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異世界で聖女様とか呼ばれる話  作者: キサラギ職員
11/19

11.ギルド(酒場)

 ここがあの女の……じゃなくてギルド? というやつか。

 衛兵の説得に見事失敗した俺たちは手紙を出してから仕事を求めてギルド? へとやってきていた。冒険者ギルド――という名前ではなくて、普通に酒場と呼ばれていた。元は地主で酒場を経営している男が始めた情報交換の場がいつの間にか仕事斡旋事業へと発展して、傭兵の仲介やら雑務募集やら貴重品取引やらの場になったらしい。

 ちなみにエド村に手紙を出すのにオオトリなるものを使うらしい。オオトリ。ワイバーンではないらしいが……早くとも数時間で届くらしいので飛べることは確かだと思う。

 古めかしい木造作りの建物に入ると、まず猛烈に煙いことに気がつく。煙草を吹かした男たちが机を囲んで談笑している。大人の女と、獣人の子供の二人組み。目立つかと思いきや蜘蛛足やら馬の下半身やらやけに身長の低い人やらが大勢いるせいでまったく目立たなかった

 と思ったのだが、入るなりジロジロと見られる。そこの男、露骨におっぱいを見るなよ。へへへじゃないぞ殺すぞ。

 殺意をばら撒いてる場合じゃない。


「仕事を探しましょう……ここかなぁ」


 ライアン君が入るなり建物中央にある巨大な柱のような場所を指差した。柱の周りに掲示板と、無数の紙切れが貼ってある。武器を持った男女がそれを指差している。

 フーン。俺は紙を一枚手にとってみた。報酬が高いといいなあ。簡単で時間のかからないやつ。


「………」


 読めませんでした。仕方がないのでライアン君に渡す。


「えーっと………お屋敷で…………ひ、ひとばんじゅう……お酒を飲みながら楽しみましょう………見た目麗しい男か女年齢不問! ……なにを、とは書いてないですけど、これって」


 せやな。

 顔を赤くしてこっちを見てくるライアン君。なあに? やってみたいの? 一人でできるの?

 ライアン君は俺が首を傾げると紙を慌てて戻した。別の紙をとって俯きながら読み始める。耳がピクンピクンしていてつい触りたくなるが我慢した。


「これは! これは……ダメです! こっちのも……う、うーん報酬が……」


 何枚も紙を剥がしては読む、剥がしては読む、顔を赤くしたり首を捻ったり、俺を見たり、周囲を見たりするライアン君。そのつど首を傾げて内容を教えてくれるようにしているけど、教えてくれる時と教えてくれないときがあった。

 ああでもないこうでもないした挙句一枚の紙を取った。文字は読めないがわかった。独特な味のあるドラゴンの絵が描いてあった。


「これなんてどうでしょう。ドラゴン狩ですって」

「……」


 いや、あの、それはちょっと……倒せるか不明というか、リスクがでかすぎるのでは? 貼り付けた相手も依頼がこんな場所で見つかるとは思ってないのだろう、紙が古くてボロボロで、今にもちぎれてしまいそうだった。

 俺が首を振ると、頭の上からはらりと一枚の紙が落ちてきた。床に落ちる前にキャッチして広げてみる。やっぱりわからないのでライアン君に渡してみた。


「救済院の……病人と怪我人の治療。より高位の治療魔術が使用できるものを募集しています。救済院院長アイル=アルム………まさかですけど、あのヒトの親族でしょうか」


 あのヒト。ライアン君が不機嫌そうに読み上げる。妬いてるのかい?

 アルムといえば、あの金髪青目の伊達男のファミリーネームだろう。このあたりに住んでいるとするとその可能性は大いにあるし、知り合いと言うことにすれば話がするりと通るかもしれない。

 俺はその紙を受け取ると、頷いたのだった。




 救済院とやらは街の外れの小高い丘の上にあった。ホーリーシンボルらしい丸を掲げた石造りの頑丈そうな建物があって、あたりには花畑が広がっている。墓石こそないが、なんとなく墓場と教会の組み合わせを思わせた。

 その正面玄関らしき石段に白い服をまとった金色の髪の毛を両側で編んだ女の子が腰掛けていた。金髪率高いな。なんのこっちゃ。


「どちらさま?」

「酒場の依頼をみてきました。僕はライアン。こちらの方がエド村村長のアルスティア様です!」


 女の子が気だるそうに聞いてきた。疲れきった顔をしていたけど、もともとの顔がこの世に疲れたような死んだ目をしている。


「まさか本当に来るとは……」

「え?」

「こちらの話です。治療魔術の使える魔術師を募集していましたが、あなた方はその類で?」


 類てお前。まあ、詐欺師か何かと思われてるんだろうな

 俺が何か言いたそうにしているのを悟ったのか、ライアン君が胸を張る。


「そうです。どんな病気、怪我でも任せてください。報酬は期待してもいいんですよね?」

「エド村……? 聞いたことがない村ですね。まあ、構いませんよ。治せるなら」


 女の子が立ち上がった。見れば見るほど元の世界の修道服に似ている。傍らに杖を抱えているけど、魔術用なんだろうか。


「私の名前はアイル=アルム。特に覚えてもらう必要はないです」


 ……冷たいなあ。まあ、ビジネスライクでいいと思うぜ。

 俺たち二人はトコトコと中に入っていく修道女もとい院長についていった。院長といってるけど年齢はライアン君とどっこいどっこいである。

 中に入った。正面に丸のホーリーシンボルとステンドグラス。長いすの代わりにベッドが並んでいて、まるで元の世界の教会そのものだった。

 アイルの言ってる意味がわかった。お年寄り。意識がない寝たきり。両手足を失った女性。全身得体の知れない病に冒され苦しむ人……。救済院の意味が分かった。救済されない人の最期を看取る場所なのではないか?


「治せれば報酬はお支払いしますし、できないならば帰っていただきます」

「………」


 そっか。じゃ、俺の実力を見せ付けてやろう。俺は半そでの服をさらに捲って、おもむろに一番近いところで寝ている人の子の治療にかかった。腰布と胸元の布以外はほぼ全裸で寝ていていた。全身の色がおかしい。青を通り越して白に近い。呼吸も瀕死のそれだった。


「金のなさのため身売りされてとある金持ちに拾われた子ですね。毒見役をさせられていたそうですが、毒にあたったそうで。内臓が壊れてしまい普通のポーションや魔術では一切受け付けず、手の施しようがなく……数ヶ月間意識も戻らないままです。何をしているのですか?」

「?」

「首に手をあててなにをすると?」

「……」


 アイルが横に立って解説してくれる。俺はおもむろに脈をはかっていた。うむ、わからん。


「……」


 ライアン君が固唾を飲んでみている。

 俺はいつものように横に膝立ちになって、両手に意識を集中した。暖かい光が手に宿って、その男の子へとかかっていく。十秒もかからなかった。健康的な肌を取り戻した男の子がうめき声を上げて目を開いたのだから。


「ここは……」

「信じられません。あなたは一体何者なのですか?」


 目を大きく見開いて俺を覗き込むアイルに、ライアン君がまるで我がことのように声を張り上げた。


「聖女様ですっ!」






 それから俺は一日かけて救済院の患者を治して回った。全員は無理だったが、治せるだけは治した。


「ここにいるのは“手遅れ”の患者です。奥の別棟には手遅れではない普通の患者もいます。ここの間の患者が終わり次第そちらもお願いできますか?」

「聖女様、どうしますか?」


 無理っす。俺が首を振ると、ライアン君が頷き返してくれた。


「今日は休ませてください。また明日、治しますので」

「その聖女様というのは文字通りの意味なのですか?」


 俺はクタクタになっていた。何人治したのかわからないが、二十人以上はやったと思う。まさか腕のなくなってる人にかけたら腕が生えてきたのは驚いたが、実力試しにはよかったと思う。


「えーっと、そうです」

「失われた肢体を元通りにし、不治の病を祓うことができるとは……………その、エド村? の聖女ということですか?」

「え? あ、そ、そうです」


 御伽噺に登場する聖女様と同じようなワザが使えるから聖女と呼んでますとはいえないライアン君。アイルの冷たい瞳に見つめられてしどろもどろになっていた。

 

「…………ふむ。なるほど。それでは今日は部屋を用意したので、アルスティア様といいましたね、泊まってください。そちらの御付きの女の子も一緒に。では失礼」


 アイルがにこりともせず、部屋の鍵と場所を書いた紙切れをライアン君に押し付けて歩いていってしまう。


「女の子じゃありません!」

「……」


 ライアン君が肩を怒らせる。顔を真っ赤にしてプルプル震えているが、そういうところが女の子っぽいなと思う。まあ、元気出せよ。俺はその肩を撫でると、部屋に向かったのだった。

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