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レクスター騎士団長

 カーネル城下町から馬車で北に向かったトウヤとリャーナは一昼夜かけて、サザーランドとの国境を超えたところで、帝都騎士団と合流した。

 悪魔の存在を確認したリャーナが、サザーランドのヒューズ大帝麾下のレクスター騎士団長に報告しており、トウヤは対策会議の出席を求められている。


「リャーナが余計なことを話すから、呼び戻されたじゃないか。魔王が現れたならともかく、敵がただの悪魔なら、魔力1億7千万の俺が一人で対処できるんだ。お前が大袈裟に報告するから、ヒューズ大帝は、わざわざ帝都騎士団の一個師団を派遣したんだぜ」

「ごめんなさい、でもリャーナは反省しません」


 騎士団に合流したトウヤたちは、野営地に張られたテントで騎士団長のレクスターを待っていた。

 二人を呼び付けたレクスターが数刻経っても現れず、業を煮やしたトウヤは、悪魔のリーザと会敵したリャーナに八つ当たりしているが、彼女の報告で騎士団が動いたとは考えていない。


「トウヤ様、マジシャンズブラックのときとは状況が違いました。リーザは封印された北壁の向う側で、召喚士を拉致して異世界に転生した魔王を召喚しています。もしかすると、姉のユーリも−−」

「俺を召喚したユーリが最北の地、魔族の領地で生きていると言うのか?」

「その可能性があると、リャーナは思いました」


 トウヤは、リャーナの姉でハーフエルフの召喚士ユーリが、サザーランドで彼を召喚した後、任務中に死亡したと聞かされている。

 遺体こそ確認できなかったトウヤだが、サザーランド帝都は封印された北壁に隣接しており、出現するモンスターの強さもカーネル王国の比ではなかった。


「ユーリの死は、悪魔の仕業に見せかけて、彼女の死を望んだ者の犯行だと思っていた」

「その意見に、リャーナは同意します。でも犯人の目的は、姉の死も見せかけたと思います」

「うん? どういう意味だ」


 だからモンスターに殺されたと言われても、そこに疑問を感じなかったし、ユーリの任務内容を知っていれば、トウヤにとって彼女の死は必然だと憤っている。

 魔力1億7千万の勇者を召喚したヒューズ大帝は当時、封印された北壁を越えて進軍を計画しており、斥候任務のメンバーにユーリも同行させられた。

 ユーリの同行は、誰の指示だったのか。


「悪魔に出会って生還した者がいないのだから、斥候任務に姉を同行させた者は、姉を魔族の領地に送り出すことが、死と同義だと知っていたと、リャーナは思います」

「目的は、任務中の事故死を装ってユーリを殺すこと……。いいや、殺すことが目的じゃないなら、魔族の領地に召喚士を送り込んだ奴の思惑はいったい何だ?」


 トウヤは、斥候任務のメンバーが誰一人戻らなければ、ユーリの死を疑わなかった。

 しかし一郎たちとのピクニックで、リャーナを襲った悪魔のリーザは、召喚士アリッサに興味を抱いており、魔王が召喚されていないのならば、まだ利用価値があると言っている。

 魔族のリーザは、召喚士を利用して異世界転生した魔王アジンの召喚を企んでいた。

 つまり悪魔は、自分たちの領地に侵入した召喚士ユーリを殺さずに、魔王の召喚に利用している可能性がある。


「サザーランドには、魔族に便宜を図る内通者がいる。そいつが、俺のユーリを悪魔に売り渡したのか?」

「カーネル領内で取り逃がしたリーザを捕まえれば、真実がわかると、リャーナは強く提案します」

「なるほど、悪魔を捕縛するために派遣されたレクスター騎士団を利用する。しかしリャーナ、それは失策かもしれないぜ」


 聖剣グランドシェイカーを鞘から抜いたトウヤは、テントの周囲に集まる鎧兜の騎士たちの気配を察していた。


「勇者トウヤよ、久しぶりだな。どうして剣を構えているのだ?」


 フルメイルの鎧を着込んだ浅黒い肌のレクスターは、兜を脇に抱えており、頭に生えた二本の立派なツノを見せつけている。

 レクスターは牛の獣人だと聞いているが、彼の容姿を改めて見たリャーナは、悪魔のリーザと重なるものがあると思った。


「レクスター団長こそ、テントを包囲して何のつもりだ。まさかとは思うが、悪魔の戯言を信じて、俺が魔王の生まれ変わりだとか言わないよな」

「勇者トウヤが魔王の生まれ変わり? ああ、お目付け役リャーナくんの報告では、そのような内容も書かれていたね。しかし安心しろ、私は君を魔王だと考えていない」


 リャーナは、トウヤに向かって手を合わせている。

 魔王が異世界転生しており、悪魔が召喚士を利用して魔王の召喚を試みていると、ヒューズ大帝麾下のレクスターに報告したリャーナには、悪気がなかった。


「なぜ外の連中が、俺を囲んでいるんだ。まあ城付きの騎士風情では、何人いても魔力1億7千万の俺の敵じゃないが、この状況は面白くないね」


 レクスターはトウヤの前に腰を下ろすと、彼らにも席に座るように手を煽っている。

 聖剣を鞘に納めたトウヤは、椅子を引いてレクスターと対峙した。

 レクスターはトウヤと向き合った瞬間、テント入口に待機している騎士に目配せして、テントを包囲していた騎士を引き上げさせる。


「剣を向けた非礼は、お互い様にしてもらおう」

「レクスター団長、先に仕掛けた理由を教えろよ。俺の襲撃を予見していたなら、何か後暗いことを企んでいるんだろう?」

「勇者トウヤには、ぜひ私たちの仲間になってほしくてね」

「仲間? 俺はサザーランドのヒューズ大帝に忠誠を誓っていれば、騎士団の仲間ではないのか」

「もちろん、私はヒューズ大帝の味方だ。しかし敵の敵が味方ではないように、味方の味方が敵とも限らない」

「政治の話なら、俺は中立だぜ。現体制に肩入れするつもりもねえし、だからって革命に手を貸す義理もない。でも二者択一じゃないなら、聞く耳くらい貸してやる」


 レクスターは兜をテーブルに置くと、両脇に肘ついて顎を乗せた。


「君は噂ほどボンクラじゃなさそうだし、薄々気付いているんじゃないのかね。私の率いる帝都騎士団が、カーネル王国の国境まで出向いた理由に心当たりがあるのだろう?」


 トウヤもテーブルに肘を付いて顎を乗せると、レクスターと視線を合わせる。

 

「リャーナの報告で帝都騎士団が動いたなら、あまりにも手回しが早すぎる。だからレクスター団長は、俺が戦った悪魔を異世界転生した魔王アジンだと考えて騎士団を率いて現れた」

「そのとおりだ」

「しかし問題は、なぜ団長殿がリャーナの報告より前に、悪魔が異世界転生した魔王を召喚していると知っていたのか? そもそもサザーランドの異世界人の召喚も、その目的が魔王の召喚だったと言うのなら話は別だけどな」


 トウヤは不敵な笑みを浮かべて、椅子にふんぞり返った。

 サザーランドの帝都騎士団が進軍を始めたのは、リャーナの報告を受けた直後だったが、1万人規模からなる騎士団の戦準備に短すぎる。

 トウヤは、ヒューズ大帝に異世界人を召喚したカーネル王国の視察を依頼されており、アリッサの召喚した一郎が無能者だったと報告したが、直後に無詠唱で空間魔法を発動するマジシャンズブラックと会敵したとも報告している。


「お前らは、カーネル王国が召喚した異世界人が魔力ゼロの無能者だったとの報告を信用しないで、魔王の生まれ変わりが召喚されたと考えた。だとすると、魔王の復活を隠している俺は、異世界転生した魔王軍に寝返っているかもしれない」


 トウヤは『ゆえに俺とリャーナを包囲した』と、レクスター団長がテントの周囲に騎士たちを配置した理由を言い当てた。


「そこまで理解しているのなら、回りくどい話を止めよう。サザーランドのヒューズ大帝は、魔族より先に魔王アジンを召喚して、転生を繰り返す魔王の魂を輪廻から滅殺する計画だった。魔王アジンさえ消え去れば戦争継続を主張する王権派の悪魔が力を失い、多種族との宥和政策を掲げる穏健派が主流となり得る」

「魔族の内情を知らなければ、そんな台詞は出てこない。お前は、まるで穏健派の悪魔みたいな物言いだな」


 リャーナが杖を構えると、レクスターは視線を送って彼女を吹き飛ばす。


「リャーナくん、私は王権派の悪魔が魔王復活を目論んでいると、人族の国(サザーランド)のヒューズ大帝にリークしている。君を襲った侍従長リーザは、魔王復活により多種族の絶滅を画策する王権派の幹部だ。人族に味方する私と、王権派のリーザを一緒にするな」

「今のは、無詠唱の風魔法だろう。サザーランドの騎士団長が悪魔とは、灯台下暗しってやつだな」

「さて全てを知った上で、勇者トウヤの決断を聞かせて頂こう。私の仲間として、カーネル王国が召喚した魔王の討伐に協力するか? それとも私の敵として立ち塞がるのか?」


 トウヤは『それは選べないぜ』と、テーブルを叩いて大笑いした。

 アリッサが召喚した一郎は魔力ゼロならば、多種族の根絶やしを企む魔王であるはずがないからだ。


「百歩譲ってマジシャンズブラックが魔王だとしても、カーネル王国が召喚した一郎くんが無能者なのは事実なんだ。魔王討伐に協力するのは良しとして、まずはヒューズ大帝と話して決める」

「今のところは、君が私の邪魔をしなければ良い」


 レクスターが席を立つと、黙っていたリャーナが口を開いた。


「一つだけ、リャーナに教えてください。魔王不在の間、なぜ戦争が続いていたでしょうか? ヒューズ大帝とレクスター団長の合意があれば、和平交渉が可能だったと、リャーナは考えます」

「魔王アジンの復権を恐れて、魔族の誰もが玉座に座らない。君たちは、彼の絶対的な力を知らないのだ」

「へえ、つまり魔王さえ死ねば、お前が魔王に変わって玉座に座ると言うことか」


 レクスターは鼻で笑うと、振り返らずにテントを出ていった。

 トウヤはしばらく、レクスターの足音が遠ざかるの待ってから、リャーナの肩を抱いて引き寄せる。


「レクスター団長の話は、どれも胡散臭い。俺は、魔王の復活を企む悪魔と、魔王を亡き者にして権力を奪う悪魔がいるとしか聞こえなかった」

「レクスターは後者だと、リャーナも思いました」

「それに悪魔のレクスター団長が、大軍を率いてカーネル王国に進軍している目的が、召喚された魔王の暗殺だけとも思えない。1万人規模の騎士団は、奴が悪魔なら1万体のアンデッドモンスターに変えられる。奴の真意がわかるまでは、拙速に動くんじゃないぞ」


 リャーナが頷くと、トウヤは頭を撫でてから席を立った。


「俺たちはサザーランドに帰国してから、魔王城を目指してユーリの安否を確認する。もしも魔王不在の魔王城でユーリが生きているなら、奪還する好機だからね」

「トウヤ様、ありがとうございます。リャーナは感謝しています」


 目を潤ませたリャーナは、正面からトウヤに抱き着いた。

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