表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で聖女様とか呼ばれる話  作者: キサラギ職員
9/19

9.詳しく描写するには余白が少なすぎる夜イベ

 夜。俺とライアン君は一緒のベッドに寝ていた。

 幸いベッドは大きかったので二人でくっつく必要もなかったが、布団が一つしかないので一緒に入っていたわけだ。


「………」


 眠れない。いやだって隣にあれよ誰か寝てるってどうよ!? 眠れないでしょ!

 親兄弟ならまだしも知り合って日の浅い男の子が寝てるんやぞ!


「………ちょ、ちょっと、僕お手洗いに行ってきますね!! すぐに戻ってきますから!」


 妙に元気良く布団を払ってライアン君がベッドから飛び出した。ちなみに彼、寝るときはナイトキャップをかぶる派だった。そういうところが可愛らしいと思います。

 俺は彼が出て行ったので、広い布団を満喫することができた。

 天井を見つめてぼーっと眠気を待つ。

 しかし、こなかった。

 そしてライアン君も戻ってこない。そんなにトイレが遠い場所にあるのか?


「………」


 ウーン眠れない。夜酒でも引っ掛けようかなあ。というか飲み屋やってるのだろうか。

 俺はいつまでたっても戻ってこないライアン君を探す意味でも、部屋の外に行ってみることにした。案の定というか廊下には誰もいないし、酒屋は酔いつぶれた旅人が数人突っ伏してあるいは床で寝ているだけだった。


「………」


 ライアン君がおらん。一階へと降りてきたがいなかった。辺りが暗すぎてよく見えない。俺は酒屋(飲み場というべきか?)の机に放置されていたカンテラを拝借した。

 トイレは一階奥にある。俺は素足をぺたぺたさせながら歩いていった。床がさぶい。靴くらい履いてくればよかった。

 で、女子トイレを覗いてみる。誰もいない。男子トイレをって、ちょっとまて今の俺の体は女性なわけで……まぁ、いっか。覗いてみる。こういう飲み屋のトイレってなんというかオブラートに包みまくると手入れが行き届かないんだなぁと言う絵があった。ライアン君はやっぱりいない。

 俺が諦めて二階に戻る。暗がりにカンテラをかざしてみると――いた。何やら違う旅人の部屋の扉前にぴったりと張り付いておられる。

 何をしてるんだろう。カンテラの覆いを閉じて暗闇を確保して背後に忍び寄ってみた。


「―――声、でちゃう……」

「出せよ、もっと聞かせて」

「ッん~~~~……」


 oh...これは……。

 扉の奥から聞こえてきたのはくぐもった嬌声でした。旅は開放的になるって言うしな! やりたくなるよな!!


「………」


 ドキマギしながら屈んで音を聞いているライアン君。耳がピクンピクン跳ねまくってるわ尻尾は左右に揺れてるわ! このマセガキめ。可愛い顔して興味はあるのな。

 俺は思わず揺れている尻尾を握ってしまった。


「ひぎゅぅぅっ!? むぐっ!?」


 大声を上げそうになるライアン君。やめろ! 咄嗟に口を塞いで声を封じ込めて、そのまま俺たちの部屋まで連行する。

 扉を閉めてベッドに投げ転がす。


「ごめんなさい……」


 ライアン君が目に涙をためて謝罪の言葉をかけてくる。い、いや、悪いことじゃないんだよ。キミが大声を出すからいけないのだよ。


「なんだか体が熱くてむずむずして……」


 ……ん?


「お、おかしいですよね、こんな………アルスティア様を見てると胸がどきどきして……」


 あー。なるほど。


「どうしたらいいんでしょう……?」


 無知シチュかぁ……………まったくの無知じゃないんだろうが、もしかするともしかするのかもしれないね。

 上目遣いで胸を押さえてそんなことを言うライアン君。年齢いくつか知らんがそういうのに目覚めてそうで目覚めてなくてというか知識がないのかもしれんな。こういうのは父親から教わったり同級生から教えてもらったりするものだが、村の子供が少ないあたり友達を作ろうにもいなかったのか? 父親もいないし。

 ど、どうしまひょ? いやでもワイ言葉喋れへんし……ここは穏便にいきまっしゃろ……。

 脳内の思考がおかしくなりかけたので頭を振ると、ライアン君の横に座る――前に、部屋のドアに鍵をかける。戸締りは大切。聖書にも書いてある。

 寝かしつけてしまおうか……うーん……。

 しゃーない。人生の先輩としての教育をしてやろう。他意はない。

 俺は無言でライアン君の頭を撫でると、胸元のボタンを一つはずした。







 市民諸君、朝である。

 朝食を食う。これがうまいのだ。焼きたてのパンに目玉焼きにベーコン。コーンスープ(と思うがコーンにしては硬いと思う)。


「あの姉ちゃん美人だなァ……」

「でもよあの量食うって胃袋どうなってんだ」

「声かけてこいよ」


 何か俺の噂をほかの旅人たちがしているが、気にしないぜ。エド村のメシもうまかったが、ここのメシもうまいな。あの態度の悪いエルフの姉ちゃんが作ってるのだろうか。まさかな。あの嫁ぎ遅れてそうなやつに限って料理がうまいはずがない。


「何か悪口を言われた気がした……てめーなにやってやがる食器割りやがってよォ! ぶっとばされてーかよ!」


 バンダナを頭に巻いたエプロンのエルフ姉さんが俺の横を通った。どこかで食器が割れる音がすると袖を捲って走っていった。エプロンに料理汚れをくっつけていたあたり料理も作っているのだろう。はー、人は見かけによらぬものだな。

 あの姉さん何者なんだろうね。店員さんにしてはやけに態度がでかいし、もしかして経営者かもしれん。


「おはようございます……」


 疲れた様子のライアン君が目を擦りながら階段を下りてきた。疲れすぎてないか?

 この構図……階段の下に食堂……談話室………サスペンスが起きそうな気配がするな! 起きないけど!


「あっ……」


 ライアン君ったら髪の毛ボッサボサのまま寝巻き姿で降りてきたものだから、俺は口元がにやけるかと思ったくらいだった。にやけてほしいのににやけなかったが。

 俺を見るなり顔を背けるライアン君。足元に地雷でも埋まってるのではという慎重さで俺が朝食を広げている机にやってきて、恐る恐る椅子に座る。

 何もとって食ったりしないよ。君も食べたまえ。

 俺がライアン君の分の朝食を指差すと、おずおずと食べ始めた。


「……」

「あ、あの」

「?」

「なんでもないです……昨日は……あの……」


 ひじょうにやりにくい。

 目線落としてチラチラ見てくるわ目を合わせようとすると俯くわで。


「きょ、今日は衛兵の詰め所に行くんですよね!」


 急に話題を変えるライアン君。赤らんだ顔を上げて俺の方を見てくる。

 その通りだと俺はコクンと頷いた。一日休んで体力は回復したし、詰め所に行って村の守りを強化してもらえないかを頼むのだ。それにて一件落着。二人で帰って村の復興でもやればいい。

 でもその前に食わないとダメだぞ。俺はチマチマと食事を開始するライアン君をよそに、食後の茶を嗜みつつあたりを見ていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ