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あるワンコの物語

作者: 妖狐

息抜きで書いてみました。

気に入っていただけると幸いです。

 僕は犬。名前はまだないって始めるときっと障りがあるんだろうな。僕は犬だから人間のルールはよく分からないけど。

 名前がないのは、ヨーキーちゃんとかワンちゃんとかいろんな風に呼ばれるから、分からないんだよね。

 僕はなかなか可愛いらしい。

 自分で言ってるんじゃないよ。僕のゲージの前に来て、可愛いと言ってくれる人、多いんだよ。エヘっ。でもね、でも・・・「可愛いから抱っこさせて下さい」って言うもんだから嬉しくて嬉しくて全力でぶつかっていったら、その人の笑顔がひきつって、エプロンさんに返されちゃう。

 あ、エプロンさんってのはいつも僕にご飯をくれたり、お部屋を掃除してくれる人だよ。けっこうたくさんいるの。

 僕は嬉しいから全力で表現してるだけなのに。

 エプロンさんは僕を部屋に戻すときため息つく。

 「可愛いんだけどねぇ・・・」

 ん?可愛いだけじゃダメなのかな?というか何が?僕は今日も元気だぞ。

 僕を抱っこしてくれる人はいっぱいいるけど、みんな困った顔をしてエプロンさんに返しちゃうんだよね。

 ある日僕はお引っ越しをした。

 車に乗ってお引っ越し♪

 引っ越し先には新しいエプロンさんがいた。

 今度のお部屋はいいぞ。広い。いっぱい歩ける。

 「この子は無理かなぁ」

 何が無理?

 「落ちつきなさすぎですよね」

 分かってないなぁ、僕は落ちつきないんじゃなくて、元気いっぱいなの。

 お!お隣はフサフサのマルチーズくんだな。その向こうはシーズーくんか。よろしく!この透明の壁、邪魔だなぁ。遊びに行けないじゃないか。

 僕が一番大きそうだから、なんでも聞いておくれ。教えてあげるよ。

 エプロンさんがいなくなったら鬼ごっこでもしよう。

 僕は人も犬も大好きだー!

 ここにもいっぱい人が来るぞ。

 ほら今日も僕のこと可愛いって人が来る。

 若い女の子だ。後ろにはおかーしゃんとおばーしゃんもいる。

 抱っこさせてって?もちろんいいぞ、今日も全力でいくぞー!・・・どうせすぐにエプロンさんに返しちゃうんでしょ?

 ドンっ!

 あれ?笑ってる?

 「こらこら暴れないの」

 お母さんとおばあちゃんは顔がひきってるぞ。

 この子は笑ってる。僕の全力が効かないのかー!

 「お父さん、この子可愛いよ」

 「おうおう、ずいぶん元気だな」

 あ、この人も笑ってる。なかなかやるな。僕の本気を食らえー!

 僕はおとーしゃんに飛び付いた。

 普通に抱っこされる。飛び付こうにも、暴れようにも軽く抱っこされる。ん?ん?なんだなんだ、すごく長く抱っこされてるぞ。初めてだ。

 また女の子に戻って、やっぱり抱っこされる。

 ぼ、僕の本気が利かないー!ショック!

 おかーしゃんとおばーしゃんは抱っこしてくれたけど、すぐに女の子に返しちゃった。

 抱っこできるのはこの二人だけだな。よし、僕の本気はまだまだ大丈夫だ。

 お、男の子が来たぞ。僕の弟にしてあげよう。

 男の子も抱っこしてくれたけど、すぐにおとーしゃんに返しちゃった。おとーしゃんにはやっぱり本気が通用しない。

 この二人は特別な訓練を受けた人に違いない、エプロンさんのように。

 この人たちはエプロンさんといっぱい話していた。おとーしゃんと僕の弟はたまに僕のお部屋の前で僕を見ていたけど、お外には出してくれなかった。

 そしてこの人たちはいなくなった。

 エプロンさんが僕を見て笑った。

 「よかったね、気に入ってくれる人がいたよ」

 よく分からない。気に入ったら何があるの?

 次の日、ぐっすりと寝て朝から元気全開! 今日もやるぞー!

 夕方くらいになって昨日の人たちがまたやって来た。今日はお部屋の外には出してくれず、エプロンさんとお話していた。

 あ、昨日より人が増えている。おばーしゃんとおじーしゃんもいる。昨日とは違うおばーしゃんが僕のお部屋の前まで来た。

 「おや、あんたいい子だね」

 一目見ただけで分かるのか?すげー。

 僕は思わずおばーしゃんの前で足を止めてしまった。その声を聴きたくて。

 「いい子なんだから、暴れたらダメだよ。悪い子に思われちゃう」

 え?僕は元気いっぱいなだけだぞ。暴れてなんかない。

 「いい子にしていたら、楽しいことがいっぱいあるからね」

 そう言って、総勢7人になった昨日の5人組は帰っていった。

 少し外で遊んでくれたらよかったのになぁ。ちょっとだけ寂しくなった。

 その後に来た人は、飛びついた瞬間に表情が凍り付いてエプロンさんしか抱っこしてくれなくなった。

 次の日も、その次の日も彼らは来なかった。来る人も少なくて、つまらない日が続いた。

 そうしたら!またあの女の子が来た。来たなー勝負だ。

 透明な壁の前で行ったり来たりして抱っこしてくれるのを待つ。透明な壁が開いてエプロンさんが僕を出し て、女の子に渡した。

 全力だー。

 全力で動いて、女の子に抱き着き、顔をペロペロしようとするけど、ぎこちない抱き方なのに、全然逃げられない。

 その内におとーしゃんが来て抱っこしてくれる。こちらは女の子よりも自然に、やっぱり悪戯も全力も効かない。首の後ろを揉み揉みしてくれる。うん、ちょっと気持ちいい。

 おかーしゃんもおばーしゃんも弟も抱っこしてくれるが、逃亡成功!ってなる前に女の子かおとーしゃんに捕まってしまう。まるで僕のやることが分かっているみたいだ。ただ者じゃねえな、お前ら、みたいな。

 「こんなに元気な子、お世話できるの?」

 「仔犬だもん、これくらい元気でなきゃ困るしょ」

 「私はできないからね」

 「ママとおばあちゃんはいいよ。犬怖いんでしょ?」

 「僕は散歩くらいしてあげられるよ」

 何?弟くん、僕が君を散歩に連れて行ってあげるよ。散歩の仕方を教えてあげよう。って、散歩って何?

 「ヨークシャーはあまり好きじゃないんだけどな」

 おとーしゃんが苦笑いしながら頭と首を撫ぜてくれる。

 「お前、家でいい子にできるか?」

 僕の目を覗き込みながら聞いてくる。僕はいい子だけど・・・思わず目を逸らしてしまう。

 おとーしゃんはエプロンさんに僕を返して、長い間、エプロンさんと話をしていた。

 おとーしゃんに言われたから、なんとなく僕がいい子なのか、自信がなくなっちゃった。いや、僕はいい子だ。

 次の日、初めて嫌なものをつけられてお外に出た。走り出したいけどエプロンさんと繋がっている紐のせいで自由には動けない。エプロンさんのペースで歩くだけ。

 シーズーくんも一緒だ。よう!仲良くしようぜ!

 「ワンッ!」

 怒鳴られた。シュン・・・。

 仲良くしたかっただけなのに・・・。

 歩く気もしなくなって、エプロンさんに抱っこされてお部屋に戻る。そんなに怒らなくたって・・・。向こうにシーズーくんが見えるけど、見る気もしなかった。ご飯も美味しくなくて残しちゃった。

 今日は女の子とおとーしゃんとおかーしゃんがやって来た。

 女の子はもう慣れた感じで抱っこしてくるけど、僕は今日は乗り気じゃないんだよ。

 「今日は元気ないね、どうしたの?」

 元気ないの。だって・・・。

 「昨日、散歩に行ったらそこのシーズーちゃんに吠えられちゃって、ショック受けたんですよ。ご飯もあまり食べなかったし」

 「小心者だなぁ」

 おとーしゃんは笑いながら僕の頭を撫ぜてくれる。ありがとう。

 「家に来たら、周りは知らない犬がいっぱいいるぞ?大丈夫か?」

 吠えられなきゃ大丈夫だと思います。優しくしてくれたら喜びます。

 心の中で俯きながら呟く。

 その日もエプロンさんと長い間話して帰っていった。

 女の子が

 「もう少しだから待っていてね」

 と言って帰っていった。

 何がもう少しで、何が待っていて???

 ???ばかりだ。

 何回か寝た後のある日、おとーしゃんが僕が夜寝る時に使っているハウスを持ってきた。今日は5人で来ている。

 またみんなでお話を長いことしている。

 早く抱っこしてよ。僕は犬よりも人に抱っこされたいぞ。

 この間のことで犬のことは嫌になったぞ。

 みんなようやくお話が終わったらしい。僕の前に立っている。

 エプロンさんが僕を外に出してくれた。僕を受け取ったのは女の子だった。

 「今日からよろしくね、ソール」

 ソール?何それ?

 「北欧神話で太陽の神だよ。元気なあんたにぴったりな名前でしょ」

 太陽かぁ。お外大好きだぞ!

 思わず嬉しくなって女の子の腕の中で動き回る。

 「いい子にしてよぉ」

 おかーしゃんが僕の頭を撫ぜてくれる。

 「一緒に散歩に行こうね」

 と僕の弟も頭を撫ぜてくれる。

 「そろそろ帰るぞ」

 おとーしゃんが女の子から僕を受け取ってキャリーの中に入れる。そして軽々と持ち上げる。

 車に乗ってがたごとがたごと揺れて、一軒のお家に着いた。

 「ここがあんたのお家よ」

 へー。これから新しい生活が始まるんだ。たのしみ!

 みんなで幸せになろうね、ソール。


 うん。あれから2か月、僕、幸せかもしれない。内緒だけど。

 今日もいっぱい遊ぶぞー!

幸せはそれぞれの幸せです。

皆様にも幸せな一瞬が訪れますように。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ワンコの可愛らしさが全面にでていてすごく癒されました。 [一言] ワンコ同士は、会話できないのでしょうか?  あったかいお話で、気持ちが軽くなりました。
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