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異世界で聖女様とか呼ばれる話  作者: キサラギ職員
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14.ちゅうちゅう

 救済院には楽器があった。オルガンらしいのだが、俺の知ってるオルガンとは何か違う。パイプ? がついているのだ。鍵盤もでかくて重い。弦を叩くピアノ式ではなく、もしかして笛と同じような構造なのではないか。というかオルガンってそういうものだったか。そうか。

 で、演奏しようとしたのだが、演奏できなかった。ピアノなら多少の心得があるが、こいつは無理だ。まずどのキーがどの音なのかも見当がつかなかったし、楽譜も読めなかった。演奏してみようと座ったはいいものの、座っただけになってしまった。


「弾けると頷いたから連れてきましたが」


 相変わらずの疲れた顔でアイルが言ってくる。ごめんね弾けそうな感じ出して。

 こうなりゃあれよ、根性で遊ぶ。子供の世話は慣れてる。この体のお姉さんがどうかは知らないが前世? はクソガキ相手に鳴らしたものなのだ。


「……」

「弾けないと?」

「……」

「はあ、早くなにかしないと子供たちが……」


 俺は椅子から腰を上げて振り返った。わくわくした顔をした男の子がいたずらっぽい顔でボールのようなものを投げてくる。急にボールが来たので思わず蹴り上げてキャッチしてしまった。


「うわぁー! すっごーい!」

「どうやったの?」


 サッカーだよ。たしなむ程度にはやってたのさ。こっちの世界にはないのかな。そんなことはないはず。ボールっぽいものを蹴って遊ぶゲームは世界中どこにでもあるはずだから、探せば似たようなのがあるはずだ。

 しかし、こりゃなんだ? プニプニしている皮のようなものの中に綿か何かを突っ込んでいるらしい。ビニル製のボールと比べたら弾力もなく、形も歪。蹴ってもまっすぐ転がらないだろうな。

 俺はそのボールを手に、子供たちを呼び集めようと手招きをした。

 あとで聞いたがこのボール。牛だかヤギだかの膀胱だったらしい。神妙な手つきで触って本当に申し訳なかったと思う。

 よしお前らサッカーするぞ!



 俺は子供五人を相手にしていた。前方には二本の木。あれを突破すればいいのだ。


「えーい!」


 声を上げて向かってきた一人を右に行くと見せかけた左ステップでかわして前進した。

 続く二人がかりのブロックをボウコウじゃなくてボールを蹴って頭上を抜かして突破。

 キーパーは二人。

 ここは猛烈なキック――と見せかけてやんわりキックでゴォォォォルッッゥ!!!!


「!!」


 やったぜ! 俺が両手をあげてテンションもあげていると(無表情で)、上等な装備に身を包んだライアン君と、同じ鎧姿のアルトが戻ってきていた。

 俺は、丁度救済院裏手中庭で遊んでいる真っ最中だった。サッカーを教えるのは苦労した。特にルールに関しては口がつかえないので、地面に絵を描いたりして伝えてみた。固有名詞も伝えられないので、聖女様のボール蹴りとかいう名前がついていても不思議じゃないね。

 で、ライアン君だが、お中古の革鎧から、新品の革鎧になっていた。丸い中くらいの大きさの盾と、ロングソード。ガタの来ていた弓は新品同然で、これなら流石に女の子には見えまいと言いたいのだが、軽さを重視したのか腿が丸出しだったり体に張り付く薄い生地のシャツだったり、というか兜被ってないので女の子な顔丸出しだったり、女戦士的な匂いがする。くっ殺せとかは言わなそう。


「身分の高い方々に会うためにはこのくらいの格好でなければお付き人とか護衛を名乗れないので、奮発させてもらった」

「ありがとうございます、アルトさん。アルスティア様どうでしょうカッコイイですか!?」


 アルトがフッと目を閉じて笑いつつ、ライアン君の肩を押す。

 ライアン君がどうだと言わんばかりに駆け寄ってきた。尻尾をブンブン振りまくりつつ。あーかわいい。棒とか投げて取ってこさせたい。


「……」


 俺がウンウン頷くと、ライアン君はパァッと輝くような笑みを浮かべた。なんて分かりやすいんだ。というか羨ましいぞ。こっちは表情酒飲まないと変わらないんだぞ。


「なにをしていたんですか?」


 子供たちが俺そっちのけでボウコウもといボールを蹴っ飛ばして遊んでいるのを見て、サッカーだよと言おうとして言えないので、蹴る仕草をしてから自分の胸を叩いて見せる。


「へー……あの木の間に入れたら勝ち? なんでしょうか」


 うむ。勝ちというか一点な。俺は、横に立ってその様子を観察しているアルトをちらりと見た。腕を組み、顎を擦りながらウィンクしてくる。様になるじゃないか伊達男め。


「私も混ざりたいところだが別件があるのでね。また後日馬車で迎えに来ることにする。おっと、市民との約束もあるか。三日後に迎えに来ることにしよう。その旨をさるお方に伝えておくから準備だけは忘れないようにお願いしたい」


 むむ。何か口調が若干砕けてないか。ライアン君とだってタメじゃないんだぞ。まーいいよ、わかった。俺はウンと頷いた。

 颯爽と去っていくアルトをライアン君が複雑そうな顔で見ていた。嫉妬とか、感謝とか、そういう感情がない交ぜになっているのかもね。男二人街を歩いて色々話して人間性とかもわかったのかもしれない。

 さて、ところで。俺はせっかくなので、ライアン君の肩に手を置いて、子供たちを指差してみた。

 ライアン君が動揺して自分の顔を指差しながら振り返る。


「えっ、ぼっ、僕もやるんですか?」


 あたぼーよ! ………その前に脱いだほうが良さそうね。俺は服を脱ぐような仕草をして、鎧を脱ぐように指示したのだった。






「はー………疲れました……」


 夕方。ご飯を食べた後のこと。

 子供たちは遊ぶだけ遊んで引っ込んでいってしまった。今頃アイルが死んだような目で子供たちを寝かしつけようとしていることだろう。眠れるかは謎だが。

 結局、時計がないからわからないが二時間は遊び続けてしまった。俺たちは自室ではなくて、救済院裏手の水浴び場に来ていた。


「……」


 ナチュラルに二人で来ちゃったけどまずいよな、これは。


「……」


 いやライアン君も黙ってるんじゃないよ。俺の方を上目遣いで見るのはナシだ。


「……」


 なんかいいにおいがするな……なんだろうな。

 なんだろう、頭がふわふわしてきたかもしれない。なんだ、これは。たまらなくいいにおいがする。汗の香り。


「あ、あの? アルスティア様? どうしたんですか?」


 どうもしてないよ。歩いているだけ。お前がそこにいるからぶつかるんだよ。

 ライアンを押して壁際に連れて行く。自分が自分じゃないみたいな感じがして、気持ちが悪いのに気持ちがイイ。なんでわたしこんなことしてるんだろう?


「……っんむぅぅっ!?」


 あったかくて、小さい。おくちってこんな味がするんだ。髪の毛を撫でながらちゅうちゅうと吸ってみる。

 お、体に刻印が浮かび上がってる? 魔術、使ってるのかな、わたしは。

 ライアンがかわいいから、そのまま、抱きしめたまま地面に押し倒す。ちゅうちゅう。おいしいなぁ、おくち。ちゅうちゅう。ぐったりしてきた。息はしてるみたい。ちゅうちゅうちゅう。


「~~っ、うぅぅっ……ひあっ」


 ちゅうちゅう。ぷはっ。くちもいいけど、首もちゅうしてみよう。ちゅうちゅう。くびもおいしい。おとこのこの汗のあじがする。ちゅうちゅう。

 くびわとか、はめてみたら面白いと思う。ううん、面白いからじゃなくて、だって、ライアンは……。




「………!?!?!?」




 ………ハッ!!?? 


 おれは、しょうきにもどった!


 え? なにをやっていたのかわからない。目の前にはぐったりとして、というか恍惚として俺に抱かれているライアン君がいた。

 子供を押し倒してディープキスをかましました………うわぁぁぁぁ衛兵(ガード)! 衛兵(ガード)! おまわりさーん! 逮捕してください! あ、やっぱナシ! 逮捕だけは勘弁してください! すいません許してください! なんでもするから!


「………あるすてぃあさま……」

「……」


 何が起こったのかはわからない。魔が刺したとしか思えない。

 俺はぐったりしているライアン君を大急ぎで起こすと、ペコペコ頭を下げながら口を拭いてやったり髪の毛を整えてやるのだった。

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