怖いと思いません
「僕が、トウヤさんやリャーナの探しているマジシャンズブラックだ」
「この世界に召喚されたイチローさんは、無詠唱で魔法を使う異世界の悪魔だったのですか?」
首を横に振った一郎は、嗅覚の優れた獣人族にマジシャンズブラックと別人だと誤魔化せなければ、ツノを預り魔力を奪ったリーザを、城下町に連れ込んでいることも隠しておけないと思った。
「シロコロフとタマミには、まず話しておきたいんだけど、僕が魔力ゼロで魔法が使えないのは本当だ。ただ僕には、魔法に似ている超能力が使える」
「超能力とは何ですか?」
「この世界の魔法は、魔導書を読み解いて、剣や杖、魔法陣などを媒介にして魔力を色んな用途に合せて利用しているけど、超能力は意志の力で物理法則に直接干渉したり、精神力で霊的な事象に介入することができる力だ」
「イチローさんが、奴隷商の用心棒を倒した力は、無詠唱の魔法ではなく、その超能力という力だったのですね。異世界人は、みんな超能力が使えるのですか?」
「超能力を研究していた先生の受け売りだけど、超能力は本来、多くの人間が潜在的に持っている力で、僕の場合は、極端な形で顕在化しているらしい。
物体を動かすサイコキネシスト、裏返したカードの図形を言い当てる透視能力者、相手の考えを読み取るテレパスの友人がいたが、僕レベルの超能力者には、出会ったことがない。多くの人間が超能力者だとしても、ちゃんと超能力を使いこなせる者は極少数だね」
「魔力があっても、みんなが魔法を使えるわけではない……そんな感じですか」
一郎がシロコロフの抱えている魔剣ウンディーネに目配せすると、自分の手元にアポートさせる。
「今のは、無詠唱の魔法にゃよね?」
魔剣ウンディーネを胸元で捕まえていたシロコロフは、一瞬にして魔剣を奪った一郎に問いかける。
「いいや、今のが超能力だよ」
「確かに魔法と似てるにゃ」
「僕が魔剣ウンディーネを取り返そうと考えると、意志の力で物理法則を無視して奪える。他にも精神を集中することで、見えないものを透視することもできる」
「透視とは何ですか?」
「僕の目は、物体を透過して見えるんだ。つまり僕には、何でも透けて見える」
「やらしいにゃん!」
シロコロフとタマミが慌てて、服の上から胸と股関を手で隠す。
透視能力は実際、そういう超能力だから勘違いされても仕方ないが、服だけを透かして見ることはできないと、一郎が丁寧に説明した。
「でもイチローさんの超能力なら、お風呂とか更衣室を覗き放題ですか?」
「女の子は、まずそこを気にするよね。しかし可能ではあるが、僕は超能力で女の子の裸や心を覗くような卑怯者じゃない」
「やはり可能なのですね」
「剣士のタマミは、剣で人殺しが可能だからって人を殺さないだろう? 僕も可能だからって、いつも力を行使するとは限らない」
「それはそうです」
「それに僕が風呂や更衣室を覗くときは、正々堂々と肉眼で覗くので安心しろ!」
「全く安心できませんよ!」
「変態にゃー!」
一郎がドヤ顔で親指を立てたが、シロコロフとタマミは、そもそも覗いちゃダメだと騒ぎ立てる。
「超能力は、にわかには信じがたいですが、この世界に召喚されたイチローさんの超能力が、サザーランドの元槍大将を倒せるほど強いのなら、なぜ超能力の存在を隠しているのですか。仮面を被ってマジシャンズブラックなんて名乗るから、勇者トウヤに悪魔と間違われたのでしょう?」
タマミに問われた一郎は、彼女たちに解りやすく伝えたつもりだったので、弱った表情で後髪を掻きあげる。
「僕が超能力を隠している理由は、お前たちの反応を見れば理解できるだろう? 剣士のタマミが剣を持っているのと、僕に透視ができるのは同義だとしても、得体の知れない力に対しては、みんな気味悪がって用心する」
シロコロフとタマミは、一郎の透視能力を聞かされて、裸を覗かせまいと服の上から局部を隠していた。
「僕の超能力は、魔力を必要としないので、いついかなる時でも、いくらでも無制限に力を発揮できる。僕がその気になれば、女湯を覗き放題だし、お前たちの動きを封じて悪戯することも可能なんだぜ」
一郎が下卑た笑いで指をくねらせると、シロコロフとタマミの顔から血の気が引いた。
「本当の僕を知れば、誰だって気味悪がって近寄らない。本当の僕を知ったお前たちだって、きっと離れて行くだろう」
「イチローさん、私たちは気味悪がっていません」
「そうにゃ」
超能力の秘密を明かした幼馴染の美春は、一郎の全てを見通す透視や、心を読むテレパシーを嫌って研究施設を退所した。
この世界でも心を読むと言われている占い師は、忌み嫌われており、透視やテレパシーを封印している一郎は、卑怯な真似で彼女たちの裸や心を覗こうと思わないが、その気にあれば『できる』のが曲者なのだ。
「僕の超能力は、空に浮かぶ月を地面に落下させて、この世界を一瞬で破壊することもできる。僕が規格外のバケモノだとしたら、それでもタマミたちは怖くないのか?」
「イチローさんに、そんな真似ができると思いません」
「もちろん、僕はしない。しかし僕の胸三寸で、この世界の種族を滅亡できるバケモノだと知れば、誰だって腫れ物に触るように扱うさ」
一郎はバケモノ扱いに馴れたつもりだったが、超能力の秘密を打ち明けた結果、幼馴染の美春のように、周囲から人が離れることを恐れている。
「少し考え過ぎだと思いますが、イチローさんが超能力を隠している理由は、なんとなく把握できました。その上で心配しなくても、私やシロちゃんは、そんな些細なことでイチローさんを遠ざけません」
「気にならないの?」
「ええ、強いだけなら勇者トウヤもいますし、魔法や魔法道具を悪用している人だっています。力は、それを行使する人によると言うなら、私はイチローさんを怖いと思いません」
「あたいもにゃー♪」
一郎の強さは、トウヤと比較にならないのだが、タマミの言わんとすることは伝わった。
二人と向き合った一郎は『ありがとう』と、頭を深く下げる。
ここが剣と魔法の異世界であれば、シロコロフとタマミも、超能力者の一郎を必要以上に恐れないらしい。
「そんなことより、悪魔の匂いについて説明してください」
「イチローが悪魔じゃにゃーなら、このマグマのような匂いを漂わせている理由、そっちの方が問題にゃん」
シロコロフとタマミは顎を上げて、クンクンと鼻を鳴らしながら、一郎の上着に顔を近付けた。




