ヤンデレと俺の転生3
そもそも、ジャスミンの戦い方を見ていたら修道女というよりは、狂戦士や暗殺者に近いと思う。
普通の修道女は、ナイフ一本で翼竜を倒したりしないし、立ち向かわないだろう。
ゲームでだって、ヒロインは魔法で戦うか祈りで癒すとか。そんな感じだし。
「まるでゲームの世界みたいだ」
「ゲームじゃなくて現実なんだよ。そうじゃなきゃ、私だって命懸けで戦っていないもん」
先程の台詞とナイフ一本で翼竜を楽々倒した様子から、“命懸けで”戦っているようには見えなかったが。
余計なことをいうと俺の首が飛びそうなので黙っておく。
修道女見習いになったとは言え、この女が前世で俺を刺し殺した事実は変わらない。
翼竜とはまた違う恐怖がある。
「嫌かもしれないけど、ドゥーンさまの身柄は聖教会で預かるよ。この街はもう翼竜の群れで壊滅してしまったし……」
ジャスミンが俺に手を差し出す。二度目だった。
辺りを見回すと、あちこちの家から火が出ている。人の声はせず、死体だけがあちこちに転がっていた。
差し出された手をとるしか選択肢はないのかと思っていた時、ジャスミンの名を呼ぶ声が俺の耳に届く。
「ジャスミン・クレイエル! またお前は一人先走って!」
火を吹きそうな勢いで駆けてきたのは、白い修道服を着たオバサンだった。
その眉間には深いシワが刻まれている。
ジャスミンの頭に拳を落とすと、そのオバサンは俺の方に向き直った。
「アタシはラウラ・クレイエル。聖教会の支部であるクレイエル教会でシスターをしているよ。災難だったね、ボウヤ」
オバサンはラウラと名乗り、俺に頭を下げてきた。
この人のいう“災難”とは、翼竜に街が襲われたことだろう。
一瞬、茉莉花ことジャスミンとの再会のことかと思ってしまったが、それをラウラが知るわけがない。
「ショックを受けているところ申し訳ないけどさ、亡くなった人たちを弔うのを手伝ってくれるかい? アタシらだけじゃ手が足りなくてね」
ラウラがジャスミンを指差す。
拳骨を食らって頭を押さえて蹲っているジャスミンは、涙目だ。
このオバサンシスターには逆らわない方がいいだろう。
俺は渡されたスコップで亡くなった人を埋める穴を掘らされた。
――ザク、ザク、ザク、ザク、ザク。
乾いた土は重く、スコップを握る手に力が入った。
ラウラとジャスミンの二人は、亡くなった人たちを聖水で清め、破壊された家から持ってきたシーツに遺体をくるみ埋葬する。
俺たちが全てを終えて落ち着くと、すでに辺りが暗くなり始めていた。
辛うじて破壊を免れた町外れの教会で、今後のことについて話し合うことになった。