表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/57

ドラゴン討伐

 周囲を見渡しているリーザは、アリッサたちのいた森から、湖を越えて遠方にテレポートした一郎を見失った。

 リーザは空間転移魔法を使える悪魔だが、一郎のテレポートと違って移動できる範囲が視野内に限定されている。


「悪魔の空間転移は、僕の超能力と違うのか?」


 リーザはテレポートした一郎を追従していたが、テレパシーの感知能力を使って、テレポートの痕跡を追跡していたわけではなく、優れた身体能力で彼の出現場所を見極めて、間髪入れずに空間転移魔法を発動しているだけだった。

 一郎の超能力は、やはり異質である。


「もう暗いし、松明でも掲げて誘き寄せてやる」


 テレキネシスで大木を引き抜いた一郎は、指を鳴らすとパイロキネシスで大木を燃やして、それを巨大な松明に見立てて上空に飛ばした。

 パイロキネシスで燃え上がった大木の業火は、松明というレベルではない。

 対岸で一郎を探していたリーザは、大木の灯りに気が付いた。


Умный(小賢しい)


 空間転移してくるリーザの軌跡が、一郎に向かってくる光として目視できる。

 またリーザの出現予定場所からも、向かってくる光と同じ速度で、光の線が伸びていた。

 空間と空間をワームホールで繋いで、瞬時に移動するテレポートと、魔法を使った空間転移は似て非なるものらしい。


「短距離の空間転移では気付かなかったが、質量があるなら光だって!」


 一郎は向かってくる光に手を翳して、テレキネシスで光の軌道を捻じ曲げると、地面に向かって押し付ける。

 一郎の手前で発光していた出現予定の場所は、地面に押し付けられたリーザのところに発光場所を変えた。


「なるほど、空間転移魔法は空間を入れ替えているのか」

Что ты(お前は、) сделал?(何をした)


 リーザは空間転移中に軌道を曲げられるなど、考えも及ばなかった。

 一郎は額に指を当てると、テレパシーでリーザの次の一手を読むために、四つん這いで顔だけ上げた彼女に意識を集中する。


【Разве это не дьявол засыпать меня землей? Антидуши големов и нежити потребляют много магической силы, поэтому дальнейшие переходы не могут быть продолжены.】

「思考言語が、さっぱりわからん」


 しかしリーザは肩を上下に揺らして息しており、今の攻撃で明らかにダメージを受けていた。

 一方、一郎は超能力を使っても、体力を消費するわけでも、まして元々ゼロの魔力が減るわけでもない。


「悪魔が、僕と同じサイキッカーだったらと思ったけど、どうやら取り越し苦労だったみたいだ」


 一郎はリーザの前にテレポートすると、悪魔とはいえ、人語で会話している少女をゴーレムやゴブリンアンデッドのように、情け容赦なく殺す気になれなかった。


「もう一度聞きます……、お前はサザーランドで召喚された異世界人でしょうか?」


 リーザを近くで見れば、やはり魔族の特徴を取り払えば、年端の行かない少女である。


「いいや、僕はサザーランドに行ったこともなければ、異世界人でもない」

「では何者ですか?」

「マジシャンズブラック、正義の味方だ」


 マントを翻した一郎は、アイマスクを手で押えて斜め45度の角度で、リーザと向き合った。


Ты клоун(道化師ですか)


 リーザの処遇を考え倦ねた一郎は『家に帰れ』と、犬を追い払う仕草で手を煽った。


Не будь(バカにしな) дураком(いでください). 私の魔力は現在1億を超えており、体内に刻んだ魔法の刻印は100を超えています。魔導書や武器に頼らなければ魔法を発動できない下等な種族には、絶対に負けるはずがないのです。Никогда не(絶対に) проигрыва(負けない)й」

「トウヤさんより魔力が低いなら、たいして強くないだろう」


 リーザは立ち上がると埃を払って、腰に手を当てた。


「お前の人を見下した態度は、あまり好きではありません。お前は悪魔城の侍従長リーザの名にかけて、絶対に生かしておけません」


 リーザの白目が黒く変色すると、細かった尻尾が胴体と同じくらい膨れ上がり、頭のツノが後ろの方に長く伸びる。

 前傾姿勢になったリーザの背中には、蝙蝠のような翼が生えた。


「え?」


 一郎は、伸びた腕で地面に手をついたリーザの容姿が、想像通りの悪魔に変貌したことに後退りする。

 

「驚きましたか? 私は森や湖など周囲にいるモンスターからッ、魔力を吸収することがでギルルルッ」


 リーザは口から伸びてくる牙のせいで、鼻面が伸びた猛獣のような人相に、そして低く唸るような声に変わっていた。


「おやおや、恐怖に怯えて声も出せないようですね。もう一つ、お前を絶望させてあげましょう。私の魔力は現在、2億1千万、2千万、3千万……、2億5万を超えています」

「魔力2億5千万だと!?」


 一郎は驚いてみたものの、魔力2億5千万の凄さを、今一つ理解していなければ、ただアリッサたちと比べて、桁違いの数字の大きさに驚いただけだ。


「人族では、けっして到達できない領域の魔力です。モンスターの魔力を取り込めば姿形を維持できないので、できれば使いたくなかった奥の手なのです」


 見るからに悪魔となったリーザは、一郎の背後に空間転移すると、太い尻尾で彼の背中を殴り付ける。

 テレキネシスで尻尾を抑え込んで、直撃を回避した一郎だったが、衝撃による風圧に負けた身体が、前方に吹き飛ばされた。

 一郎は砂利に顔から突っ込んだ瞬間、リーザの死角になっている岩陰にテレポートする。


「回復魔法が使えない僕にとっては、些細な傷も致命傷だから気を付けないと」

 

 一郎の超能力では、怪我や病気が直せなければ、回復魔法の支援が受けられる状況ではなかった。


「隠れても無駄ですよ。この形態のときはッ、五感が数倍に跳ね上がっています!」


 リーザが長い爪を振れば、一郎の隠れていた岩が粉砕する。


「悪魔は、トウヤさんと同じ魔法も無詠唱で放てるのか」

「マジシャンズブラック、逃げてばかりでは退屈です」

「では、ここからは僕のターンということで」


 リーザは遠方の空間転移後、肩で息をしていたのだから、魔法に魔力を消費していることが明らかだ。

 それに悪魔が魔力を無尽蔵に吸収できるなら、魔力は無限大であり、2億5千万の数字を誇る意味がないのである。

 つまり消費した魔力は、改めてモンスターから再充填できない。


「連続テレキネシスだ!」


 一郎がテレキネシスで動きを封じると、リーザは身震いして振り払うが、何度でもテレキネシスを使って彼女の自由を奪った。


「お前は超短距離で空間転移して、僕のテレキネシスを解除している。魔法を使って瞬間的に移動されれば、テレキネシスで空間を固定できないからね」

「テレキネシス? この空間固定魔法は、テレキネシスと言うのですか。独創的な魔法で、じつに面白いです。まさか私の魔力が尽きるまで、こうして縛り付けて置くつもりですか?」


 リーザは視野の中なら空間転移できるのに、短距離転移で拘束を解いているのだから、遠方の空間転移ほど魔力の消費が激しいのだと、一郎は考えた。


「わかりました。これでは、決着がつきません……。こうなれば、私の最終形態を披露するしかなさそです」

「最終形態だと!?」

Хорошо( はい ), 私のように古代に潰えた竜族の血が濃い魔族は、ツノに魔力を集中することでドラゴン化することができます。ドラゴン化した私の体内には、魔力を100倍に増強する魔力結晶を宿ります。つまりドラゴン化した私の魔力は240億ッ、そうです100倍に跳ね上がるのです!」

「なんだって! ……魔力結晶って何?」


 魔力ゼロの一郎は、魔力を100倍に増強する魔力結晶に興味をひかれる。

 魔力結晶が手に入れば、魔力ゼロの一郎にも魔法が使える気がしたからだ。

 ゼロは、何倍になってもゼロなのだが、一応聞いてみた。


「お前たちが、魔法陣を発動するための触媒としている紅い水銀は、竜族だった者の成れの果てから採取している魔力結晶でしょう? 魔法陣の発動は人の命を代替品にもできますが、液晶である魔力結晶は竜族にしか宿らない」

「ああ、あれか」

「さあマジシャンズブラック、お遊びは終わりです。一気に終わらせましょう」


 背を仰け反らしたリーザが、大きな口を開けて空気を吸い込むと、身体中の筋肉が盛り上がり、前のめりに背筋を伸ばして息を吐けば、鼻頭から尻尾の先までの体長が、グンと伸び上がる。

 その動作を何度か繰り返したリーザは、悪魔のようだった容姿が、体長15メートルのドラゴンとしか言いようのない姿に変わった。


「おーッ、すげぇマジもんのドラゴンだ!」

「まだ私を見下すのですかッ、マジシャンズブラック!」

「べつに見下してないよ。たださ、ちょっと気になっていることがあって」

「なんだァッ!」


 灼熱のマグマのように外皮の鱗が蠢くドラゴンを前にした一郎は、鼻頭を指で掻きながら話を切り出した。

 

「お前、さっき魔力をツノに集めてるとか言ってたよな?」

「ああッ、ツノを失えば全ての魔力を失うほどにね!」

「それって弱点だろう?」

「浅はかな考えですッ、240億の魔力が詰まったツノにはッ、何人なんぴとたりとも触れることができません! 触れたら最後ッ、蒸発して消え失せてしまうのだから弱点なわけが……、あれ?」


 一郎はテレキネシスで二本のツノを根本から折ると、自分の頭上に、これ見よがしに並べて浮かせる。


「え、いや……、え? うそ、なんで私のツノが、そこにあるの?」


 一郎の上に浮かんでいるのは、見紛う事なき魔力240億を溜め込んだリーザのツノである。


「奥の手は、最後まで見せないから奥の手なんだぜ」

「えーっ、う〜そ!」


 ツノを失ったリーザの身体は、空気の抜けた風船のように萎むと、彼女は立ち上がる気力さえ失くして倒れ込んだ。

 ドラゴン化したリーザから取り上げた大きなツノも、吸収してた魔力が白い湯気を立てて霧散したようで、彼女と同様に手の平サイズに縮小した。


「マジシャンズブラック……、私のツノを返しなさい。私は、ツノがなければ魔力ゼロなのです」

「せっかくの戦利品を、ただで返すわけがないじゃないですか?」


 一郎は縮んだリーザのツノを、胸ポケットに仕舞う。


「なるほど、非力になった私に乱暴するのですね。お前は……、悪魔のような男です」

「悪魔に悪魔とは、さすがに言われたくねぇわ」

「このケダモノ!」

「バケモノじゃねぇーのかよ」


 胸元を両手で隠したリーザが、シクシクと声を噛み殺して泣くので、気の毒に感じた一郎は、地下街の『お触りパブ♡モフモフ天国』に出勤している婆さん(デガラシ)が被っていた、ネコミミのカチューシャをアポートで取り寄せた。

三章完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ