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本物の勇者

 アリッサに一郎を召喚させたカーネル王国のカルバン王は、異世界から勇者を召喚したとの噂を聞いて駆け付けた、トウヤ・ツキガネとの謁見中だった。

 トウヤは隣国の王様が召喚した本物の勇者であり、そもそもカルバン王は、異世界から召喚した人間が、みんな彼のような勇者になると考えて、アリッサに一郎を召喚させた。

 本物の勇者トウヤは異世界に召喚されたとき、既に魔力1億7千万を超えており、異世界で冒険している今では、計測不可能なまでに成長している。


「勇者召喚に失敗した?」


 青い鎧兜を纏ったトウヤは、目の前に座るカルバン王から、召喚した人間は、勇者ではないと聞いて怪訝な顔をした。


「わざわざ立寄ってくれたが、我が国が召喚した地球人は魔力ゼロの無能者で、魔法はおろか、腕力も人並み以下の役立たずでした」

「地球人は魔力があっても、魔法を使えないからね。俺も日本で暮らしていたときは、魔力を意識してなかったし、こちらの世界に来れば、無条件で魔法が使えると思っていたんだけど、そうじゃないのか」

「地球人の全てが、勇者トウヤのようにはならないらしい」

「まあ、それならそれで良いんだけどさ。地球人を召喚した召喚士アリッサは、どこにいるんだい?」

「無能な召喚士は、役立たずの地球人と城から追い出しました」

「そうかな? 異世界から人間を召喚できる召喚士は、無能じゃないと思うぜ」

「勇者トウヤは、人間を召喚にするための触媒が、どれほど貴重な品かご存知ないようだ。国の財政を傾けてまで勇者召喚に賭けたのに、無能者を召喚されたのだから、やはりアリッサは無能です」

「触媒となる紅い水銀を集めるのが、難しいことは知っている。紅い水銀は、ドラゴン級の大型モンスターから一滴でも取れれば良い方で、異世界から人間を召喚するには聖杯を満たす量が必要だ」

 

 トウヤは『しかし捨て置けない』と、付け加えてカルバン王を睨みつけた。


「我がサザーランドの国王は、あなたが二度と勇者召喚を試みないことを望んでいる。この意味が解りますよね」

「勇者召喚など、もう頼まれたってやるものか。我が国は、サザーランドとの友好的な関係を望んでいる」

「それならば結構です」


 席を立ったトウヤは、謁見室のドアを後ろ手に閉めながら、聞き忘れていたことを思い出した。


「ところで無能な召喚士は、今どこにいますか?」

「まだ城下にいると思うが、放任した者の所在は知らん」


 この世界においてトウヤは、最大級の魔力を秘めた勇者の一人ではあるが、その魔力を全て使い熟しているわけではない。

 魔力量では劣るが高度な魔法を駆使する魔法使いや、熟練の剣士と戦えば、負けないまでも圧勝とはいかなかった。

 トウヤが異世界で無双するには、まだまだ邪魔な好敵手が多すぎる。

 

「トウヤ様、二人目の地球人とは会えましたか?」


 トウヤが城を出ると、駆け寄ってきた魔法使いリャーナが聞いてきた。

 リャーナは、隣国の王様がつけたトウヤの旅のお供であり、彼の膨大な魔力が暴走したときの猫の首輪、高度な魔法を使う魔力250万のお目付け役である。


「トウヤ様、リャーナにお知らせください」


 焦れたリャーナは、難しい顔で考え事しているトウヤの腕に絡みついた。

 リャーナは発育前の胸を、トウヤの腕に押し付けて腰をくねらせている。

 ハーフエルフの彼女は、日本で高校生だった彼より若く見えるが同い年だった。


「いいや、どうやら勇者の召喚に失敗して、魔力ゼロの無能者が召喚されたらしい」

「それなら、この国と戦争せずに済みそうです。隣国のカーネル王国が、トウヤ様級の魔力を持った人間を召喚したなら、周辺国との軍事バランスが崩れていました。リャーナたちのサザーランドの国王は、小国に足元を見られたくありません」

「ああ、そうだね。もしも小国の領主が、勇者召喚に成功していたなら、地球人が魔法が使えるようになる前に、確実に殺す必要があった。カルバン王が抵抗すれば、全面戦争になるところだったよ」

「これからどうします? 魔王討伐に向かうなら、もう少し力をつける必要があると思いますが」

「そうだな……。その無能者を召喚した召喚士アリッサとやらに、俺のような本物の勇者を召喚されたら面倒だ。冒険に戻る前に、見つけ出して殺っておこう」

「そうなりますか」

「リャーナは反対するのかい?」

「いえいえ、剣技はモンスターと戦うより、対人戦の方が向上しますし、リャーナは賛成するのです」


 トウヤは頷くと、背負っていた大剣を地面に突き立てた。


「我が欲するは召喚士アリッサ、聖剣グランドシェイカーよッ、主トウヤに道を指し示せ! 失せ物探し!」


 と、トウヤが叫んで聖剣グランドシェイカーの柄を離せば、北北東に切先を向けて倒れた。


「アリッサは、町の北北東にいる」

「仰々しい真似してるけど、ただの棒倒しじゃないですか?」

「魔法は、術者のイメージを具現化するんだ。俺の魔力を使った棒倒しは、ほぼ百発百中なんだぜ」

「そんなことしなくても、ちゃんと人探しの魔法を覚えたら良いのです。我流の魔法は、魔力の無駄遣いです」

「いくら無駄遣いしても、どうせ俺の魔力は尽きない。そんな些末な魔法を覚えるのは、時間の無駄なのだ」


 トウヤとリャーナが、町外れのアリッサの私邸を目指している頃、一郎は服や日用品を買い揃えるために、市場のある中心街に向かっていた。

 トウヤは、中心街に向う学ランの一郎とすれ違うと、懐かしさを感じて振り返る。


「トウヤ様、どうかしましたか?」

「どこの世界にも、あんな服があるんだな。俺が日本にいた頃、同じような制服を着ていたんだぜ」

「見慣れない制服ですが、この国の学生ですかね。トウヤ様は、日本に帰りたいんですか?」

「まさか……。良い思い出がない日本には、帰りたいわけないだろう。俺は成功者として、この世界で頂点に君臨してやる。そのときは、リャーナに世界の半分をくれてやるよ」

「楽しみにしてます」


 リャーナは、トウヤのお目付け役だが、ハーフエルフの独立国家を認めないサザーランドの国王の命令など、端から聞く気がなかった。

 彼女の目的は、トウヤに取り入って、彼を傀儡としてハーフエルフの国家を作ることである。


「今すれ違った奴、すげえ日本人ぽかった。この辺りの連中は白人系だけど、色んな人種がいるのかも」


 トウヤと道で行き交った一郎は、落ち着いたらアリッサと、この世界を旅するのも悪くないと考えていた。

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