俺と聖教会3
ついつい口にしてしまってから後悔した。
ラウラの前で大人しくしているジャスミンだが、いつブチキレるかわからない。
彼女を怒らせたら、その日が俺の命日になるだろう。
「むぅ……」
だが、ジャスミンの反応は俺が予想していたものと違った。
唇を尖らせ、不機嫌そう――というか、拗ねているような顔になっている。
翼龍を倒したナイフもホルダーに納めていて、暴れる感じではない。
その事にホッとしつつ、でも言葉には気を付けようと思った。
本当にこの女は何をやらかすのか、全くわからない。
「ジャスミンが教会に保護された頃、お告げがあったんだよ。クレイエル教会に聖女がいるって」
ラウラが語りだした。
「当時の聖教会教皇聖下からね、勅命が下った。聖女を保護するようにと。そして、この子が十五になった日、前教皇聖下が崩御された」
難しくて分かりにくい話だった。
聖教会のシスターであるラウラは、聖下と教皇に敬称をつけている。
敬称が猊下ではないのか、なんて他人事みたいに感じていた。
「今の教皇聖下になった時、またお告げがあったんだ。ジャスミン・クレイエルは神の御使い、聖女であると。彼女が世界を救うであろうと」
胡散臭い話ではあった。
それでも、聖教会と神への信仰があるラウラは笑い飛ばせなかったのだろう。
確かに強いとはいえ、ジャスミンが世界を救うほどの存在になるとは思えない。
寧ろ、世界を破壊し破滅に導く方が得意そうだ。
見習い修道女が聖女というのもどうかと思うし、何より、ジャスミンが人を救うとは思えなかった。
前世で俺を刺し殺したのだから。
「むぅ……」
俺の視線に気づいたのか、ジャスミンは頬を膨らませた。
前世ほどの激しさはないものの、もう一度殺されるかもしれないという恐怖が沸き上がってくる。
「今回、お告げを聞いたのは教皇聖下の妹君でね。彼女の予言は絶対なのさ。じゃなきゃ、アタシもジャスミンが聖女だと思うことなんて出来ないよ。おてんば娘だしね」
教皇聖下の妹……その人がジャスミンを聖女と言ったのか。
クレイエル教会には他にも保護した子供がいたはず。
その中からジャスミンが選ばれた意味がわからない。