舞している真っ最中
「戦士。お前の攻撃力が突破口だ信用してるぞ」
屈強な体をもつ男が頷く
「魔法使い。お前の魔法にはいつも助けられたな」
可愛らしい少女が頷く
「賢者。お前の回復魔法と補助魔法が要になる。頼んだぞ」
美しい女性が頷く
「ゾンビ騎士。お前はタンク役だ。いつも攻撃を受けてくれてありがとう」
ゾンビ騎士は頷く
「……」
「……どうした勇者?この扉を開けば魔王がいるんだぜ」
「まさか、ビビったんじゃないでしょうね?」
「フフ、勇者様は面白いひと」
「ボクたちなら魔王様にも勝てます!」
「……」
俺は、扉から手を離した
ゾンビ騎士の前に立つ
顔は本当にゾンビのように血色が悪く
服からはチラチラと臓物のようなモノが見え隠れしている
「ゾンビ騎士って、もしかしてモンスター?」
俺が尋ねるとゾンビ騎士は、あっけらかんと答えた
「モンスターです」
あ、そうなんだ
ゾンビ騎士って愛称みたいなモノだと思っていた
「どうしたんだよ勇者」
「ゾンビ騎士がモンスターだからって私たちの絆は何も変わらないわ」
「フフ、勇者様は面白いひと」
「み、みんなぁ……ゾンビ騎士は感無量です」
しんみりとした空気が流れる
仲間は気のいい奴らである
しかし、嫌な予感がするのも事実
「能力上昇の木の実が消えたり、戦闘中に味方の方から攻撃が飛んできたり、行く先々で魔王軍に待ち伏せされたりすることが増えたんだけど。ゾンビ騎士お前魔王軍のスパイじゃないよな」
「……!!」
「ちょっと勇者!?何バカなこと言ってるの!?」
「フフ、勇者様は面白いひと」
「……何言ってるんですか!?……勇者さん!!」
仲間から非難の野次が飛ぶ
仕方のないことだ。俺だって仲間を疑うなんてしたくない
でも、味方にスパイがいればこのドアの先には待ち伏せのモンスターが大量にいることになる。仲間をそんな危険な目にあわせるわけにはいかない
「正直に答えてくれゾンビ騎士。能力上昇の木の実を食べたのはお前か?」
「疑うっていうんですか!!苦楽を共にした仲間を!!」
「一言だけ言ってくれれば信じる!!『俺は食べてない』そう言ってくれ!」
俺の怒号が廊下に響いた
重たい沈黙が流れたあとゾンビ騎士は言った
「ボクは誓って能力上昇の木の実を食べてません。見たこともありません」
「……!!」
「信じてたわ!ゾンビ騎士」
「フフ、勇者様は面白いひと」
ゾンビ騎士に対する賞賛の声が上がる
要らぬ疑いを仲間に向けてしまったが、強い結束を感じる
案外、これでよかったのかもしれない
俺は扉に向き直った
「みんな準備はいいか」
「もちろんだぜ!相棒」
「さっさと倒して、故郷に帰りましょう」
「フフ、勇者様は面白いひと」
「おぇ!!……ぐぅ」
ゾンビ騎士が能力上昇の木の実を吐き出した
能力上昇の木の実が俺たちの中心にころがった
「……!!」
「ゾンビ騎士!!……そんな!?」
ゾンビ騎士は慌ててそれを拾う
「ゾンビ騎士。木の実なんて見たことないって言ったよな?」
俺が聞くとゾンビ騎士は落ち込んだようにうつ向いた
「嘘だと言ってくれよ!!ゾンビ騎士」
戦士が叫ぶ
その声に応えるようにゾンビ騎士が語りはじめた
「皆さんの、お役に立とうと思ったんです」
「は?」
「私は体力だけが取り柄です。戦闘では攻撃も回復もできず皆さんの足を引っ張ってしまっています!!だから少しでも……少しでも魔王様との戦いでは皆さんの役に立てるようになればと思って!!」
ゾンビ騎士の悲痛な訴え
こころなしか彼の目に涙が溜まっているように見える
そういうことなら、吐き出した木の実が魔力を上昇させるゾンビ騎士の戦闘力とは関係のない木の実だということを差し引いてもカレを許さざるを得ないだろう
「戦闘で活躍するために万全を尽くす。そんなヤツを攻める人間がこのパーティにいると思うか?」
俺はキメ顔でそう言う
「……!!」
「さすが、勇者!!」
「フフ、勇者様はおもしろい人」
「勇者ぁ……!!」
仲間を信じられない奴が世界を救えるはずがない
和を乱していたのは俺だったのかもしれないな
俺は扉に向き直った
「みんな準備はいいか」
「俺の全力斬りが火を噴くぜ!!」
「私の氷魔法で氷漬けにしてやるわ!!」
「オェ!!」
ゾンビ騎士が賢者が話す前に毒の痰を吐き出した
「ボクもがんばります」
ゾンビ騎士は言うがオレはいぶかしげにゾンビ騎士を見る
「戦闘中に仲間のほうから飛んできた攻撃……確か毒の痰だったな」
「本当にどうしちまったんだよ勇者!!」
「まさか、怖気づいたんじゃないでしょうね」
「フフ、勇者様はおもしろい人」
俺は仲間の方に手を突き出し非難の声を強制終了させる
毒の痰はゾンビ系モンスターしか使えない
当時は仲間にモンスターがいるなんて思ってもいなかったが
今なら、何度も俺の背中に毒の痰を当てた犯人がわかる
「戦闘中に毒の痰で仲間を攻撃していた犯人はゾンビ騎士。お前だったんだな」
「……!!どういうことだよ勇者!オレは馬鹿だからわからなねぇよ!」
「そうよ、順を追って説明しなさいよね!!」
「フフ、勇者様はおもしろい人」
「これから魔王様との戦いですよ……!!ボクがそんなことするわけないじゃないですか!!」
「まず、ちょいちょい魔王様っていうのを止めろ!!」
「……!!」
俺の叫びが廊下にコダマした
すこし熱くなっているのかもしれない
しかし、どうやらスパイは見つかったようである
ゾンビ騎士はその場に座り込むと頭をブチリと引っこ抜いた
「信じてください」
ゾンビ騎士は言う
「魔王様は強力な力をもっています。魔王様を討つと決めたボクでも畏敬の念で様付けしてしまうほどに」
でも、とゾンビ騎士は続ける
「信じてください。攻撃の疑いを掛けられた頭部はここに置いていきます。ボクから……」
勇者パーティのタンク役という役目を奪わないでください
静かな声だった
しかし、胸に響く声である
「信じられないよ」
俺は言うと
ずんずんとゾンビ騎士に近寄り頭部を奪った
「目の見えてないタンク役なんて信じられない。しっかりしてくれよ。お前はウチのタンク役なんだからよ」
キメ顔でそう言い、頭部をゾンビ騎士の首の上に置いた
「……!!」
「かっこいいじゃない!!」
「フフ、勇者様はおもしろい人」
「勇者ぁ……!!」
ゾンビ騎士の頭部を首に置いた衝撃でゾンビ騎士の目がこぼれ落ちる
目はコロコロと転がると俺たちの中心で止まった
そして、目の黒目の部分から映写機のような光が放たれ
壁に映像を映し出した
その映像には、俺や戦士、魔法使い、賢者が映っている
目にはスピーカーの機能もあるのか
ゾンビ騎士のヒソヒソ声が響いた
「魔王様!!勇者の馬鹿は現在、魔王の城近くの平原にいます!チャンスです。襲撃しましょう」
「スパイじゃねぇか!!」
俺はゾンビ騎士を一刀両断した
◇
「くそ……どうして俺たちがくると分かった」
俺たちは膝をつく
魔王の部屋に入った瞬間に魔王の溜め攻撃をくらったのだ
「……普通に声、聞こえてたし」
魔王は馬鹿じゃないのかという顔で言った