アデレードという女
多分ほのぼのした新作です。
ストックが切れるまでは毎日更新です。
名前はあれど誰にも呼ばれず、書類仕事くらいでしか町の名前を目にしない。
ここは王都から離れ、国境も遠く、危険な魔物も、割のいいダンジョンもなく、ただ街道沿いに存在するため宿屋の数と川魚料理の質は少しだけ評判がいい。
冒険者ギルドに立ち寄るのは旅人と町で育った若者ばかりで、この町に居付く冒険者なんて居やしない。
本当にそうなのかしら、と私アデレードは思う。
この田舎町「パネ」の説明は、そろそろ改訂が必要だ。
「アデリーさん! 次お願いします」
「はぁい」
ギルドの受付から押し出されるように私のカウンターまでやってきた顔馴染みのパーティへいつものように微笑みながら、片眼鏡をかけ直す。
「それじゃあ鑑定させてもらいますねぇ。鋭き瞳の公正の女神様、正しき結果へとお導きください」
わざわざ誓句を唱え、勿体ぶって鑑定に集中しているように見せかけても、最初から私の目には全ての状態が見えているわけだけれども。
腕にはめたリミッターの制限を少し緩めて、まだ年若い彼らをちらりと見ると、見えないところに少し大きな怪我をしている。
持ち込まれたのはパネ川の上流産 角鱒1尾、目立った傷は無し、中型だし銀貨2枚は固いけれど……これはどうしましょう。
「今回は持ち帰りですかぁ? それともギルドに売却?」
冒険者たちはギルドの鑑定だけ使用して、宿屋や料理店に直接売り込むこともあるので一応尋ねてみる。
角鱒は美味しいから人気もあるし。
所持金が少なくて手持ちポーションも無い状態で怪我をしているならギルド売却でそのままポーションを買うだろう。
「ギルド売却で、後で少し切身を買い戻します」
「怪我をポーションで治すにしても、滋養は大事ですからねぇ」
「……アデリーさん、ステータス覗きましたね?」
「見えてしまいましたので。では銀貨6枚で買い取りいたします」
私の出した鑑定結果にぎょっとされる。
パーティのリーダーが贔屓を疑ったのか顔を嫌そうに歪めながら慌てはじめた。
贔屓なんて誰にもしないけれど、私に目を付けられたと思ったのかもしれない。
失礼な。
「こちらが低ランクなのを心配されたんですか? いくら状態がいいと言っても角鱒1尾なんて銀貨2枚がいいところで……」
おや、なかなか良い審査眼。
普通の鑑定なら恐らくその見立てと同じ結果でしょうね。
「角鱒の胃の中に青竜眼石が入ってます。最下級4個、下級2個、中級は無しで上級1個。あと傷ありだけどなかなかの大きさのものもあります。これもカットして磨けば買い手はつきますね。しめて銀貨6枚、おめでとうございます。大当たりですよぉ」
竜の瞳のように見える竜眼石、その一種である青竜眼石は水中にあり、極稀に飲み込んだままの魚が見つかるけれど、ここまで数が多いのは本当に珍しい。
こいつはかなりの大食漢だったのだろう。
最下級や下級の小さいものや傷品は綺麗なだけで装飾品にしかならないけれど、上級になれば魔法使いの人たちに需要がある。
原石で売るか加工に回すかは上の人の判断になるけれど、うまくやれば銀貨10枚相当の品にできるだろう。
通常の町民の月収半分くらいと考えるとなかなかだ。
銀貨を受け取った冒険者たちは浮き足立ちながらそのまま販売カウンターへ移動していった。
いつもなら先に利益を山分けするように言うけれど、さっきちょっと失礼な反応をされたし、若くて可愛いと評判の新人ミネットちゃんにまるっと巻き上げられてしまえ。
無害に見えて商人スキルが莫迦みたいに高いのよ、あの子。
おっと鑑定が終わったから片眼鏡を外さなきゃ。
それからこっそりリミッターの出力を上げる。
能力の制限をしないと、この世界は情報に溢れすぎているからね。視界がうるさくってかなわない。
人は知られることに敏感だ。
意識しなくても革鎧の下の怪我や、魚の胃袋の中身を知ることができるなんて気付かれてはいけない。
私だけが使える能力増幅の魔道具、という触れ込みの片眼鏡を大事そうに仕舞って見せて、周囲を安心させなければ。
ただの度の入ってない片眼鏡だし失くしたところで予備もあるけど。
私が片眼鏡を仕舞ったことを確認してから副ギルド長が寄ってきた。
多少距離があっても、家族欄に新規情報が追加されてるのは見えますけれど。
また隠し子が増えたんですね。
「流石ですねアデレード。青竜眼石の上級とは、しばらく持ち込まれてなかったのでありがたい」
「ええ、きっとギルド職員を守護する公正の女神様がこちらに遣わせてくださったんでしょうねぇ」
副ギルド長の懐が寂しいのは隠し子が増えたせいなのかしら?
私が黙って銀貨2枚で査定してたら、差分をちょろまかしたかったみたい。
それを知るのは私がいないと無理なのに。欲の皮が突っ張ってると盲目になるのね。
私がじーっと見つめていたら、個人情報を見られているような気がしたのか咳ばらいをしながら副ギルド長は離れていった。
お給料減らされたくないので私は誰にもなにも言いませんけれど、いつか公正の女神さまの裁きがくだりますように。
目を離した隙にミネットちゃんがさっきの冒険者たちからしっかり銀貨を巻き上げていた。ポーション以外にもこの町では必要無さそうな装備を上手く煽てながら買わせている。
見習いから新人になったばかりだけど今度販売員の昇格試験を勧めておこう。あの子なら金バッジも夢じゃない。
生涯年収がそこらの冒険者じゃ太刀打ちできないレベルに上がるから、それで私と同じようにいい歳になっても独り身で、仕事に生きていると陰で言われる仲間が欲しい。
自分の胸に輝く白金のバッジを見てため息を吐く。
高給で安定収入、この先ひとりで生きられると保証されてしまった女のバッジだ。
何事もほどほどが一番。余裕だからといって最高ランクの資格に合格してはいけない。
これといって特徴のない町にある暇だった筈の冒険者ギルドに見合わない白金ランクの鑑定員。
適齢期を過ぎても結婚せず、恋人も作らず、仕事一筋の女。
それが私、アデレードという女だ。
だけど私は結婚したい。
愛の女神様、どうか私の前に鑑定しても重大な瑕疵が出てこない素敵な男性を遣わせてください。
今年も寄付金弾みますので!
お金だけは余裕ありますから!
ブックマークと評価をもらえたら嬉しいです。
投稿スケジュール(予約投稿済分)
12/24〜26 12時と18時更新
12/27〜ストック尽きるまで 12時更新
よろしくお願いします。




