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異世界で聖女様とか呼ばれる話  作者: キサラギ職員
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16.村への帰還

 パカポコパカポコ。

 俺は帰りの馬車に揺られていた。村を守るか、それも無理なら市民権を得て移住。そのために街で仕事をして、それからあのマダムという女性の目を治したのだ。あのマダム、嘘をつくような性格はしていないし、約束通りにやってくれると思う。

 帰るところというと、ライアン君の故郷エド村のことである。舗装などされていない悪路。二人きりで帰るなら馬車はかえって邪魔なので、行くときと同じような馬である。

 違うのはライアン君は立派な軽装鎧と盾と剣。俺は白い聖女様チックな服の上からフード付きコートを羽織っていること。あとは――えーっと、簡単な数字くらいなら理解できるようになった俺! とかかな!

 いやーやっぱり頭が切れるやつってのはつらいねー? ちょろっと教えてもらっただけでもうわかってるからな。え? 数字以外の単語はどうしたってそんなのは気にするな。


「……」


 うーん難しいな。ライアン君に教えてもらって馬を操ってはいるんだがなかなか言うことを聞いてくれない。車みたいにアクセル踏めば進む機械と違って動物だからうまく伝えないといけないが、うまくやってるつもりでも全然ダメなのだ。おかしいなあライアン君は言うこと聞いてくれるのに馬が聞かないのってどうなんよ。

 その点ライアン君はうまく操っている。来るときも同じようにライアン君が前で俺が後ろ。手綱を持って操ろうと躍起になっていた。

 ……来るときは意識してなかったけど、おもいきりおっぱいあたるんだよな、この位置。やめとこかな。でも後ろは後ろで色々まずい気がする。まあ鎧があるから~とか無駄なことを考えていると、村が見えてきた。


「ず、ずいぶん立派な防壁ができてますね!」

「……」


 村は様変わりしていた。丸太を削って作ったトゲっぽい罠が外周の囲いにびっしりすえつけられていて、バリスタ?っぽい武器が四方にあった。武器を携えた男たちもうろついていて、農村というよりも野営地のような雰囲気になっていた。

 だけど予想に反してモンスターの死体やら兵士の死体やらがゴロゴロしているというわけではなかった。むしろ設備は壊れてないし、護衛の兵士たちは暇そうに辺りをうろついていた。

 俺たちが村を空けてから一ヶ月は経っている。連絡は取っていたし、無事なこともわかっていた。例のオオワシだかオオトリだかの手紙便があったからな。けど予想より被害が無くて驚いた。

 ライアン君が兵士の守る入り口から中に馬を進めていく。村は、平和そのものだった。


「おお! お帰りになられた!」

「あぁ、なんとお美しい……」


 いいよ、もっと褒めて。俺は王族貴族よろしく馬上から手を振った。無表情で。こういう時に笑えればいいと思うよ。割と真剣に。

 で、家に帰る途中でばったり出くわしたのだ。ライアン君のたれ目とは相反する吊り目。ツンツン妹のミミがそこにいた。しかし、驚いた。槍っぽい武器を片手に歩いていたからだ。


「あっ……」

「た、ただいま……」


 俺に対しては常に丁寧な物腰なライアン君が唯一例外にするのが身内である。母親と妹にはタメで喋る。というのに妙に歯切れが悪い挨拶をするあたり、帰ってきて気まずいんだと思う。なんとなくわかるんだけど、いいことして帰ってきたんだから堂々とすればいいと思うよ。


「……遅い! 今までどこほっつき歩いてたのよ! 知らない間に男の人が大勢来て壁作り始めるわ森調べに入るわ街に移住することをどうのうこうのとか言われるわ説明したりするのにどれだけ苦労したか!」

「なっ! せっかく苦労してやったのにそんな言い方は無いだろ!」


 そうだそうだ、もっと言ってやれ。俺はライアン君が勢いよく馬から下りてミミに詰め寄るのを見つつ、一人馬から下りた。


「移住なんてみんなしたくないっていうし……今のところモンスターの襲撃が止んでるから移住しなくてもいいんじゃないかって話も出て意見割れてるし! ふん。でも、お兄ちゃんにしては結構やったんじゃないの?」


 腕を組んでそっぽを向きつつ言ってくれる。これが……これがツンデレというやつか。


「褒めてるの?」


 兄よ、付き合いが長いんだからわかってやれよ。きょとんとしない。お兄ちゃんにしては結構やった呼ばわりされてるぞ。


「褒めてないわよ。調子に乗らないように注意してるの。で、アルスティア! ちょっと話があるんだけど! まず村長の家に行って報告してみんなに話をして夕飯の薪を運んでくること! いいわね!」


 ミミはがーっと捲くし立てるだけ捲くし立てて小走りで行ってしまった。呼び捨てされたが気にしないぜ。

 RPGの基本はお使いである。◇村を守る為にマダムの助けを得る が完了したので報告しにいかないといけないのだ。とりあえず、俺の第一目標は完了したことになる。聖女様だなんだ別に大活躍したいわけじゃないし、後はのんびり村で暮らすのもいいだろう。


「なんだよミミのやつ………」

「……」


 俺はライアン君の肩に手を置くと、手綱を引いても言うことを聞かない馬をどうにかしてもらおうとしたのだった。





 結論から言うと移住すると言う話は先送りになった。


『不思議なことですがあれから聖女様が出発された後、一匹たりとも姿を見せなんだ。森奥深くにマリサ様の私兵らが調査しにいったところ、痕跡さえなかったとか。原因がわからん以上なんとも言えないですがここは先祖代々の土地。移住は出来ればしたくないというのが我々の意見でして』


 村長曰くということらしい。フーム。おかしいなライアン君が調査に入ったら襲われたのに私兵は痕跡も見つけられないのか。森にモンスターが出る原因があったのは確かだけど、それがどうしていなくなったのか? わからないが、調べてみる必要はありそうだな。

 で、夕飯のために薪を用意しろと言われて俺が斧を持つとすかさずライアン君が出てきて止められた。


「力仕事なら任せてください!!」


 妙に張り切りながらそう言われたので、俺は暇になってしまった。

 ぱこーんぱこーん。一度斧を振り下ろして刃を食い込ませてから、持ち上げて薪ごと叩きつけて割る。薪割りをひたすら繰り返しているライアン君。村共同で使ってる薪置き場の丁度いい切り株に腰掛けてそれを見守る俺。聖女様パワーなら薪と言わず木を素手で粉に出来る気がするけど、ここはやっぱオトコノコに任せるべきだな。俺もオトコだけど。


「はぁーっ、はぁ、はぁ……」


 案の定疲れて息が上がるライアン君。だって君筋肉ないもんなぁ。女の子みたいな細身だもん。

 俺は仕方が無いなあと腰を上げると、斧を手に取った。

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