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異世界で聖女様とか呼ばれる話  作者: キサラギ職員
13/19

13.聖女様っぽい服

 翌日、アイルに白い修道着を貰った。神官服かな。しかし、デザインが若干アイルとは違う。白に金の刺繍をあしらった上等な代物で、ブーツからなにからそのへんには落ちてないだろう高そうなものだった。着心地は最高だ。ライアン君のお母さんの服はきつくてな。その、上半身が。いや下半身もちょっと。

 俺は鏡を前にしていた。後ろにはアイルがいる。


「やはりちょうどよいようですね。なぜこんなによいものをくれたのかという顔をしている」

「…………」


 あれ? 俺なんも言ってないのになんでわかるん? 俺は慌てて鏡を見てみたが無表情だった。


「わかるんですか?」

「わかりませんよ。これくらいの推測は誰でもできます。昨日は目立つなといいましたね、提案になりますが目立つほうがよいのでは?」


 ふむ? 俺は隣にいるライアン君を見てみた。よくわかってない顔をしていた。俺もわかってないよ。


「理由としてはいくつかありますが、村を守りたいなら衛兵を置くだけでは不十分です。モンスター相手にはただの農民上がりの衛兵では大して役に立たない。あなたがその力を示せば、あなたの出身地である村を守りたい権力者も出てくるでしょう」


 服をもらう前にこれまでの経緯は全て説明してあったおかげかアドバイスをしてくれた。

 なるほど……理に適っている。あのでかいイノシシ以上のが来たら衛兵で守りきれないだろうしな。


「それに、私が提案しなくても……」


 そこでライアン君が耳をピクピクさせた。


「誰か来ます。たくさんの足音がします」


 流石は獣人の子だ。耳がいい。何かが来るらしい。

 俺は正面玄関へとライアン君とアイルを引き連れて向かって行った。


「どうか私の子もお助けください!」

「俺のカカアを治してやってくれ!」

「お願いします! どうか私の父を救ってください!」

「あなたのお力をお貸しください!」


 人、人、人。人の群れが救済院前玄関に押しかけていた。貧乏人だろうなという印象を受ける。服がぼろい布服とボロサンダルばっかだからだな! ……まあ、俺の今の手持ちもほぼゼロだから似たようなモンだな!

 俺たちが扉を開けるや否や、どっと人が押し寄せてきた。


「あらまあまあ」


 なんて白々しいことを言いながらアイルが下がっていく。ここですっとぼけるなり、さっさと奥に引っ込むなりすればよかったんだと思う。目立ちたくないし。今のところは。


「聖女様……どうしましょう……?」


 ライアン君が俺の服の裾を掴んで上目遣いで見てくる。この瞳には勝てねぇよ……。

 おーしやったろうじゃないかよ!

 俺が大衆を宥めるために前に出た。すると海を割るように人がさっとどいた。一斉に俺の足元にすがる様にして座り込む。

 ……えっ、なにこれ。なにこのくすぐったい展開はよ。いいぜ、腹くくって聖女ムーブだ!

 で、俺が神々しい光でも放ってみようとか思った矢先に、人ごみ掻き分けてあの伊達男が現れた。アルト=アルム氏だな。現れただけでライアン君がむっとした表情を浮かべる。ステイ、ステイ、抑えろ抑えろ。ゴーというまで待て。

 

「諸君、落ち着きたまえ。ああ、アルスティア様。ここはおまかせを」


 胡散臭いウィンク一つ、くれました。うむ……チェンジで。


「諸君も知っての通りこのお方はこの救済院の患者全員を救うために注力したのだ。現在は疲れきっておられる。申し訳ないがこの場は任せてもらいたい。よろしいですね?」

「……」


 アルトが振り返ってきた。

 ……あっ、俺に言ってるのか。なんだかよくわからんがここはアルトに任せておいたほうがよさそうだ。わざわざ割って入ってきたということは何か考えがあるんだろう。

 俺が頷くと、アルトは両手を広げてみせた。


「このお方の治療が必要な人は明日以降ここに来るように!」






「兄です」

「妹です」


 正午。俺たちは救済院の一室で自己紹介を受けていた。金髪率高いな。ライアン君以外俺も含め全員金髪である。

 なるほど兄と妹なのだと言われたら、確かに似ている。片や優男。片や世間に疲れた世捨て人のような少女だが、顔だけはよく似ている。


「話はお兄様から本家のほうに通してありますので衛兵は今頃到着していることでしょう。ですが、さらに守りを固めたい、いっそ村ごと市内に引越しして全員に市民権を得たいというならば、仕事をしてはどうか。というのがお兄様の意見ですが」

「不満げだね、アイルよ」

「魂胆が見え見えですからね。お屋敷で囲っている女の子たちの一人に加えたいだけでは?」


 ほー、そんなことしてるんだ。金持ちは違うなあ。でも残念中身は男です。

 俺は特にそれについてあれこれ言うつもりはなかった。金持ちが金を払って女の子を囲むならいいではないか。監禁してるわけじゃあるまいし。

 でも、俺をその中に入れようなんざ無理だな。優男君。君はいい人かもしれないがドキドキはしないのだ。

 アルトは妹の疲れた目で見すくめられるとひらりと肩をすかした。


「さあ、そんなことをする人間に見えるのかい」

「白々しい」

「さてアルスティア様。結局はあなた方次第ですよ。この話は内密にしてもらいたいのですがね、さるお方の奥方が大病を患ってしまいましてね。このお方を治せばあなた方も要求も通るのではないかと思いますが」


 さるお方。言い方を濁してはいるがお高い身分の人だろう。この二人よりさらに上となると貴族とかかもしれんね。

 なんだかだんだん話が大きくなってきてしまったなあ。村に恩を返したいだけだったのに。

 俺は困っていた。やってもいいけど、やらなくてもいい。ライアン君がどう出るかだな。ライアン君、君の判断に任せるよ。俺は横に座っているライアン君の顔をちらりと見てみた。


「……どうしましょう」

「………」


 ここまで世話してくれたからね、君の判断が何でも俺はやるよ。頷くと肯定に取られそうなので、じっと見つめるだけにする。

 ライアン君が腕を組んでうーんと暫く悩んでいたが、ややあって顔を上げた。


「……やります。でも、やったからには……」

「もちろんだとも。村の守りか――市民権を得られるようにして移住までできるように話はつけさせていただく。えー、君の名前は」

「ライアンです!」

「そう、ライアン君。君は彼女の従者なんだろう? その格好は頂けないな」


 俺の名前は覚えてる癖にライアン君は覚えてないらしい。この好色男め。

 アルトがライアン君を指差したので、俺も見てみる。皮の鎧に普通のズボン。武器は持ってないが、いわゆるファンタジー世界の冒険者らしい冒険者の格好をしている。確かに鎧が古ぼけていたりズボンが穴を縫ったあとがあったりみすぼらしいのは確かだ。


「従者か御付き人を名乗って高い身分の方に会うならば格好をなんとかせねばならない。街に買い物にいこう」

「えっ」


 いいと思うぞ。

 俺はなぜか絶望的な顔を浮かべるライアン君の肩を擦ってやった。


「決まりですね」


 アイルが言うと早速腰を上げた。顔がげっそりしている。時々チラチラと扉に目をやっては、首を小さく振っていた。その疲れた顔のまま俺の方を見てくる。


「アルスティア……様。これはまったく関係の無いお願いになりますが……子供の相手をしていただけますか。もう、私だけでは抑えきれませんので」


 いやわかるよ。だってこの部屋の扉の向こう側がすでに子供の声でいっぱいだからな。

 俺はライアン君、アイル、それからアルトを伴って部屋の外に出て行くことにしたのだった。

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