表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/57

超能力は魔法じゃない★

 城の門番は、学ランを着た少年と、大きな錫杖を持つ少女が城を出るの確認すると、堀に掛けられた吊橋を引き上げた。


「田中様、こんな結果になって申し訳ありません」

「僕が無能のせいで、アリッサまでお城を追い出されちゃって、こちらこそ申し訳ない」

「もともと雇われですし、王様の素人考えに振り回されるのも疲れました。異世界から田中様を召喚しておいて、魔力ゼロと解ったら、城から追い出すような王様には、さすがに愛想が尽きました」


 一郎に深々と頭を下げているシャルネ・アリッサは普段、魔法陣で幻獣を召喚してモンスターと戦う召喚士なのだが、王様の思い付きで、勇者召喚なんて荒業をやらされた結果、地球人の一郎を召喚してしまった。

 学ランに着替えた一郎は朝食中、足元に現れた魔法陣に飲み込まれて、アリッサの住んでいる異世界に召喚されたものの、魔力ゼロ、剣の腕前もなく、冒険者の適性なしの無能者と認定されてしまう。

 一郎が役立たずだと解ったのだから、地球に送り返せば良いのだが、召喚士は召喚できても返すことが出来ないらしい。

 異世界から勇者を召喚できると考えて、ワクワクしていた王様は、タイトルに騙されてクソゲーを買った子供が、壁にカセットを投げつけるように、冒険者にすらなれない無能者一郎と、勇者を召喚できなかった召喚士アリッサの二人を城から追放した。


「あたしが必ず、田中様を地球に帰す方法を見つけます。それまではカーネル城下に私邸がありますので、ご自由にお使いください」

「アリッサは?」

「二人で暮らすには狭い家なので、しばらく冒険者ギルドで厄介になります。古巣のギルドだし、クエストを消化していれば三食寝床付きです」

「家主を追い出して、僕だけ一人暮らしは気が引ける。寝室が一つなら、僕が床に布団を敷いて寝るよ」

「床に布団だなんて、そんな真似させられませんよ」

「僕は日本人だから、床に寝た方が落ち着くんだ。それに不慣れな異世界暮らしだから、僕はアリッサと一緒に暮らしたいんだ」


 一郎は爽やかな笑顔で、アリッサに同居を迫るのだが、内心は下心全開である。

 異世界転生と言えば美少女、美少女と同居と言えばラッキースケベ、ラッキースケベと言えば同居、同居と言えば美少女なので、もう一郎はアリッサと同居するしかなかった。


「そうですか……まあ田中様は、確かに魔力ゼロだし、一人で生活するのが難しいかもしれませんね。解りました。私も一緒に暮らします」

「あざっす!」

「大袈裟ですよ」

「お願いついでに、田中様なんて他人行儀な呼び方じゃなくて、これからは下の名前で呼んでもらえないかな」


 鼻頭を指で掻いた一郎は、照れくさそうにアリッサの顔を見つめている。


「えー……、恥かしいです」

「いいじゅわ〜ん、これから僕らは同棲するわけだし〜、お互い名前で呼び合おうよぉアリッサちゅわ〜ん」

「わ、解りましたっ、解りましたから、そのやらしい話し方やめてください!」


 頬を上気させたアリッサが『イチローさん』と、少し躊躇いながら名前を呼べば、学ランの胸を抑えて一郎は悶絶する。


「イチローさん、どうかしたんですか?」

「アリッサが尊すぎて、キュン死するところでした」

「キュン死?」

「こちらの話なので、お気になさらず」


 アリッサが狭い家と紹介した私邸は、町外の林にあり、木造二階屋のログハウス風の建物だった。

 玄関を入ればキッチンダイニングと水回り、二階には寝室と書斎がある。


「アリッサ、お風呂は何処にあるの?」

「え、あたし臭います?」

「いやいや、お風呂場は、まず確認しておかないと駄目だからね。お風呂でばったり鉢合わせは定番だし、内鍵が掛かるのか、窓はあるのか、そういうのチェックしておかないとさ」

「町には浴場がありますけど、普段はお湯を沸かして行水ですね」

「何処で?」

「台所に、タライを用意するのです。お湯がもったいないから、入浴するなら一緒に入りましょうね」

「おう……ジーザス・クライスト」


 一郎は跪いて、アリッサを拝んだ。

 小躍りした一郎は、もう日本に帰れなくても良いと思った

 ちょっと間違って、女子トイレに入っただけで、クラスの女子全員に蔑まれた日本には、帰れなくてもぜんぜん構わない。

 アリッサ女神様、異世界バンザイである。


「しかし不思議です」


 アリッサは一郎の頭の先から爪先まで、しげしげと見ながら呟いた。


「召喚士は状況に応じて、呼び出す幻獣の強さを事前にイメージしてから召喚しているのですが、地球上で最も強い人物をイメージしたらイチローさんだったのですよ。だから魔力ゼロとは信じられなくて……、でも実際に魔力ゼロなので、言い訳にしかなりませんね」

「地球人は、そもそも魔法が使えない」

「そうとは知らずに、本当に申し訳ありません」

「でも、もしも僕が魔法を使えたとしても、いきなり呼び出された世界を救う義理がないし、王様の思い通りにならなかったと思います」


 この世界では、魔法詠唱を覚えたり、魔法陣を使えば、魔力量に応じて子供ですら魔法が使える。

 また魔力は、剣の技や体術にも転用できるために、冒険者になる剣士や武闘家も、魔力量が多いほど優秀な者が多い。

 一郎は魔力ゼロ、魔法使いになれなければ、剣士や武闘家などの冒険者にもなれないのである。


「そんなことよりアリッサ、僕は召喚されてから、一度もお風呂に入ってないわけですよ」

「そうでしたか。では薪を割ってから、お湯を沸かすので待っててください」

「魔法で、お湯を沸かせば良いんじゃないの?」

「あたし召喚士なので、魔法は苦手なのです。手加減に失敗したら、火事になって家が燃えちゃう」

「なるほど。では男の僕が、薪割りしてくるよ」

「有難うございます」

 

 薪割りを買って出た一郎は、早くアリッサと入浴したくて待ち切れなかった。

 だから家の横に積まれていた丸太を一本、テレキネシスで薪割台に建てると、手斧を持って空中に浮遊して、まるで丸太をケーキのように手頃なサイズに切り分ける。


「あれ、ずいぶん早かったですね」

「お湯を沸かす分なら、薪の取置があったからさ」

「あたし火熾しが苦手で、火床の用意がまだなんです」


 焦れた一郎は、アリッサの目を盗んで指を鳴らすと、パイロキネシスを使って、竈に焚べた薪に火をつけた。

 どうやら一郎の超能力は、魔法ではないので魔力ゼロでも使えるらしい。


「さあアリッサ、一緒にお風呂に入ろうではないか」

「ではイチローさんから、お先にどうぞ。あたしも入りますから、出たら呼んでください」

「えーッ、一緒に入らないの!?」

「お水を汲みに行く手間を省きたいから、一緒のお湯で入るのですよ?」

「そっちかーいッ、そっちなのかーい!」


 超能力者の田中一郎は、いけ好かない王様の前では能力を披露しないが、煩悩を満たすためなら、能力を出し惜しみしない男子高校生である。


挿絵(By みてみん)

名前:シャルネ・アリッサ

種族:人族

職業:召喚士

魔力:53万


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ