だんだん世界観が解ってきた
一郎が召喚された世界は数百年前、全ての種族が神に与えられた各々の領土で、争うことなく平和に暮らしていた。
しかし人口が増え続ける人族の王様が、最も少数種族だった魔族の王様に、彼の領土を分け与えほしいと願い出たが、これを魔族の王様が拒んだことで、平和だった世界が激変する。
領分を弁えない人族に激怒した魔族の王様は、土塊に生命を与えて魔物を作り出すと、人族ばかりか全ての種族と戦争を開始したのである。
人族の王様は、エルフ、ドワーフ、獣人など各種族の王様に、彼らの領民の守護を約束して、彼らの領土を人族に分け与えさせた。
「魔王軍との戦争が始まってからは、この世界の国家は更に細分化されたので、今では世界各地に大小様々な国が誕生しています」
クロコは『理解できます?』と、一郎の顔を覗き込んだ。
「それが史実だとすれば、人族の王様が元凶じゃないか?」
「仕掛けてきたのは、魔王軍なのは間違いないですよ」
「それを口実にして、自分たちの領土を広げてる気がする」
「あたいの知っているのは、獣人族に伝わる歴史だけど、獣人族は人族の守護がなければ、モンスターの攻撃で滅んでいたと聞いています。人族は何でも器用に熟すし、この世界における人族の人口比でも、全種族の八割超えていますので、数の上でも圧倒的なんです」
一郎も人族に分類されるのだから、クロコは気を使っているのだろうか。
彼女の話が事実ならば、獣人の領土は人族に奪われたに等しい。
「なんか腑に落ちないけど、少数種族だった魔族は、モンスターを使って戦力差を補っているわけだ」
「魔王軍はモンスターだけじゃなくて、人語を解しても会話が成立しないゴブリン、オーク、オーガとか色々いるのですが、頭数だけで戦力にならんです」
「あ、そういうのもいるのね」
この世界でモンスターと呼ばれる存在は、大きく四つに分類される。
魔族が土塊から作り出した魔物、魔族に操られた獣や昆虫などの生物、それそものが魔族に分類されるゴブリンやオークなど、そして存在自体が人智の及ばない災害であるドラゴン級の大型生物。
「冒険者は、これらモンスターを討伐して換金したり、クエストを消化して稼ぎにしています」
「この世界の設定が、だんだん掴めてきた」
「お兄様は、冒険者になるんですか?」
「いいや、とくに決めてない」
「稼ぎも良いし、お兄様は強いから冒険者になれば良いのに〜」
クロコは、お得意様である一郎の金回りが良い方が助かるのだ。
「強さをひけらかしても、ろくな目に合わない。みんなは、凡庸であることの幸せを知るべきだ」
「そういうものですか」
「ところで、アリッサに言い訳したから、服を一着作ってくれないか。これからも聞きたいことがあれば、クロコを訪ねたいし、口止め料込みで銀貨三枚でどうだ?」
「銀貨三枚! もちろんです」
クロコが揉み手で喜んでいるので、服一着に銀貨三枚も相場より高額らしい。
「ではお兄様、服を脱いで魔法陣にどうぞ」
「うむ。あまり派手な刺繍は止めて、普段着に使えるやつで頼む」
「わかりました。あ、そうだ。裸を見られて恥ずかしいのであれば、背中を向けてもらって良いですよ」
「後ろ向きでも良かったなら、初めから言ってよお〜、すげえ恥ずかしいんだから〜」
「いえいえ、これで二度目の縫製だからですよ。初回は、採寸の必要があるのです」
クロコは『お兄様のサイズは、ばっちり覚えました!』と、良い笑顔でOKサインを出した。