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魔力と魔法の関係

「トウヤさん、彼女たちとは何処で?」

「町までピクニックに持参する弁当を買いに行ったんだけど、早朝から店を開けているのは、24時間営業のギルドの酒場くらいだろう」

「タマミは、どうしてトウヤさんが勇者トウヤだと解ったの?」

「ギルドの酒場で、大声で呼び出されていました」

「弁当の受取りね」


 シロコロフとタマミは今朝、たまたま朝食でギルドの酒場に立寄ったところ、ピクニック用の弁当を買いに来ていたトウヤとリャーナに出会ったらしい。

 一郎は『タマミさん、ちょっとちょっと』と、手招きした。


「イチロー、なんでしょうか?」

「僕は、捜索クエストの件を秘密にしたいと話したよね?」

「勇者トウヤには、イチローが捜索クエストに参加したと話していません。私は、あなたが本当に勇者トウヤの弟子なのか、それを聞いただけです」

「タマミは、僕を疑っていたんですか?」


 タマミが黙って頭を下げるので、一郎は手で顔を覆った。

 一郎は昨日、シロコロフとタマミを上手く丸め込んだつもりだったが、彼女たちは、彼を勇者の弟子だと信じていなかった。


「一郎くん、思いがけず大人数になってしまったので、ピクニックはパーティを二つに分けて、森の湖を左右から進もう」

「トウヤさんと僕は、同じパーティですよね?」

「そうだな、最初の組合せは一郎と俺が同じパーティで、湖の反対側で落ち合ったら組合せを変更しよう」

「最初の組合せは?」


 トウヤは参加者の魔力を聞き取ると、シロコロフ(魔力18万)と一郎(同ゼロ/ウンディーネ同10万)を自分のパーティに加えて、リャーナ(同250万)をパーティリーダーにして、アリッサ(同53万)とタマミ(同26万)を彼女に預けた。


「シロコロフは失せ物探し専門の冒険者だし、うちのパーティはトウヤさん頼りになりそうだ」

「あたしのパーティは、魔法使い、召喚士、剣士でバランスが良いけど、確かにイチローさんのパーティは、剣士ばかりで偏ってますね」


 アリッサは、魔剣使いの一郎と帯刀しているシロコロフを剣士枠と考えていた。


「一郎とシロちゃんは、まずは魔力1億7千万の俺が付き添って剣の腕前を確認する。そしてパーティが落ち合ったとき、俺とリャーナが参加者の実力を見極めた上で、再編成しようと考えているが、それで良いかな?」

「僕は、それで良いと思う」


 一郎としては、何かと疑って掛かるタマミと別のパーティで助かるし、女の子たちに良いところを見せたいトウヤなら、再編成でタマミを自分のパーティに加えるはずなので、悪くない組合せだと思った。

 彼は超能力を使わざるを得ない事態があっても、物事を深く詮索しないトウヤとシロコロフなら、誤魔化せると考えている。

 アリッサの家を出発したトウヤを先頭にした一郎たちは、町を囲んでいる壁を越えて森の入口に立った。


「町周辺は、駆け出しの冒険者がモンスターを定期的に駆除しているし、出ても野犬クラスの魔獣だろう。ここから湖までは一郎くんを先頭にして、ヤバそうなときだけ俺がサポートする」


 トウヤに背中を押された一郎は、とりあえず魔剣ウンディーネを抜き身にすると、木陰に注意を払いながら進んだ。


「イチローさんは、ずいぶん慎重ですね」


 アリッサは心配な顔で、前を歩く一郎を見ている。


「俺たちなら魔力をぶつけて、咄嗟の攻撃に対応できるが、一郎くんは、詠唱を必要とする魔剣しか使えない。臨戦態勢で進むのは、良い判断だと思うぞ」


 魔力のある者は、魔法が使えるだけではなく、自分の魔力を飛ばして攻撃したり、一か所に集中して防御したり、魔力そのものを攻守に利用できた。

 ただし魔力による攻守は、瞬発的であっても魔力を大量に消費するので、攻撃をガードするために使用しても、攻撃には滅多に使用しない。


「モンスターは現れなかったですね」


 一郎は湖を見下ろす高台に到着すると、爽やかな笑顔で振り返る。


「いつもなら、ここまでに魔獣の二、三匹に遭遇するんだがな。まあ本番は、水場に集まってくるモンスター討伐だ。一郎とシロちゃんは俺と西から、リャーナたちは東から湖を周回するぞ!」


 モンスターは、ここまで現れなかった。

 なぜなら一郎は、自分の実力を疑っているタマミの前で、へっぴり腰で剣を振る姿を見せたくなかったので、感知能力で周囲のモンスターを探索、近付いてくるモンスターを遠くにテレポートしていたからだ。


「トウヤさんに質問です!」

「なんだい一郎くん!」


 モンスター初討伐の一郎は、子供のように目を輝かせている。


「どんなモンスターを倒すと、アイテムが出るんですか!」

「前にも説明したけど、アイテムドロップするモンスターは、土塊から誕生したモンスターに限られている。ゴブリンやオーク、魔族に操られている獣を倒しても、アイテムドロップはないぞ」

「特徴は?」

「アイテムドロップするモンスターの特徴は、まず生きていない。一郎くんには、ゾンビ、スケルトンなどアンデッド系、ゴーレムなど物質系、と紹介した方が解るかな? それから強いモンスターほど、高価なアイテムが触媒に使われているらしく、弱いモンスターで日用品、ドラゴン級のモンスターなら魔法道具がドロップする」

「おーっ、ゲームみたいですね!」

「ちなみに魔獣系のモンスターを倒した場合、アイテムボックスに収納して、町の素材屋に売れば金になる」

「ますますゲームみたいだ!」


 リャーナたちと別れた一郎は、魔剣ウンディーネを抜き身のまま、トウヤとシロコロフを従えて湖の畔に下りた。

 シロコロフは短剣を腰のホルダーに仕舞うと、杖に持ち替えて戦闘に備えるらしい。


「あたいが、回復役をやるにゃん」

「シロコロフは、魔法使いじゃないよね?」

「あたいは普段、魔力を嗅覚に全振りしてるにょだ。だからって魔法が、全く使えにゃいわけじゃにゃーよ」

「どういうこと?」

「魔力は器に入った水だとするにゃ、あたいの嗅覚は普段、水で満たされているにょだけど、その水を使えば、魔法を使うことができるにょだ」

「鼻水?」


 一郎が首を傾げると、トウヤがシロコロフと説明を交代した。


「魔力10万の剣士が、剣技55000、腕力15000、素早さ15000、跳躍力15000に魔力を振分けているとしよう。この剣士は魔力10万未満の魔法なら、全て使うことができるけど、魔法に消費する魔力に応じて、剣技、腕力、素早さ、跳躍力の魔力が減少して、それぞれの能力がレベルダウンする」

「みんなが魔法を使えるなら、魔法使いの存在意義がないですね」

「いやいや、多くの魔導書を読み解いて、それを使いこなすには、知性に魔力を振り分ける魔法使いでなければ難しい。知性に魔力を振ってなければ、せいぜい一系統の中級魔法しか使えない」

「それなら剣士がステイタスを振り直して、魔法使いに転職は可能なんですか?」


 一郎は、ゲーム感覚で質問している。

 モンスター初討伐の一郎が初心者ならば、トウヤはゲームを知り尽くしたベテランプレイヤーだった。


「転職は可能だが、そもそもの素質がない職業に転職しないだろうね。この世界ゲームでは、魔力が肉体に及ぼす影響が、そいつの素質に掛け算される。例えば握力10キロの者が、魔力で腕力を100%向上しても20キロだが、握力30キロの者なら同じ魔力で60キロになる。つまり元々知性の低い者が魔法使いになるより、頭の良い奴が魔法使いになった方が、覚えも早いし、より多くの魔法を使えるようになる」

「だからシロコロフのように、嗅覚に優れた獣人は、嗅覚に魔力を振り分けているのか」

「全振りは、さすがに極端だと思うけど、獣人の嗅覚は、人族の数十倍と言われているから、たぶん上限まで引き上げた俺の嗅覚でも、シロちゃんに勝てないだろう」

「上限?」

「魔力で強化しても、肉体の限界以上には能力が向上しない。魔力1億7千万の俺が脚力に全振りしても、100メートルを1秒で駆け抜けられないってことだ。まあ魔力で強化しつつ筋肉を鍛えることで、上限値を引き上げることも可能だが、むちゃすれば逆効果にもなる」

「魔力ゼロの僕は、魔法が使えないだけじゃなくて、身体能力でも劣るんですね」


 一郎は超能力を使えるので、トウヤたち冒険者に劣るところがないと、自惚れていたことに気付いた。

 魔力ゼロの一郎は、冒険者のように魔力で身体能力を向上できなければ、運動神経や体力に自信もない。

 トウヤの説明を聞いた彼は、急に落ちこぼれた気分になった。


「一郎くん、俺と比べて落ち込むことはないぞ。冒険者でも魔法使いなんかは、身体能力に魔力を振り分けてないし、町にいる連中ほとんどは、魔力5万に満たない。一郎くんが、俺の弟子として魔剣や魔道具を極めれば、そこらの冒険者以上に強くなれる」


 トウヤは、一郎の肩を抱いて慰めた。


「師匠……、ありがとうございます」

「さあ一郎くん、チュートリアルの始まりだ!」


 一郎たちの進む先には、頭にツノを生やしたドーベルマンのような魔獣が三匹、道を塞いでいる。

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