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魔王アジン

 この世界は有史以前、様々な種族が存在していたが、それぞれが出会うことなく、神に与えられた国で平和に暮らしていた。

 しかし最も好奇心の旺盛だった人族は、他種族に先駆けて便利な道具を発明して、自らに流れる魔力を魔法に昇華するなど、高度な文明を築き上げると、ついに多くの人族が国外に旅立っていく。

 地球でもそうであったように、先進国であった人族の国サザーランドは、未開だった獣人族の国カーネル、ドワーフ族の国アンダーソン、エルフ族の国ウッドフォレスなど周辺諸国との交易や技術協力を通じて、他種族に対して影響力を強めていった。

 他種族との出会い、人族の広めた文明により神話と呼ばれる時代か終焉すると、人族の国サザーランドの初代サザーランド王は、増え続ける人族の移住先に他種族の領地を求め始める。


「なぜ魔界を人族にくれてやらねばならぬのだ」

 

 魔界に暮らす魔族の王様アジンは、肉体こそ代替りしているが、有史以前から魔族を統べる唯一無二の絶対魔王であり、神が様々な種族に国を分かち与えた神話の時代を生きた悪魔だった。


「我ら人族は、他種族に文明をもたらして、この世界に生きる人々の暮らしを豊かにしている。我らは、魔界を明け渡せとは言わない。ただ魔界にも、我ら王都連合に参加してほしいだけだ」


 人族の王様サザーランドは、獣人族のカーネル王、ドワーフのアンダーソン王、エルフのフォレス女王など他種族の王様を引き連れて、魔王城謁見の間で魔王アジンに開国を迫っている。

 王都連合とは、魔族以外の全種族の王族が加盟する種族間自由貿易を掲げた通商連合だったが、魔界の周囲に鉄壁『サザンウォール(封印された北壁)』を建設した魔王は、種族間交流を断って参加を拒んでいた。


「人族の口車に乗って開国した獣人族は、狩猟本能が衰えて農具を手に畑を耕せば、四足歩行を止めて人族のように二本足で歩き回っておる」

「魔王アジン、それが進化というものですよ。私たち獣人は、人族の優れた文明を取り入れたおかげで、豊かな生活を手に入れれば、他種族の国家との自由往来を認めたことで、世界中どこにでも安住もできる」

「カーネル王は、自ら築いた文化を滅ぼされたことに気付かないとは、もはや人族の傀儡ではないか」


 魔王アジンは、カーネル王に人族の文明を享受することで、獣人族の文化が失われたと説いたが、獣人族の王様は意に介さないようだ。

 獣人族の国カーネルは開戦直後、獣人族の保護と引換えに、人族の王に取って代わられて、カーネル領内に小さな自治領だけが与えられることになる。


「トンネル工事の人足や炭鉱夫と化したドワーフも、森の木々を伐採して街道建設に協力するエルフも、人族に蹂躙されたとも気付かないらしい」

「わしらドワーフの鉱石発掘の文化は、王都連合に加盟しても健在じゃ」


 人族に国を乗っ取られるのは、獣人族のカーネルだけではなく、ドワーフやエルフの国も似たような末路を辿ることになる。


「魔王アジンこそ、魔界との往来や自由貿易を阻害して、魔界に暮らす魔族を虐げていると気付かないのだ。我ら王都連合加盟国の国民は、便利な道具や魔法を用いて豊かで幸せな生活を送っている。しかし鎖国している魔族の暮らしぶりは、どうなっているのだ。氷の大地と火山に囲まれた魔界の様子は、数百年前と何も変化していないではないか。貴様は魔族のために、氷を溶かして農地を広げ、火山を鎮めて緑の山や森を手にしたいと思わないのか」

「緑豊かな大地、それは魔界ではない」


 サザーランド王は『貴様は変化を恐れる暗君だ』と、鼻で笑った魔王アジンを睨みつける。


「暗君? 魔族は他種族との交流を断つと、既に決断している。それでも無理やりにサザンウォールを越えて文明とやらを押し付けるつもりならば、こちらにも考えがあるぞ」

「はははッ、笑止千万! 弱小種族の魔族が、我ら王都連合と戦って勝てると思うのか。文明の享受を拒んだ貴様ら魔族は、人を捨てて獣落ちしたと、神話で語られている竜人族と同じ運命を辿るだろう」


 神話では古代、知性をもったドラゴンが竜人族として描かれていたが、他種族と衝突を繰り返したことが、神の逆鱗に触れて知性なき獣となっている。


「神話とは、人族の都合で書かれた物語だな。創世より存在する魔王に、そのような戯言を聞かせるとは愚かなり。竜人族が滅びたのは、人族が彼らの国を奪い、あまつさえ末裔であるドラゴンを僻地に追いやっているからではないか」

「それこそ戯言だ!」


 魔王アジンは椅子から立ち上がると、各種族の王様に向かって手を翳した。


「愚王共との謁見は、もう終わりにしよう。これより魔族は、人族に与した全ての種族と戦争を開始する。お前らは今後、旅するとき、日の没するとき、我が眷属に怯えて過ごすが良いぞ。己が領分を弁えない種族は、この世界の災いでしかない」

「ま、まて魔王アジンっ、我らをどうするつもりだ!?」

「自らの名を国名に冠する愚王共は、火だるまとして送り返して、開戦を知らせる使者となるが良い」


 魔王アジンが翳していた手を握り、パチンッ、パチンッ、と音を立て指を鳴らすと、謁見の間に集まっていた種族の王様の足元から、次々に火柱が上がる。


「ぐわぁッ」

「きゃーッ、なんてことを!」

「さあ、お前たち国に帰って伝令して参れ。お前たちの安寧秩序は、傲慢さゆえに崩壊した。この時より魔族は、全種族に対して戦争を開始する」


 魔王アジンは、火を放った王様たちの国を指差して、彼らの国に向かって一人ずつ空間転移した。

 魔王との会談に向かったはずの王様たちが、魔界から火だるまで帰国すると、その日を境にして古の遺跡からモンスターが溢れ、人を襲わなかった魔獣が突如として暴れだす。

 つまり魔界の魔王アジンに開国を迫った王都連合が、魔王の怒りを買ったこと、これが魔族と他種族との戦争の始まりだったのである。

一話が長くなり過ぎたので、後半を分割して本日中に更新しますm(_ _)m

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