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異世界で聖女様とか呼ばれる話  作者: キサラギ職員
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6.旅立ち

 朝。

 笑う練習をしてみたはいいものの、こりゃあまったくだめだと匙を投げた。酒を飲むと笑えるのは確認したわけだが、コミュニケーションをとるのに毎度飲んでたら体を壊してしまいそうだからできない。相変わらずしゃべることも出来ないし、文字も読めない。幸い手で物事を伝えたり首を振ったりうなずいたりはできるので、あるレベルでは話を通すことが出来る。

 で、ライアン君に言われたので村人の会議?に参加することになったのだ。何を話すんだろ。


「………」


 ちなみにミミはリアンの体力を戻したり家事をしたりと忙しいとかいってこなかったけど、ありゃあ表情からして二日酔いだと思う。キミも飲んでたのね。

 村は一晩明けて静けさを取り戻していた。腐りかけていたモンスターの死体を燃やしたり、防壁を強化する村人もいるし、農作業に励む村人ももちろんいた。

 そうなんだよなぁ。あのでかいイノシシを殺したところで無限沸きされたら耐えられないわけで。俺もMP無限ならいいが、昨日の感じだと大技使うとダウンしちまう。現実的なのは国から兵士を派遣してもらって大本を絶つか、攻めてきてもいいように兵士を置くか、どっちもか、ってところだ。

 俺は、歩調を合わせようとしてがんばるライアン君に気がついた。スマンスマン。この体無駄にノッポなので普通に歩くとちいさい君が置いていかれるんだったわ。

 俺が歩調を彼に合わせると、ぺこりと頭をさげてきた。


「ありがとうございます………村長さん、みんな、何を話すんでしょうね……」


 知らんが、なんとなく想像はつく。

 そして俺たちは壁で囲まれた村長の家までやってきたのだった。

 円卓――というほどのかっこいい代物じゃない。より合わせの机を部屋の中央に固めて椅子を置いただけの会議室に、村の大人たちが集まっていた。


「おお! 我らが聖女様!!」

「聖女様!」

「あぁ、きてくださった!」

「なんとお美しい……」


 入るや否や歓声を浴びる俺。とても恥ずかしい。俺のために用意されていたらしい椅子に腰掛けようとすると、ライアン君が椅子を引いてくれた。お嬢様かなにかになった気分だ。

 この椅子というものも曲者だ。気を抜くと股開きで座りかけるので、注意して女性らしく腰掛けないといかん。


「さっそくだが本題に入ろう」


 村長さんが言った。白髪白髭のナイスミドルさんだ。喫茶店のマスターとかやらせたら似合うと思う。


「やつらの襲撃から早くも半年がたったが……一向に治まる気配がない。最初は狼。今はあの巨大なイノシシ……やがてドラゴンがやってきてもおかしくはない」

「ドラゴンがこんな場所に来るはずが……」


 異論を挟む男に、村長が睨みを利かせる。

 観察していて思ったが、みんな獣の耳が生えている。服で見えないが尻尾も生えてるはずだ。ここは獣人の村らしい。


「来ないと言い切れるのかね? 最初は犬、次に狼、さらにイノシシと徐々に強くなっている。やがて翼を持つ怪物がでないと言い切れるかね?」


 ドラゴンか。俺の火力なら落とせる気がするが、この世界のドラゴンがどんな強さなのかにもよる。天災クラスですとか、国を丸ごと焼かれました、とか、そのレベルだとわからん。

 言いよどんだ男はがっくりと肩を落としてしまった。


「村を移すにしても、その間に襲撃を受けてはかなわん。かと言って街に行くには、やつらが沸く道を通らねばならんが、一番の道はやはり国に助けを求めることだろう」

「我々のような種族に手を貸してくれるわけがない!!」


 そういうもんか。獣人は被差別種族なのか……。

 怒声が上がるのを村長が手を叩いて沈めた。


「我々が行ったところで相手にされない可能性は高い。だが、ここに一人助けを求めて耳を貸してくれる可能性のある方がいる」


 ほーん。獣人以外もいるのね。

 …………。

 どこにいるんだろうな? ここにいる?


「聖女、アルスティア様。どうか我々を助けてください」


 ………?

 ………………??

 アルスティアって御伽噺の登場人物だよね、ライアン君の絵本の……。

 ……あっ、俺か! てへへぼーっとしてたわ。

 俺は周囲の人たちの視線に気がつかなくて、その獣人以外の人を探してキョロキョロしていた。意味を理解して村長の方を見ると深々と頭を下げられた。

 確かに獣人じゃ国に話を聞いてもらえないなら人間?の見た目をした俺がいけばいい。道中危険でも、俺の戦闘力なら大丈夫だろうということか。


「………」


 うん、いいよ。俺はコクコクと頷いていた。





「アルスティア様! 僕も同行しますっ!」


 元気の良い掛け声を聞いた。

 俺は、街へ向かうためにあれこれと装備を整えている真っ最中だった。何せ持ち物がリアンからもらった服しかないので、街に行くためには準備が必要だったのだ。俺自身馬が乗れないので、馬を操れるものが最低でもいる。

 が、どうやら村長も村人も俺が馬に乗れること前提で話しているので、困り果てていた真っ最中だったのだ。

 この世界の馬は元の世界の自転車並みの技能らしい。練習しておかないと。


「………」


 で、俺が貸してもらった自室を家捜ししている最中にライアン君がやってきたのだった。


「アルスティア様の強さならモンスターに負けたりはしないでしょうけど………その、家来とか、お付き人としてなら……僕にだってできます」

「………」

「だめ……ですか?」


 ライアン君は、若干目を潤ませて胸元に手を置いていた。容姿が女性にも見えるだけあって、中々様になっていた。

 どうしよう。俺は、ライアン君のお父さんのものらしきカンテラを弄りつつ考えていた。

 ライアン君はついてくる気満々だった。連れて行っていいもんだろうか? この家の長男坊を勝手に連れて行って、家は大丈夫だろうか。


「言うと思ったわ」


 俺がカンテラから目を離すと、いつの間にか扉を半開きにして覗き込んできているミミがいた。腕を組んだまま入室してくると、ライアンの隣にやってきた。ジロジロと俺のことを睨んでくる。

 容姿が良く似た二人が並んでいる。オドオドした態度のライアン君と、堂々たるミミ。どっちが兄で妹かわからん。


「止めても行くつもりだったんでしょ」

「そんなことは……」

「荷物、まとめてるの見たわよ。どこにいくつもりだったの?」

「それは……そうだけど……」

「はぁー……ほんっっっとうに昔からうじうじしてる癖に行動だけは一人前なんだから……ねぇ、アルスティア」


 呼び捨てされた。なんでしょうかね。


「この馬鹿連れていってもいいけど死なせたら絶対に許さないんだから。生きて連れて帰って」


 ミミが腕を組んだまま、顔を背け気味に言い放つ。

 これは……ツンデレというやつかな?

 俺はこくんと頷いた。この体の性能ならちょっとやそっとじゃやられないだろうという自信もあったからな。


「……行っていいの?」

「縛って止めてもいいのよ?」

「行くよ!!」


 あきらめ顔のミミ。興奮冷めやらぬ様子のライアン君。

 アクセル担当のライアンとブレーキ担当のミミというわけか。それなら俺は風を掻き分けるカウルの役割を果たしてやらないといけないな。

 それはともかく、まずはこのカンテラの使い方を知らなくては……。

 俺は中々火のついてくれないカンテラとの苦闘を始めたのだった。

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