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異世界で聖女様とか呼ばれる話  作者: キサラギ職員
7/19

7.不良に絡まれるイベントはド定番

 ………パカポコパカポコ。

 蹄が地面を叩く音。馬というのは俺の予想よりも大分遅い乗り物だったけど、人間が全力疾走するときと、長距離走するときは走り方変えるのと同じことだ。馬だって長距離走る時はスピードを落として効率的な動きに切り替えるものだ。

 アクセル踏んでればいい車と違うのは手綱で指示を与えてあげないといけないことだろうな、とライアン君が馬を操るのを見ていて思った。逆に車は自分の判断と操作がすべてに帰結する。

 早いところ覚えないとな、馬の操り方をな。手綱はどう握ってるんだ?


「ア、アルスティア様……くすぐったいです……」

「?」


 馬二人乗り。身を乗り出して操作を見ようとしたところ、ライアン君が救いを求める目で振り返ってくる。

 息かな? 息だろうなあ。獣人の耳は人間のそれよりも敏感だろうから。

 ごめんねの意味をこめて頭を撫でて身を引く。



 俺たちは、近くの街へと向かっていた。

 早朝。準備を整えて馬に乗って出発した俺たちは森の中を進んでいた。森といっても獣道ならぬ人道があるので、それに従えば迷うことのない道だ。舗装なんてされているわけがなくて、石が転がってるのは当たり前、動物の死体やら車輪が外れて放棄された荷車が当然の如く道を塞いでいた。

 見ていてわかったが、ライアン君の馬の操り方は巧みだった。馬が障害物を乗り越えるよりも前に、どちらにかわすのかを指示しているようだった。多分、俺が揺れないようにしてくれてるんだろう。知識ゼロの俺でもわかる。淀みがない。自力で覚えたとしたら相当な勉強家だ。

 馬を教えてほしい。言葉で伝えたいけど、伝えられない。イラストとかどうかな? いい案かもしれないが絵心がね………。ものは試してみるか。馬と犬と猫の区別もつかない絵で伝わるかはわからないけどね!

 ―――音がした。奇妙な音だ。俺たちの後方から聞こえてきたのだ。

 俺が振り返ると、ライアン君も振り返った。


「どうかしましたか?」


 聞こえてないのか。なるほど、聴力もいいのか。しかし、この音は……。

 木々を掻き分けて出現したのは半透明な物体だった。小屋並みの面積を占有する巨体。体の中には、どうみても人間の骸骨らしきものがぷかぷかと浮いていた。


「……」

「……」


 ………エンカウントしたぁぁぁぁ!!


「すっ、スライムだぁぁぁぁぁ!」


 馬が嘶くと同時に、風景が一気に前に進みだした。スライムが丸い球体を解いて無数の触手を伸ばして襲い掛かってくる。

 これは……どうみても雑魚って扱いじゃないぞ! うおおやばいやばい!

 俺は自分目掛けて飛んでくる触手の殴打をライアン君にしがみついてかわした。


「あわわわわ!?」


 ライアン君が大声を上げて馬を走らせているも、肝心の馬は二人乗りな上に荷物まで載せていて動きが遅かった。こうなりゃ応戦するしかない。例の魔術ビームで効果があるかはわからないけど!

 俺は振り返り様に魔術を放とうとして腕を触手ですっぽりと覆われた。


「!?」


 痛くはない。熱くもない。ただ右腕の服が数秒と持たず溶けた。


「……!」


 離せ馬鹿野郎! 俺が渾身の力を込めて腕を振るうと、触手が弾けとんだ。お陰で右袖が丸ごと飛んでいったが。腕だけでよかった! おっぱい丸出しとか聖女様ムーブには適さねぇ!

 俺じゃなくてライアン君だったら服も肉も溶けていたのでは……? しゃあやってやるわ!

 俺は改めて腕を伸ばして可能な限り弱く、威力を絞って、スライムを焼き払えるイメージを練り上げた。

 次の瞬間腕に電流が走ると、熱を帯びた青白い火炎が噴出した。

 獣が吼えるような音を上げて火炎があっという間にスライムを体内に抱えていた骨諸共吹き飛ばす。火はスライム後方の木まで包み込んで、地面を穿り返して岩を空高く舞い上げさせていった。


「!!」


 だけですめばよかったのに森の木々も炭に変えながら突き進んでいって、俺たちが来た道が炎上し始めたのだった。

 俺は魔術を止めると、手で銃の形を作って人差し指を吹いてみた。

 火災発生。これ放火ってやつじゃね? 俺が手を伸ばした射線上、森の奥まで火の道が出来てやがる。燃やしすぎたわ、えへへ。


「これ………アルスティア様、どうしましょう」


 ライアン君が不安そうな目で燃える道を指差してきた。

 それな。ほっとくと大変なことになりそうだしなぁ。この世界でも放火は間違いなく重罪だろうし、捕まりたくねぇなあ。

 俺はよっこいしょと、馬から下りると火炎の道目掛けて冷たいものが吹き出るイメージを作りつつ、息を吐いてみた。

 凍える吐息が発生した。地面に、木々に、纏わりついていた火があっという間に消えていって、代わりに液体窒素につけたような氷の道に様変わりしていた。燃える道が銀世界の道になった。半そでで過ごせる気温なのに雪の道とは……軽く吹いただけでこれか……この火力、我ながら恐ろしい。

 ………よし、今度誰もいないところで丁度いい威力に調整する練習をするか!


「すごいですね……! やっぱり聖女様はすごいです! こんなことが出来るなんて、御伽噺の魔術師みたいです!」


 すごいけど、調整できないだけとは口が裂けても言えんな。いや口聞けないんだけど。

 俺はキラキラした目で見つめてくるライアンの後ろに乗るべく、鐙の取っ手に掴まったのだった。





 街についた。ちなみに俺は長袖を半そでにしていた。だって右だけ半そでっておかしいからな。リアンから貰った服をこんなにしてしまうとは、あとで買いなおして返さないと。


「………」


 石の壁で囲った立派な街だった。レンガ造りの頑丈そうな民家が並んでいる。木造建築メインの最初の村とは大違いだった。

 で、街の名前らしきプレートが正面門の上にかかってるわけだが、読めなかった。

 そういや最初の村も看板が読めなくて名前すらわからなかった。あの村この街じゃ都合も悪いし、素直に聞いてみよう。身振り手振りで。

 俺はライアン君が馬を馬屋に預けて来るのを待ちながら、門の前にあった柵に腰掛けて通行人を見ていた。


「……」


 ジロジロ見られるんだけど、なんでだろうなぁ。あんま見ないでほしい。恥ずかしいだろ。


 ………遅い。


「………………」


 ………あっ、チョウチョ!


「……………………」


 遅いな………なんかあったのかもしれない。様子を見に行こう。

 俺は馬屋のある方角に行くことにした。二人そろってじゃないと門の向こう側にはいけない。何か質問されたときにしゃべれない俺ではダメだからだ。

 馬屋の方角へっと。ちなみに厩ではなく馬屋であってる。馬を貸し出したり預かったりする商売をしているところだからだ。

 ところが到着しても、ライアン君はいなかった。


「?」


 人の声が聞こえた。

 俺は馬屋の建物の裏にある倉庫へと行ってみる事にした。


「いいじゃねぇかよぉちょっとくらい付き合ってくれてもよぉ」

「上物だぜこいつぁ」

「おっと通せんぼだ」


 目を潤ませたライアン君が男三人に壁際に追い込まれていた。いかついハゲ頭の体と壁に挟まれて身動きは取れない様子だった。壁ドンってやつだ。

 もしかしてそっち系の趣味なのかな? だってライアンは男だぜ?


「なあお嬢ちゃんよぉ」


 勘違いされたのか。確かに見た目は男とも女ともとれる幼く可憐な容姿をしてるから、おのぼりさん丸出しでうろついてたらこうもなるか。


「あっ、アルスティア様ぁ……助けてください……」


 俺のことを見つけたライアン君が、助けを求めてこちらへ涙を浮かべた顔を向けてきた。

 しゃーない。魔術ポンポン使って疲労がたまっているがこのかませくらいならなんとでもできる。

 俺は首をコキリと鳴らした。

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