悪いのは頭だけ
トウヤは『つまりだね』と、アリッサの顔を指差した。
「悪魔の目的は解らんが、アリッサは、せっかく掴んだ奴の尻尾だ。そこで俺は、君を斬り捨てるよりも、もっと友好的で有効な付き合い方を思い付いたのだ」
「トウヤさんは、アリッサを囮にするつもりですね」
一郎は、アリッサにマジシャンズブラックを悪魔と思われたくないが、トウヤに勘違いさせておけば、安全なので話を合わせることにした。
「俺とリャーナは、悪魔を見つけるために、カーネルの城下町周辺に滞在している。君らが悪魔を見つけたら、この狼煙を上げて俺に知らせろ」
トウヤは発煙筒を二本、テーブルに置いた。
発煙筒は煙だけでなく、強い光と音を発するので、夜間や濃霧の中でも役立つらしい。
「あたしを餌にして、悪魔を誘き寄せるのですか。悪趣味です」
「アリッサ、まだ彼が悪魔と決まったわけじゃないけど、ここはトウヤさんの提案に乗りましょう。どうせ僕らには、拒否権がない」
「一郎くんの言う通り、勇者である俺の提案を断るなら、アリッサを悪魔と手を組む魔女として火炙りにする。俺だって好き好んで、君のような可愛い子を殺したくないんだ。悪魔の捜索に協力した方が、お互いのためだと思うぜ」
アリッサは『そうですね』と、不服な顔で答えた。
「一つ聞いても良いですか?」
「なんだい、一郎くん」
「トウヤさんは、自分を召喚したサザーランドの召喚士も殺したんですか。トウヤさんが狙うのが、アリッサの命だけなら理由を知りたい」
「俺が殺すまでもなく、召喚士は死んだ……。いいや、俺を異世界に召喚してくれた彼女は、何者かに殺されたよ。犯人は、俺のように召喚士を邪魔に思った奴かもしれないし、もしかしたら、あの悪魔じゃないかと思う」
「トウヤさんは、もしかして−−」
「優しい娘だったのに、マジ天使だったのに……、俺のハニーが殺されて、カーネルの召喚士が生きてるなんて不公平じゃないか」
トウヤはバカだけど、根っからの悪人じゃないと思った。
異世界に転移した彼は、きっと突然手にした力に溺れているのだろう。
「俺の話は、それだけだ」
トウヤは一郎に目配せすると、彼は立ち上がる。
「イチローさん、気を付けてください」
「彼は、悪い奴じゃないよ……、たぶん頭以外は」
一郎が家から外に出ると、トウヤが待っていた。
彼は、一郎の肩を掴んだ。