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裏ギルドの冒険者崩れ

 一郎の見立てでは、事件の黒幕はカーネル王国の地下街を牛耳るロックイートであり、クラインに冒険者ギルドを紹介した雇い主も彼だった。


「ミーアスティの常連客だったロックイートが、クラインから彼女を奪ったのが事件の始まりだ。ネコ科の獣人が好みだった歓楽街のボスは、クラインを唆してギルドに捜索クエストを依頼させた。そうすることで、彼は自分を訪ねてきた冒険者の獣人も、拉致することが出来る」


 一郎は見立てを口にすると、何かを見落としている気がした。


「依頼人のクラインだけではなくて、呼び込みの男も、ロックイートの手下なのですか?」

「僕の推理では、たぶん子分だろう」

「お兄様のテレパシーでは、そこまで解らないのですか?」

「特定の情報を知りたいときは、それに関連した質問することで、相手の思考を読み取る必要がある。チンピラがロックイートの子分だと、常に意識しているわけじゃないからな」


 一郎かテレパシーで読み取れるのは、そのとき考えていることだけなので、相手が意識していない深層心理まで、全てを読み取ることが出来ない。

 しかし一郎は、呼び込みの男が【ボスのところに辿り着く】と、焦っていたのだから、ロックイートの手下で間違いない気がした。


「あのチンピラが、拉致事件に一枚噛んでいるのは確かだ。事件の背景も正確に知っていたし、ロックイートを『ボス』と呼んでいた」

「でも地下街の住人は、ロックイートと面識がなくても『ボス』と呼びますよ」

「うん?」

「ロックイート一家が地下街を作ったので−−」

「そうか、クロコの言うとおりだ。僕も無意識に『ボス』が、ロックイートだと思い込んでいたけど、チンピラはロックイートを『ボス』だと、考えていたわけじゃなかった」


 一郎は、クロコの肩を掴んだ。


「僕が、ロックイート一家のことを聞くように指示したとき、なんて話を切り出したか正確に教えてくれ」

「お兄様に言われたとおり、『訪ねてきた冒険者は、ボスのことを嗅ぎ回っていなかったか』です」

「チンピラがボスを調べていると聞いたのなら、チンピラのボスは、ロックイートではないのかもしれない……。クロコ、ギルドにテレポートするぞ」

「解りました」


 目をギュッと閉じたクロコは、テレポートの感覚に慣れないらしく、息を止めて身を縮こませる。

 一郎は、そんな彼女を連れて、ギルド二階の事務所にテレポートした。

 退勤時間を過ぎていれば、明かりの消えていた事務所には誰もいない。


「クロコは、そこで待っていろ」


 事務所の明かりをつけた一郎は、フリーの冒険者リストを棚から取ると、カウンターの席に座り、行方不明になった二人の冒険者が、ギルドに提出した履歴書を調べた。


「何を調べているのですか?」

「行方不明になった二人の共通点を調べているんだ。彼女たちには、ネコ科の獣人の他にも共通点があるかもしれない」


 ミーアスティの下着をサイコメトリーしたとき、複数の少女が首輪をして、檻に監禁されているビジョンを見た。

 一郎は、サイコメトリーで未来を見通せないので、ミーアスティが過去にも監禁されて救出されているなら、彼女と冒険者との繋がりは、そこにあると考えている。

 

「やはりミーアスティは以前、奴隷商に監禁されて、うちのギルドに捜索クエストが発注されている。その捜索クエストを請負ったのは、音信不通になったフリーの冒険者シロコロフで、彼女を救出するために応援で駆けつけたのが、同じく行方不明になっているタマミだ」


 一郎はシロコロフとタマミの解決したクエスト詳細を読むと、カーネル王国西3区を根城にしていた奴隷商が、町中で獣人を手当り次第に拉致していたらしく、ミーアスティの常連客だったロックイートが、捜索クエストを依頼していた。

 二人の冒険者は、奴隷商の留守を見計らって、ミーアスティたち監禁されていた少女を救出しており、まだ犯人は捕まっていない。

 そしてロックイートが前回、ミーアスティの捜索クエストを依頼したなら、歓楽街のボスが黒幕ではないのだろう。


「下着をサイコメトリーしたとき、囚われていた彼女に気付くべきだった」

「お兄様はブラジャーを握り締めて、檻とか首輪とか呟いていましたね」

「直後に見た公衆浴場のビジョンに気を取られて、失念してしまった。我ながら情けない」

「お兄様も男の子なので、仕方ありません」


 ミーアスティの失踪で始まった一連の事件は、奴隷商がカーネル王国で集めた商品を逃した冒険者に対する意趣返しの可能性が高い。

 犯人の奴隷商には、クラインが冒険者ギルドに捜索クエストを依頼すれば、前回救出に成功したシロコロフとタマミが、クエストを請負う公算があったのだろう。


「ロックイートが、クラインにギルドを紹介したのは、たまたまだったのか? いいや、犯人にとって依頼者が誰でも良かったんだ。前回のミーアスティ捜索は、ギルドを使って成功しているんだから、彼女を拉致すれば、シロコロフとタマミを誘き寄せられる」

「奴隷商の動機が、二人への逆恨みなら直接狙えば良いのではありませんか?」

「冒険者の戦闘スキルは高いから、ミーアスティのように簡単に拉致れないよ。犯人はミーアスティを餌に、何処かで罠を仕掛けたんじゃないか」

「あと一つ、なぜ前任者は、もふもふ天国でロックイートのことを調べていたのです?」

「ロックイートは前回の依頼者だったし、話題くらい出るだろう」


 一郎は遠くの物体を手元に取り寄せるアポートを使って、クロコに初めて仕立ててもらったマント付きの派手な服を取り寄せた。


「こんなスカーフに穴を空けただけの覆面では、あたしの作った服に似合いません。ちょっと貸してください」


 クロコは、服を着替えて急場凌ぎで作ったアイマスクを付けようとした一郎から、アイマスクを取り上げる。

 彼女はウエストポーチから裁縫セットを出すと、床に小さな魔法陣を描いて、アイマスクと一緒に並べた。


「あたいが作りたいのは、お兄様に人相を隠す覆面、あたいに流れる縫製師の魔力に願う、プレゼンスリメイク」


 クロコが呪文を唱えると、小さく凝縮した黒いスカーフに、裁縫セットから伸びる金糸と銀糸が吸い込まれる。


「クロコの魔法は、楽して服が作れて良いね」

「縫製師の魔法は、縫製工程を完璧にイメージ出来ないと失敗するのです。だから実際の作業を手仕事で覚える必要があるので、あたいレベルの術者になるには、下積みが大変なのですよ」

「ローマは一日にして成らずか。クロコは、僕なんかより努力家だし、真面目に仕事している」


 一郎はクロコの頭を撫でると、彼女が誂えてくれた刺繍入りのアイマスクを付けた。

 新調したアイマスクは、刺繍の施された服と、よく似合っている。


「お兄様が着替えたと言うことは、ミーアスティたちの監禁されている場所が解ったのですか?」

「ああ、この世界には電話がないから、三人目の冒険者が現れたと知ったチンピラは、どう処理すれば良いか、彼のボスに面と向かって話すしかない」


 一郎のテレパシーは、面識のある人物なら遠くに離れていても心を読み取れれば、テレパシーを応用した感知能力で居場所を特定できた。


 ※ ※ ※


 もふもふ天国で呼び込みをしていたチンピラは、クロコを尾行するために店を抜け出したものの、彼女を見失って途方に暮れている。

 もっともチンピラ風情の彼は、冒険者を名乗るクロコを尾行したところで、拉致ることも出来ないし、口封じすら出来ないと考えていた。


「とりあえず三人目もメス猫だったし、ボスに報告だけしておくか」


 チンピラは、もふもふ天国に戻らずに、適当な店を経由して地上に出ると、その足で向かったのは、町外れの大きな倉庫である。

 彼は倉庫の前に立っていた剣士と槍使いに、両手を上げてボディチェックを受けた後、倉庫の重い扉を開けた。

 倉庫の中では、各々武器を携帯した四人の男が丸テーブルを囲んで、カードゲームに興じている。

 四人の奥には、呪われた奴隷の首輪で声と自我を奪われたネコ科の獣人少女が、檻に閉じ込められていた。

 少女たちは、檻を背にして虚空を見つめる者、横に倒れて寝ている者がいて、そこにミーアスティ、シロコロフ、タマミの三人もいる。


「こんな夜更けに、どうしたんだ?」


 手札をテーブルに伏せた男の一人が、アジトに訪問してきたチンピラに声を掛けた。

 倉庫の外を見張る二人、そしてカードに興じている四人は、奴隷商が金で雇った冒険者崩れの用心棒であり、ミーアスティを誘拐して、ボスに煮え湯を飲ませた冒険者のシロコロフとタマミを捕まえた実行犯である。


「ギルドのメス猫が、またミーアスティの捜索クエストを受けて探し回っている。目的のメス猫二匹を捕らえたんだから、そろそろ狩り場を変える潮時だと、ボスに伝えて欲しいんだ」


 手札を戻した男は『慌てるな』と、チンピラの言い分を一蹴して、カードを一枚チェンジした。


「どうせ仕入れた売り物は、この国で売り捌けない。俺たちの商品は鮮度が命の生モノだから、来週にはカーネル王国とおさらばして、奴隷取引が合法の砂漠に向かうさ」

「じゃあ三人目のメス猫が、俺たちが逃げる前に、真相に辿り着いたらどうする? 憲兵が動けば、越境するのが難しくなるぜ」


 チンピラの言葉を聞いた四人は、それぞれ顔を見合わせて、肩を竦めたり、鼻で笑ったり、彼を小馬鹿にしている。


「やだねぇ、これだから魔力も鍛えず、口ばかり達者な無能者は、すっかり負け犬根性が染み付いている」

「な、なんだと、俺が負け犬だと言うのか。俺が負け犬なら、ギルドを追放された冒険者のてめぇらだって……うッ!」

 

 外で見張りをしていた槍使いが、チンピラの背中から、得物を使って心臓を貫いた。


「てめぇら……、な、んで仲間の俺を」

「ボスは前回の失敗を教訓にして、お前みたいな無能者ばかり集めても、組織が大きくなれないと学んだ。ボスは今後、無能者を組織から追放して、俺たち冒険者を集めて、裏ギルドを立ち上げる考えだ」


 槍使いがチンピラから槍を引抜くと、横に振って穂先の血を払い除けた。

 そして槍使いが跪いて蹲る男を蹴飛ばしたとき、眼の前にマントを翻した黒衣の一郎がテレポートしてくる。


「えーっ、仲間割れの最中だったの? 彼が死んでしまったら、ここにテレポートできなかったので、一歩遅れたらやばかったよお」


 一郎がテレポートしたのは、血溜まりに倒れた男の命が絶え果てる瞬間だった。


「何処から入ってきた!?」

「ええと、空間転移魔法です」

「お前は、闇属性の最上位魔法を使うのか」


 見張りの剣士も、騒動に気付いて倉庫に飛び込んでくると、一郎は冒険者崩れの六人に囲まれてしまった。

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