シロタマの追求
マリーダに身を隠せと言われた一郎は、サリサリーにクエスト管理の仕事を任せると、異世界では異質な黒い学ランを外套で覆い隠して、クロコの居宅兼作業場に向かった。
シロコロフとタマミが、市場を歩く一郎を尾行しているものの、憲兵に連行されたアリッサのことを考えていた彼は、後を追ってくる二人に気付いていない。
「おい、黒い服を着た無能者の居所を知らないか? お尋ね者が、この市場に出入りしているのは、わかっているんだ」
市場ではライトアーマーの制服を着た憲兵が、露天商の主人たちに聞込みをしていたので、一郎は外套の襟を立てて人相を隠した。
一郎を探している憲兵は、冒険者になれない魔力ゼロの無能者が、冒険者ギルドのクエスト管理者に雇われたと思わなかったようだ。
「アリッサさんの家に居候している無能者なら、冒険者ギルドに雇われている」
「本当か!?」
「ああ、憲兵隊の旦那が探しているのが、礼儀知らずの無能者なら間違いない」
憲兵に一郎の所在を話しているのは、アリッサから紹介された冒険者御用達の洋服屋の主人である。
洋服屋の主人は以前、一郎に『こんな恥ずかしい服は着れない』と、小馬鹿にされたことや、ギルドスタッフになった彼が別の店を推奨するので、冒険者の客足が遠のいたことを恨んでいた。
もともと冒険者からボッタクリしていたのだから、客足が遠のいたのは、店主の自業自得なのだが−−
「無能者は、地下街にも出入りしているらしい。奴が逃げ回っているようなら、地下街の商店主を仕切っているロックイートさんを訪ねると良いと思いますよ」
「そうか、情報提供に感謝する」
聞き耳を立てていた一郎は、クロコの店にも長居できないと思った。
それにロックイートが、リーザの働く『もふもふ天国』の常連であれば、彼女の正体が悪魔だとバレれば、ややこしい事態に陥ることは想像に難くない。
「とりあえず、クロコの店に急ごう」
一郎がテレポートのために人気のない路地に向かうと、尾行していたタマミは、彼の背後から飛びついて、後手を捻り上げて壁に押し付けた。
「イチローさんには、聞きたいことがあります」
「タマミ? まさか憲兵に雇われて、僕を捕らえにきたんじゃないよね」
「違います。でも念の為、武器を預からせてください。イチローさんを悪魔の手先とは思いませんが、洗脳されている可能性があります」
シロコロフが魔剣ウンディーネを腰から抜き取ると、タマミは手を離して頭を下げる。
彼女たちは、人目のないところで、悪魔の匂いを漂わせている一郎を、問い質すために尾行していた。
「シロタマは、僕が悪魔に操られていると疑っているんだね」
「はい。イチローさんからは、私たちを襲撃した悪魔リーザの匂いがします」
一郎は、リーザから取り上げた二本のツノを持ち歩いていれば、クロコの店に預けた彼女と毎日のように会っている。
獣人の彼女たちには、一郎に染み付いた悪魔の残り香を嗅ぎ当てるなんて、造作無いのだろう。
「なるほど、やっぱり獣人の鼻は誤魔化せないみたいだね。もしかして、その件を確かめるために、僕を付け回していたのか?」
「いいえ、音信不通のトウヤに代わって、やはり奴隷商の捕縛クエストを手伝ってもらおうと、私たちはギルドを訪ねたのです。でもイチローさんから悪魔の気配を感じ取ったので、先に真相を確かめることにしました」
一郎はシロコロフとタマミがピクニックから戻った直後、城下町で出迎えているものの、彼女たちの魔力が戦闘で消費されていれば、リーザと戦った彼女たち自身も、悪魔の臭気に塗れていたので気付かなかったようだ。
「よく考えてみるとにゃ、あたいたちを奴隷商のアジトから助けてくれにゃのがイチローだとすると、リャーナから聞いた噂と食い違うのにゃん。まあ噂なんてものは、当てににゃらないと思って、捨て置いてにゃんにゃけどね」
「リャーナから聞いた噂?」
「奴隷商の用心棒を倒したのは、勇者トウヤが探していた悪魔マジシャンズブラックだと言うのです。噂話が真実なら、私たちを助けてくれたイチローは、サザーランドの元槍大将ナンジョーを倒したマジシャンズブラックです」
一郎は『獣人に隠し事はできないね』と、シロコロフとタマミに全てを話す覚悟を決めた。




