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事件解決

 一郎を取り囲んでいるのは、正面に立っている槍使い、その背後にある倉庫の出入り口に剣士、彼が横顔に振り向けば、両手に短剣を構えている忍者風の暗殺者が三人、紫のローブを被った魔法使い。


「こいつ、つけられていたのか。無能者は、どいつもこいつも役立たずだ」


 槍使いは、足元に転がるチンピラを睨みつけている。

 一郎がミーアスティたちが監禁されている檻を見つけると、視線に気が付いた魔法使いが、遮るように背中に隠した。


「捜索クエストを請負ったのは、ギルドの獣人だと聞いていたが、お前は何者だ?」


 魔法使いに問われた一郎は『マジシャンズブラック』と、名乗ってから一呼吸置いて−−


「君たちは、奴隷商に雇われた冒険者だね。私は拉致された少女たちを返してもらうけど、手出ししなければ身内のごたごたに付き合う暇もないので見逃してやるよ」

「ワシらを見逃す? 見逃してくださいじゃろう? ワシらは六人、いずれも死線を掻い潜るベテラン冒険者で、人を殺すことにも長けておれば、お前を返り討ちにして山に埋めてやろう」


 魔法使いは、ヒヒヒっと、じつに魔法使いの老人らしい笑い方で、一郎に啖呵を切る。


「勝てない喧嘩は、買わない方が良いと思うよ」

「それは、ワシらの台詞じゃよ」


 眉を吊り上げている彼らは、突然現れた侵入者に殺気を向けており、話し合いに応じる気配ではなかった。

 一郎はテレパシーで、ここでのやり取りを殺されたチンピラを通じて、覗き見している。

 だから魔法使いの言葉が、けして脅し文句ではないと理解していた。


「お前はマジシャンズブラック、黒い魔法使いを名乗っているが、魔法使いが杖を持たずに、俺たちのアジトに乗り込んでくるとは、どういう了見だ。それとも魔法使いは偽りで、お前の武器は腰に差した魔剣か」


 チンピラを刺殺した槍使いが、六人のリーダーなのか。

 一郎を正面から睨み付けている彼は、軽装備に長い片鎌槍を脇に抱えており、他の冒険者にも増して、研ぎ澄まされた殺意を向けている。


「俺の名前はナンジョー、サザーランドで騎士公だった槍の使い手だ。お前も知っているだろうが、異世界から召喚された魔力1億7千万の勇者に勝負を挑んで、互角に渡りあった城の槍大将が、私怨で騒動を起こした罪で国外追放された事件。俺が魔力1億7千万の勇者と、互角に渡りあった槍大将ナンジョー様だ」

「知らん」

「サザーランドの槍大将ナンジョーを知らんだとッ、サザーランドの勇者と互角に渡りあった俺はッ、1億7千万の魔力に匹敵する戦闘技術があるんだ!」

「それは凄いのか」


 槍使いのナンジョーが『お前らは手出し無用だ』と、両手を腰に当てた一郎との一騎打ちを申し入れると、他の冒険者は構えていた武器を下ろした。


「先に聞いておくけど、君に刺されて倒れている男は、回復魔法で蘇生できるの?」

「回復魔法では、死んだ人間を蘇生できない。そもそも魔力を込めた攻撃で斬られた傷は、魔法で回復しないんだ。そんな当たり前のこと、どうして確認する必要がある」

「では君たちを殺さないように、私は手加減しないといけないのか」


 身を血走らせたナンジョーが『ほざけ!』と、槍を刺突してきたので、一郎は手を翳して切先を止めた。

 それから一郎は、ナンジョーが力を込めた槍の穂先をテレキネシスで捻じり切る。


「え?」


 カランっ、と音を立てて穂先が床に落ちると、ナンジョーは何が起きたのか、理解できずに呆然とした。

 一郎は続けてナンジョーの背後に立っていた剣士をテレキネシスで、倉庫の外まで吹き飛ばす。


「こ、こいつ杖を媒介しないで無詠唱の魔法を使うぞ」


 剣を抜いて下段に構えた剣士は、一郎の追撃に備えて態勢を立て直した。

 マントを翻した一郎は、剣士を追いかけて、倉庫を出て更にテレキネシスで、剣士を後方に吹き飛ばす。


「マジシャンズブラックを逃がすな!」


 ナンジョーは暗殺者の三人に、一郎を逃さないように叫んだ。

 振り返った一郎は、一度に一つしか超能力を使えないので、狭い入口に詰めかけた暗殺者三人に向けて、魔剣ウンディーネを振り下ろした。


「マジシャンズブラックが望むのは絶叫の滝、私が命じる魔剣ウンディーネッ、滝壺に落ちろ激流! ウォーターフォール!」


 暗殺者たちは、頭上から叩きつける大量の水に四方に押し流されて、気を失っている。

 剣士は背中を向けた一郎に斬り掛かろうと、剣を振り上げたものの、掴んでいたはずの柄の感触が消えた。


「これは、危ないので没収します」


 一郎はアポートを使って、剣士から剣を取り上げて、剣を暗い森の中に投げ込んだ。

 得物を失った剣士は『バケモノか!』と、超能力と魔剣ウンディーネを使い熟して戦う一郎に臆している。


「バケモノと呼ばれるのは、さすがに慣れたな」

「ひぃぃいっ、いつの間にか後ろにっ、うぐッ」


 一郎は、後退りする剣士の背後にテレポートして、後ろ首に手刀を振り下ろして気絶させた。


「そうか、お前の正体がわかったぞ。カーネル王国には、悪魔が出没したとの噂があるが、無詠唱で闇属性の空間転移魔法を使った黒い魔法使い……、お前の正体は、魔王軍の悪魔に違いない」


 折れた槍の穂先を向けたナンジョーは、槍の口金に魔力を集めている。

 槍使いは魔力の媒介となる太刀打ちさえあれば、魔法攻撃が可能だった。


「俺が望むのは悪魔の殲滅、願いに応えろ片鎌槍ラリハートルッ、射抜け貫け爆砕せよ! スプリングランサー!」


 ナンジョーが後ろに引いた槍を突き出すと、口金から発した青い光が一郎に向かって渦巻きながら伸びてくる。


「魔法攻撃は苦手だな」


 咄嗟に身構えた一郎だったが、質量のない魔法攻撃は、テレキネシスで軌道を変えるのが難しい。

 光輝く渦巻きは次第に円周を広げており、走っても逃げ切れないのは確実なので、一郎は夜空を見上げて直上にテレポートした。


「バカめッ、勇者と互角に戦った俺のスプリングランサーは自動追尾だ! お前の魔力が勇者ほどでなければッ、相殺することはできんぞ!」

「魔力がないのに魔力で相殺できるか! くそっ、連続テレポートで逃げ切れるか?」


 しかしナンジョーの放ったスプリングランサーは、テレポートした一郎を追い掛けずに目標を見失って霧散する。


「な、なぜだ……、魔力1億7千万の勇者を窮地に追い込んだ自動追尾のスプリングランサーが、なぜ悪魔の魔力を追跡しないで霧散した」


 一郎は魔力ゼロ、魔力を追跡する魔法攻撃スプリングランサーでは、追尾が出来なかったのである。


「くらえッ、マジシャンズブラックドロップドキック!」

「ぐはッ!」


 一郎は、自分の身体をテレキネシスで加速すると、天空からナンジョーの鳩尾に向かって急降下した。

 彼はそこらに倒れているナンジョーたちが、ピクリとも動かないのを見て、彼らが死んでいないか不安になる。


「残りは、爺さんだけだけど続ける? それとも外で倒れている連中を回復して逃げるなら、老人をいたぶる趣味もないし、見逃してやるけど」

「ワシらを見逃してくれるのか? そんな手には騙されんぞ」

「今から女の子たちを解放するけど、爺さんは手出しするなよ」


 倉庫に戻った一郎は、檻の前を守っていた魔法使いに問いかける。

 物理攻撃であれば対処も容易いが、超能力は魔法攻撃と相性が悪いので、出来れば魔法使いとは戦いたくなかった。

 魔法使いは杖を向けているが、勝てる見込みがないと悟った様子だったので、一郎は、彼が腰に下げていた鍵の束を取り上げて、檻の中にいたミーアスティの首を外してやる。


「あなたは?」

「僕は……、名乗るほどの者ではありません」


 一郎は、魔法使いの爺さんが、仲間を連れて逃げ出すのを確認すると、服従の首輪を外した正気を取り戻したミーアスティに、名前を名乗らずに立去ることにした。


「ここには君を捜索に来たシロコロフとタマミという冒険者も、一緒に監禁されているはずです。彼女たちの首輪を外したら、街まで護衛してもらってください」

「わかりました……、シロコロフさんとタマミさんですね。彼女たちには以前にも、奴隷商に監禁されていたところを助けてもらいました」

「ええ、あなたを奴隷商から助けたのは、彼女たちです。僕ではありません」


 捜索クエストを請負ったのは一郎であり、悪魔と呼ばれるマジシャンズブラックが事件を解決すれば、一郎と悪魔の関係を追求される可能性がある。


「では、さようなら」

「ありがとうございます」


 一郎は倉庫の屋根にテレポートすると、

銀髪のシロコロフと、藍色髪のタマミが、奴隷商に捕まっていた少女たちを引率して町に戻るのを見送った。


「クロコには成功報酬の件、埋め合わせしないといけないね」


 一郎は町の方を見ながら、テレポートで帰宅する。

『★』が付いてるタイトルには、登場人物のイラストを追加しています。今後も増やす予定なので、良かったら見直してください୧(^ 〰 ^)୨

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