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名探偵再び

 ミーアスティの捜索は、ギルド一階の掲示板に貼り出されており、捜索クエストを受けたフリーの冒険者は、三日以内に経過報告しなければ失敗とみなされて、改めてクエスト参加者が募集される。


「ミーアスティさんの捜索クエストは、これで三度目の再掲示ですね」

「そうなの?」

「クエスト参加者の二人とも音信不通だし、やっぱり何かあるんだろうな」


 一郎が声を掛けた人族でクエスト管理者のシャルネ・マリーダは、彼より歳下で中学生くらいに見える。

 マリーダは将来、冒険者になりたいらしく、クエスト管理をこなしながら、休日になると弓使いのエリアロスを師事していた。

 クエスト管理者としての仕事には、あまり興味がない様子である。


「冒険者がクエスト中に失踪したのか……。それは、何かありそうだね」

「ねー」

「マリーダ、捜索クエストを掲示板に貼り出すのは、ルイズさんに相談してからにしよう」


 一郎は掲示板から、ミーアスティ捜索クエストの貼紙を剥がした。


「わかりました。他にやる事があれば、何でも言ってくださいね」

「僕はギルド長室に行くので、依頼書を仕分けてくれますか? 一人でこなすには数が多いけど、頑張ってください」

「はい。イチローさんも、お仕事がんばってください♡」


 冒険者志望のマリーダは、一郎にとって職場で半年ほどの先輩だったが、クエスト管理者を腰掛け程度に考えているので、仕事覚えが悪く、歳上の彼が仕事を指示している。

 養護施設で育った一郎は、幅広い年齢層の子供との共同生活の中で、付き合い方を心得ているつもりだった。

 マリーダのような年頃の女子は、歳上の男子に頼りがちであり、少し突き放すくらいの態度を取らないと、すぐに付け上がる。


「僕は、歳下の女の子が苦手なんだよね」


 マリーダがそうとは限らないが、甘い顔を見せて仕事を手伝うと、か弱い女子をアピールして、何でもかんでも仕事を押し付けるようになるので厄介だ。


「イチローの考えていたとおり、ミーアスティの捜索クエストは、オレのギルドを狙った罠だった可能性が高い」


 一郎から報告を受けたギルド長のルイズは、クエスト中に行方不明になったフリーの冒険者が、何者かに監禁されているか、最悪の事態も予想できると言った。

 テレパスの一郎が、ミーアスティと顔見知りであれば、テレパシーの感知能力を使って居場所を特定することも出来るし、依頼者のクラインが首謀者ならば、どんな企みか知ることが出来る。

 しかし彼は見ず知らずのミーアスティを探すことが出来なければ、彼女の捜索を依頼したクラインは、この件の首謀者ではなかった。


「依頼者のクラインを呼び出して、彼にギルドを紹介した雇い主が誰か、確認した方が良いと思います」

「彼の雇い主と会えば、こちらの手の内を明かすことになる。ミーアスティを餌にして冒険者を拉致するのが目的なら、証拠を抑えてから踏み込まなければ、シラを切られて、拉致されている冒険者が危険にさらされる」

「二人が生きていれば、確かに危険な賭けですね。ルイズさんは、まだ生きていると思いますか?」

「ああ、冒険者を無差別に殺すだけなら、町中で辻斬りすれば済む話しだ。何者かが冒険者を餌で釣り上げて、何処かに誘き寄せているなら、彼らを監禁するのが目的だと、オレは思うぞ」


 ルイズは、首謀者が捜索クエストを依頼した理由について、冒険者を監禁することが目的だと考えている。


「では二人の共通点−−、と言うか、捜索クエストを請負う冒険者の共通点が解れば、雇い主の目的が解りますね」

「うん?」

「ルイズさんの言葉を借りると、ただ冒険者を拉致するのが目的なら、町中で見繕えば良いんですよ。つまり雇い主は、捜索クエストの参加者を集うことで、拉致する冒険者を選別しているわけです」


 ルイズは真剣な表情で、執務机に肘をついて手に顎を乗せた。


「斥候や捜索クエストには、文字通り鼻が利く、獣人の冒険者が請負う。獣人は少数種族だし、町中で拉致すれば憲兵が出動して大騒ぎになる。しかし冒険者ならクエスト中のトラブルで行方不明になっても、憲兵は捜索隊を出さない」

「では雇い主の狙いは、獣人の冒険者ですか?」

「それと、もう一つ共通点がある。体力のある獣人は、冒険者より山仕事や建設現場など力仕事に従事している。冒険者になる獣人の大半が、体力値の低いネコ科の女子だ」

「雇い主の狙いは、ネコ科の獣人女子……。ルイズさん、僕が捜索クエストを請負っても良いですか」

「イチローがクエストを?」

「クエスト管理の仕事は、ちゃんとこなした上です。マリーダだって、休暇中にエリアロスと狩りしているし、就業時間外の副業は、禁止されていませんよね」

「イチローがデキる男だと知っているが、無能者のキミには、ミーアスティの居場所を探せないだろう?」

「その点は、知り合いの獣人女子に手伝ってもらいます」


 ルイズに許可をもらった一郎は、仕事が終わると、裏路地にあるクロコのテーラーを訪ねた。


「−−と言うわけで、クロコに捜索クエストを手伝ってもらうことにした」

「と言うわけでじゃないですよ! 他ならぬお兄様の頼みなので、快く引受けたいのですが、あたいは冒険者ではないし、前任者が二人とも行方不明なんですよね? あたいには、死亡フラグが立っているように見えます!」

「やばくなったら、出し惜しみしないで、超能力を使いますよ」

「嗅覚だって、冒険者ほど鍛えてません」

「それなら、クエスト参加者に貸し出されるミーアスティの衣類がある」

「いや、だから匂いの染みついた衣類があっても、あたいの嗅覚では探せません」


 一郎は『チッ、チッ、チッ』と、人差し指を横に振る。


「ミーアスティの居場所は、僕が彼女の衣類をサイコメトリーして探す」

「サイコメトリー?」

「超能力を使って、物体に残っている持ち主の記憶を辿る。ミーアスティが単なる被害者じゃなくて、雇い主と結託しているなら、彼女の立寄り先を辿り、彼女の知り合いの思考をテレパシーで探れば居場所を特定できる」

「じゃあ、あたいは何のために必要なんですか?」

「あちらが餌を使うなら、こちらも餌を使って釣り上げる」

「あたいは、イチローの釣り竿に吊るされる餌なのですね」


 金銭で獣人のミーアスティを買い付けたクライン、その雇い主が彼女を使って、消息不明になっても憲兵が動かない、ネコ科の獣人の女子を集めている理由に、一郎は思い当たりがあった。


「さて、さっそくミーアスティの衣類をサイコメトリーするか」


 ミーアスティの衣類は、余計な匂いが混じらないように、金属製の小箱に入れて保管されている。

 一郎が小箱を開くと、純白のブラジャーとショーツのセットが収められていた。

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