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クーデレか

 王立図書館前でアリッサと別れた一郎は、提示前に冒険者ギルドに出勤すると、散らかっている事務所の掃除を始めた。

 事務所の掃除は、早朝出勤する一郎の仕事になっている。


「あなたが、カリアナの言っていた新人くんね」


 ゴミを集めていた一郎は、見覚えのない女性に声をかけられた。


「失礼ですが、どちら様ですか?」

「私はサリサリー、ここのクエスト管理者よ。サリーちゃんって呼んでね」

「魔法使いサリーちゃんなんですね」


 デスクワークの制服を着ている彼女は、5人目のギルドスタッフで人族のハリバン・サリサリーである。

 サリサリーは一郎と同じクエスト管理者だと聞いていたが、彼が入団した直後から長期休暇しており、二人は職場で初顔合わせだった。


「イチローくんの噂は、カリアナから聞いているけど、仕事熱心で将来有望のクエスト管理者なんだってね」

「あのカリアナさんが、僕を褒めているんですか? いつも怒られているし、てっきり嫌われているのかと思ってました」

「カリアナが、あなたを嫌いならはなも引っ掛けないわ。あの子は最近、あなたの話題ばかりだから、ちょっと気になって事務所に顔を出したのよ」


 サリサリーとカリアナは幼馴染で、一郎の入団をきっかけにギルドを辞めるつもりだった彼女は、長期休暇の名目で転職先を探していたところ、幼馴染が新人の一郎を褒めるので、興味本位で出勤したらしい。

 掃除を終えた一郎がお茶を注ぐと、サリサリーは一郎の隣に座って、頭の天辺から足の爪先まで彼を品定めしたいる。


「何ですか?」

「しかしルイズさんが男の子を雇うとは、いったいどうやって彼に取り入ったのかなと思って」

「僕が、ルイズさんに取り入ったなんて人聞きが悪いですよ。ちゃんと面接して、就職しましたからね」

「でもカリアナは、団長のイチローくんを見る目が怪しいって言っているのよね。ほら、あの子は、そっち方面に鼻が利くからさ」

「どっち方面ですか?」

「イチローくん女顔だし、体つきも華奢だもんね」

「ああ、そっち方面ですか。そっち方面のキャラは、カリアナさんのイメージになかったから意外だな」


 一郎が思い返せば、ギルドマスターのルイズと世間話しているとき、カリアナが横目で鼻息荒く睨んでいた。

 あれは業務中にサボっていることを咎めていた訳ではなく、カリアナが脳内で、一郎とルイズをカップリングしていたらしい。


「カリアナがね、イチローくんが典型的な『ネコ(受け)』だよって言うから、そりゃ、私も気になるじゃん」

「僕が受け!? いやいやいやいやっ、どう考えてもルイズさんが受けですよね!? 僕が、()()を押し倒す側です」

「ルイズさんを()()()()()()! やっぱりイチローくんと団長は、()()()()の仲なのね!」

「それは、言葉の綾でしょう!」


 一郎は実際、ルイズを押し倒して入団を決めていれば、団長と約束したデートのときも、男としてエスコートするつもりだった。

 一郎は好き好んでルイズとデートするつもりがなかったものの、団長と二人きりになる度に急かされるので、明日の休日に人目を忍んで町の外でピクニックすると、無理やり約束させられている。


「二人とも、楽しそうに何を話しているの? 無駄口を叩く暇があるなら、仕事しなさいよ」


 カリアナは、外ハネのショートボブを手で寝かしつけながら、階段を気怠そうに上がってきた。

 一郎は『おはようございます』と、更衣室に向かうカリアナの後姿に挨拶するが、彼女は手を上げて返すだけで、こちらに振り向かない。

 気のない素振りのカリアナだが、更衣室に入ると胸に手を当てて、一郎に話しかけられて小躍りしていた。

 一郎が誰かと雑談しているだけで、いつもムッとしているカリアナは、女ばかりの職場の紅一点(男だけど)である彼に気があるのに、振り向いてもらえずイライラしている。


「なんで私の気持ちを知っているサリーが、イチローと話しているのよ。イチローに、余計なことを言ってないでしょうね。今日は、サリーが出勤しなければイチローと二人きりだったのに〜」


 ロッカーに背を向けて凭れたカリアナは、頬を紅くして拝むような仕草で呟いた。

同時並行して事態が進んでいるので、場面転換が激しくて申し訳ございません。

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