ギルド長の圧迫面接
ここから第二章です。
一郎は数日後、冒険者ギルドのクエスト管理の仕事を得るために、エリアロスに推薦状をもらって冒険者ギルドを訪ねた。
冒険者ギルドの建物は、一階に所属する冒険者や、掲示板に貼り出させるクエストを確認している無所属の冒険者が集まる広い空間と、彼らに酒や食事を提供する店舗が、テナント営業している。
ギルドの一階は、冒険者の他にも依頼者や、食事だけにくる家族連れもいた。
「冒険者の酒場と言うより、寝てる奴や、勉強している子供もいるし、ア○オ北砂のフードコートみたいだ」
一郎が二階に上がれぱ、クエスト依頼受付窓口、報酬支払い窓口などと看板に書かれたカウンターが並んでおり、スタッフが右へ左へあくせくと働いている。
一郎は天井から吊るされた看板を指で追うが、採用窓口が見たからないので、とりあえず『ご相談窓口』の呼鈴を鳴らした。
すると、クエスト管理窓口に座っていた女性スタッフが、小走りにやってくる。
「ご相談内容は何でしょうか?」
女性スタッフの名札には『クエスト管理係 リエリッタ』と書かれていた。
名字が書いていないのは、耳の長い色白のリエリッタが、エルフだからだろうか。
一郎は家名があるのが人族とドワーフだけだと、アリッサから聞いていた。
「窓口は別だけど、リエリッタさんが相談係も兼任なんですね」
「聞いてくださいよお〜っ、事務職は薄給なのに雑用が多いから、人が入っても、すぐに辞めちゃうので、いつでも人手不足なんです。ほら、私は美人じゃないですか? 美貌を活かして一階の受付嬢になって、稼ぎの良い冒険者に嫁ぎたかったのに、クエスト管理者に欠員が出たからって、こんな二階の雑用係にされたんですよお」
リエリッタが一郎の腕に泣き縋るので、彼は頭をポンポンと叩いて慰める。
自分から強いとか美人とか言う奴は、中の上程度だなと、一郎は思った。
「僕は、リエリッタさんのお役に立てるかもしれません」
「え、稼ぎの良い冒険者を紹介してくれるんですか? それとも貴方が、私と結婚してくれるんですか? 年齢不詳のエルフとの結婚するのは、抵抗ありますか?」
「結局そこなんだ」
「この際、寿退社できるなら、パッとしない貴方みたいな男でも良いんです。このまま行き遅れて、ギルドのお局様になりたくないのよ」
「ここは、僕が相談する窓口ですねよ。僕が、リエリッタさんの愚痴を聞く窓口じゃなくて」
「あら、そうでした」
一郎はエリアロスの推薦状をカウンターに置くと、クエスト管理者の面接に来たので、ギルドマスターに取次いでくれるように、リエリッタに頼んだ。
「イチローは、面接に来たのね」
「はい」
「それなら、そこに座って待っていて」
椅子に腰掛けて呼ばれるのを待っていた一郎は、室内を行き交う冒険者を見て、建物の二階と三階に、宿泊施設があることに気付いた。
アリッサは当初、一郎と別れてギルドに住込みで働くと言っていたので、ここの住人は、ギルドに所属している冒険者だと思う。
「しかし冒険者のコスプレ感は、町民に増して半端ないなあ」
リエリッタは『イチロー、こちらへどうぞ』と、ギルド長室に案内してくれた。
彼女は入口のドアに手を掛けると、
「イチローが面接に合格したいなら、ルイズさんには『女みたい』とか言ったら駄目だよ」
「うん?」
「彼は、女扱いされるのが嫌いなの」
「わかった」
リエリッタが、一郎を連れてギルド長室に入ると、彼らに背を向けて長い背もたれの椅子に座ったギルド長が、手を上げて彼女を部屋の外に下がらせた。
「イチロー、とりあえず椅子に掛けたまえ」
「はい」
ギルド長の声は、まるで少女のように美しく澄んでいる。
リエリッタが注意するのだから、ギルド長は、女のようだと言われるのが、よほど嫌なのだろう。
「悪いが経費削減のおり、お茶は出さんし、水も出さん。喉が渇いたら、ツバでも飲んでおけ」
「わかりました」
一郎はギルド長に歓迎されていないのかと、執務机の向いに置かれた椅子に座り、肩を落とした。
「エリアロスの推薦状がなければ、オレはイチローのような無能者と面会するつもりがなかった。会うだけ会ってやったのだから、回れ右して帰っても良いぞ」
ギルド長が椅子を回転して、一郎に向き合うと、犬を追い払う仕草で手を煽る。
冒険者ギルドのギルド長ロザリオ・ルイズは、長い金髪に中性的な顔立ち、着ている白い鎧も女性らしいフォルムで、どこか色香が漂う剣士だった。
「でもエリアロスには、クエスト管理の仕事に魔力が必要ないと言われました」
「クエスト管理は、依頼者の悩みを聞いて、それを冒険者に仲介するのが仕事だ。魔力ゼロのイチローにも出来るし、真面目に働くなら断る理由もない。しかし無能者を雇ったところで、無断欠勤やら遅刻して辞めていく連中ばかりだ」
「僕の場合、アリッサに召喚されたばかりで、怠けているから無能者じゃないんですよ」
「ではイチローは、どこかで働いた経験があるのか」
「いいえ。学校がアルバイト禁止の全寮制だったので、働いたことはありません」
「イチローは見たところ十六、七歳だろう。そんな年頃まで、親のすねをかじるような男には、クエスト管理者など−−」
一郎は立ち上がると、執務机に乗り上げて、ルイズの胸ぐらを掴んだ。
両親に捨てたれた一郎は、親のすねをかじりと言われて、憤怒の感情を抑えきれなかった。
「僕は幼い頃、両親に捨てられている。親のすねをかじったこともなければ、おっぱいを吸った記憶もねえ」
ルイズは、おっぱいを吸った記憶は、みんなないと思った。
「そうだったのか。それは申し訳なかったな。しかしイチローは忍耐不足で窓口業務に向かない、当然だが不採用だ」
「まさかルイズさんは、僕を怒らせようとしていたのか? これはテストだったのか?」
「ああ、わかったら手を離せ!」
「ちょっ、まって」
ルイズが胸ぐらを掴んでいた一郎を突き放すと、純白の胸当てとともに、掴まれていたブラウスが破れてしまう。
執務机から身体を仰け反らせた一郎が、鎧の胸当てとブラウスを握りしめたまま、元の体勢に戻ると、そこには、なぜか豊満な乳房が露わになったギルド長がいた。
「ルイズさんは、女みたいじゃなくて、女じゃないか」
「み、見るな! は、早く鎧を返さんか!」
「す、すみませんっ、って、うぉわ!」
「あん♡ あ、あううっ、ち、ちがう……今のはそういうんじゃなくてえ」
慌てた一郎が執務机を登ると、そのままルイズの胸に飛び込んだ。
いきなり一郎に伸し掛かられたルイズは、思わず上擦った声を上げてしまった。
「ルイズさん、僕はどうしても仕事が欲しいんです。この世界で働いて、男として一人前になりたいんです」
「や、やめてくれ……あ、あん♡」
ルイズに馬乗りになった一郎は、とりあえず彼女の乳房に手を置いて、乳首を見ないようにしながら話を続けた。
「僕を雇ってくれるなら、何だってします!」
「なんだと……、つまり雇われるためなら、イチローは何でもすると言うのか……、オレを強姦して、弱みを握ることも辞さないのか」
「僕の真剣な目を見てくださいッ、雇ってくれるなら何でもします!」
「だからっ、手に力を込めないでぇ、あ、あん♡」
一郎は雇ってくれるなら、どんな仕事でも頑張ると、意気込みをアピールしているのだが、ルイズは、雇われるためなら何でもすると解釈した。
「はあ、はあ、はあ……、オレの負けだイチロー。オレは、お前のような男と出会ったのは初めてだ。クエスト管理者に採用してやろう」
「あざっす! 今日はいろいろと、あざっす!」
「イチローには、知らなかった自分に気付かせてもらったよ。これから楽しみだ」
ルイズは頬を上気させており、一郎を見つめる視線が熱を帯びていた。
「重いから、上から退いてもらえるか?」
「す、すみません」
ルイズは両手で胸を隠しながら立上り、椅子に座って背を向けた。
「出勤は明日から、仕事はリエリッタに教えてもらえ」
「わかりました」
「それから今の出来事は、二人だけの秘密にしてくれないか。オレが、イチローに乳を揉まれて採用したと知られたら、男の冒険者が怯えるからな」
「男が怯える? まあ、そうですよね。秘密にします」
「それから、もう一つだけお願いがあるのだ。今度、皆には秘密でデートしてくれないか……その、オレと」
一郎はルイズの申し出を了承すると、ギルド長は、オレ女なのにチョロインだなと思った。
一郎がギルド長室から出ると、リエリッタが声を掛けてくる。
「イチローは、採用されたの?」
「おう! リエリッタさん、明日から宜しくね」
「ルイズさんが事務職に男の子を雇うなんて、やっぱりエリアロスさんの推薦状のおかげかしら」
一郎が事務所を見渡せば、確かに男性スタッフは一人もいなかった。
「そう言えば、リエリッタさん。ルイズさんは女みたいじゃなくて、女じゃないですか」
「え? うちのギルド長は半陰陽だけど、下半身は男性だし、恋愛対象は女性のはずですよ」
「ジーザス・クライスト!」
一郎が揉んでいたのは、ルイズの雄パイだったのだ。
天を仰いで跪いた一郎は、血涙が止まらなかった。




