天使が俺の初恋をやり直させてくれる……だと?
「ここは……俺の部屋?…………あれ?俺確か成人式に参加していたはずだったんじゃ…………」
見覚えのある部屋、自分の部屋を手に入れてもう十何年になるのか、とにかく成人式に参加していたはずの俺が部屋の中にいることにどこか違和感を覚えた。
「あれ?もしかして調子に乗って飲んでしまったのか?それで記憶をなくして…………けど部屋の中がぼんやりと青く光っているのはどうしてだ?」
なんとなく成人式に参加した時のことを思い出す。
「朝準備をして成人式をする会館に行って、それであいつらと再会して、のどかを見たんだ。可愛くなったあいつを……。それでその後同窓会に参加した後……ここからか覚えてないのは」
ゆっくりと身体を起こしながら順を追って確認していく。記憶の曖昧な部分を確認するのと同時にどこか寂しさを感じた。
「お目覚めですか?」
「えっ?だ、誰だ!?」
突然声が聞こえた。俺の部屋には俺しかいないはずだ。
立ち上がり周囲を見る。しかし、周囲に人の気配はなかった。当然だ、ここは俺の部屋だ。そもそも他人の気配がある方がおかしいし恐ろしいだろうと思う。
ふと背後を振り返ると長い金髪を背まで伸ばした緑の目をした美しい女性が正座をして座っていた。服装は至って普通の年頃の女性といった程度。
「おおうっ!?あ、あんた一体誰だ!?俺の部屋で何してやがる!」
女性に抱いた感想は二つ。
まず一つ。
どうして俺の部屋に女性がいるのか?同窓会で勢い余って連れて帰って来てしまったのか?けど俺にはそんな口説く言葉なんか持ち合わせていない。それは自分が一番知っている。そんな器用な真似ができればのどかに…………。
そして二つ目。
めちゃくちゃ綺麗な人だとは思う。性格はわからないが、外見だけならこんな人と付き合えたら物凄く嬉しいだろう。それぐらい目が引かれるほどに綺麗だと思う。だが、そもそもこんな女を俺は知らない。同級生にいたっけか?
「どうしました?……あっ、すいません、今は人間になっていました。わかりにくかったですね。じゃあこれで―――」
綺麗だとは思いつつも、どういうつもりで俺の部屋にいるのかを確認するまでは気が抜けない。疑いの目を向けて女を見るのだが、女は疑問符を浮かべて首を傾げた後に手をぽんと叩いて一人で納得していた。
瞬間目の前に眩い光が生じて、光量に思わず瞼を閉じてしまう。
光が収まるのを感じて、そっと閉じた瞼を開けると驚愕した。
「あんた一体……いや、言わなくてもわかる。もしかして…………天使か?」
「はい、あなたたち人間の世界で天使と言われる神の使いです」
一目でわかる。
見た目美少女のままなのだが、その服は人間の衣類から変化して白の布を袈裟懸けに着ている。頭上には天使の輪と言われる輪っかが浮いていて、背中には大きな白い羽が生えていた。醸し出す雰囲気は荘厳そのもの。
「信じられないな。俺はまだ夢でも見ているのか?」
「夢ではありませんよ。それに驚かせてしまってすいません。なるべく人間の世界にいる間は人間の姿に変化しているようにしていたんでしたが、時間が経ったのですっかり」
「そうですか……」
目の前の天使は申し訳なさそうに振る舞うのだが、俺の目線はそれどころではなかった。
「しかしまぁ、思っていた以上にエロいんだな、天使って」
「は?」
「いや、さっきまではこう、普通に可愛い美少女ってだけなんだけどさ、今のその格好…………もろに谷間や横乳見えてるし、ちょっとかがめば下も見えそうじゃん?」
「なっっ!?何を言ってるのですかあなたは!!そんなことを言う人間なんて!思っていても口にしてはいけません!これは私達天使の正装なのですから!!」
天使の格好の際どさを口にすると、天使は顔を赤らめながら慌てて隠すような仕草をしながら口頭で責めてくる。しかし、地肌が見えている面積に対して腕や足をくねらせたところで全てを隠せるわけではない。むしろそう恥ずかしそうにしているとどこかそそるものがあった。
「私達天使をそういった性欲の対象に見るのですね。わかりました、帰らせていただきます」
「ちょ、ちょっと待ってくれって!わかった!謝るから!!すいません!せめてどうして天使が俺の部屋にいるかだけでも教えてください!」
今飛んでったら天井にぶつかるんじゃないのか?帰るってどこに?など即座に様々な疑問が浮かんで来たのだが、そもそもどうして天使が俺の部屋にいるのかだけでも確認しないと消化不良も甚だしい。
「ふぅ、仕方ありませんわね。それに帰るといっても実際はあなたと願いを叶えてから帰るつもりでしたしね」
天使は飛び立とうとした姿勢を正して再び座り直す。
「では、順を追って説明します。まず、私を呼び出したのはあなたです」
「俺が?あなたを?天使を呼び出したって?一体どうやって?」
「落ち着いてください。それを今から説明します」
天使の一言で戸惑いを禁じ得ないのだが、天使は落ち着いた様子で話し始める。
「まず、あなたは今日初恋を思い出しましたね」
「えっ?いやぁ……」
「隠さなくてもわかります。それが理由で私はここに来ているのですから」
「まぁ……はい」
成人式で見かけた女子、初恋のまま行動を起こせずに終わった少女の思い出を回想する。同時に後悔と情けなさが込み上げて来た。
「私はそんなあなたの気持ちの高鳴りを感じてそれを取り戻させるためにここに来たんですよ」
「俺の初恋を取り戻させるだって?」
「はい、それが役目ですから」
淡々と話しているのだが要領を得ない。
「それは誰にでもできることなのか?」
「? いいえ、条件がいくつかあります。まず大前提として初恋が成就していないこと。次に過ぎ去った初恋を思い出して感情を最大限まで高めること。そして最後にその初恋が行動次第で成就する可能性があったということになります」
「そんな条件があるのか……」
天使が話す内容を頭の中で反芻する。確かに初恋は実ってないしな。それに今日めちゃくちゃその初恋について考えていた。
「あれ?ってことはもしかしてどっかで俺はのどかと付き合えたかもしれないってことか!?」
「はい、ですからそう申したではありませんか?」
天使が言った最後の条件。俺の行動次第ではその初恋を成就させられる可能性があったってことだ。目を丸くして再度問い掛けたのだが、天使からすれば間抜けな問いだったのだろう。呆れるように同じことを答えた。
「俺がのどかと……そんな未来が可能なのか…………」
「はい、どちらかというと過去ですがね。ですので、私の力を借りて初恋をやり直しますか?」
「そのやり直すってのは具体的にどういうことなんだ?」
イエスかノーかを答える前に聞きたいことがあった。
「まず、過去に戻ります。戻る時期は今から一年以内で、そして一番可能性があった時期になるので、それがいつになるかは人によって異なります。そのため戻ってみるまではいつなのかはわかりません。それにやり直せるのは一度きりでそれに失敗したら再びここに戻って来ます。今と何も変わりません。ちなみにですが、成功しても失敗してもあなたから私の記憶はなくなるようになっていますので、負い目を感じる必要もありません」
「そっか、どっかで俺は失敗したんだな」
天使の説明を聞いてどこか可笑しくなる。そんな可能性があったのかと思うと笑えてくる。
「気持ちは固まりましたね。あなたの希望を叶えないと私も……っとこれはあなたに関係ありませんでしたね。
「俺の希望を叶えないとどうなるんだ?」
「いえ、気にしないでください。ではいきますよ」
天使が何か引っかかりを覚えることを口にしたので気になったから問い掛けたのだが、天使は誤魔化すように胡散臭い笑顔を向けて来た。
そしてさも急ぐように初恋のやり直しを行おうとして天使の輪が光り出す。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!それって、仮に俺がやり直しに成功してのどかと付き合えたら今のどかと付き合っているやつはどうなる?」
「おかしなことを聞きますね。当然その子はあなたと付き合うのですから今仮に誰か他の相手がいるにしてもその人とは関係なくなりますよね。心配しなくても記憶は残らないので大丈夫ですよ」
「……そっか」
ふと疑問が浮かんだことを確認せずにはいられなかった。考えるのは成人式でのどかの横に居た男。彼氏だと伝え聞いた男のことが脳内を過る。もう色々経験しているのだろうと思うと悔しくもなった。
だが―――。
「いや、いい。やめとくわ」
「はぁ!?」
天使はそれまで繕っていた佇まいを崩して間抜けな声を出した。
「な、何を言ってるんですかあなたは!?やり直せるんですよ!?初恋を取り戻せるかもしれないんですよ!?確かに必ず成功するとは限りませんし、私もサポートで同じ時間にいきますので成功確率は上がりますよ!?」
「ああ、確かに最初それは良い話だって思ったんだ。失ったものを取り戻せるかもしれないなんて夢のような話じゃないか」
「じゃ、じゃあ一体なんで!?」
「けどそれってさ、自分の納得いくように過去を改変するってことじゃないか」
「確かにそうですが、誰も知らないし話です!あなたも記憶をなくすのですから!」
「それでもさ」
俺はやり直しをしようと決めていた。だが、話を聞いていざ過去に向かおうと思った瞬間に踏みとどまったんだ。
「例え記憶に残らなかったとしても、俺がこうして失敗したって事実は変わらないんだ。記憶に残ってなくてもこの魂に刻み込まれている。人生は一度きりだ。仮に成功したとしても、魂の記憶に誤魔化しを刻んだまま俺は生きたくない。初恋に失敗したっていうこともまた俺の人生だったんだ。ま、つまりそういうことさ」
「で、ですが、せっかくこんな機会が訪れたのですから、やり直しましょうよ!」
「いいんだ。俺がやり直したことで何かが変わってしまったら、例え俺も周りも何も知らないとしても、それが良いことだとは俺には思えないんだ」
「そ、そんなこと言わないでください。こんなチャンス誰にでも巡って来るわけじゃないんですよ!」
「いや、いい。もう決めたんだ」
俺は目の前の天使に思っていることをそのまま告げた。
どこか慌てる様子を見せる天使のことが少し気になったのだが、後悔を胸に俺は生きていくんだ。なんて清々しいんだ。こんなにも晴れやかな気持ちになれるなんてな。これは天使に感謝しないといけないな。やり直しはしなくても、こうしてくすぶっていた感情を落ち着けてもらえたのだ。まだしこりは残っているし、今後やっぱりやり直しておけば良かったって思うかもしれないけど、今の俺はこれでいい。過去を変えるんじゃなく未来を変えようと。
「…………気持ち悪い」
「えっ?」
俺の言葉を聞いた天使はそれまでの綺麗な笑顔を崩して明らかに不機嫌な様子を見せて俺のことを見て来た。
聞き間違いなのか、天使から気持ち悪いと言われたような気がした。しかし聞き間違いだとしても、どうやら怒っているらしいということは伝わってくる。しかしどうして怒っているのか?考えられるのは俺がやり直しをしなかったということだけはわかる。
いきなり様子の変わった天使にどうしたのかと思うのだが、天使が悪くなる時ということは聞いたことがある。
「どうしたんですか?」
俯いてしまい、表情が読み取れない天使に向かって問いかけてみた。
数十秒の無言のあと、天使は俯いたまま口を開いた。
「きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい」
「えっ?気持ち悪いってどっか体調悪いんですか?」
天使も急に体調が悪くなることもあるのかと思ってのだが、そんな今このタイミングで?まさかと思う。
途端に天使は顔を勢いよく上げて俺に近付いて来る。そこでやっぱり怒っている顔が確認されて、やっぱり怒っているんだなと思うのだが、その距離は今にもキスが出来そうな距離で怒っているはずなのに綺麗な顔立ちにどこかドキドキとしてしまう。
「どうして人間のあなたがそんなことを言えるのですか!?」
「えっ?」
「人間なんて欲深くてこんな提案をすれば真っ先に食いついてきて、こんな仕事楽勝にこなせるって聞いたから私は始めたのに、どうして初めて相手をする人間がこんなことになるのよ!!」
これが噂に聞く堕天というやつなのか?明らかに蔑まされていることを感じる。しかし一体何故それほど蔑まなければいけないのかわからないので若干の腹立たしさを覚えた。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないわよ!私は呼び出された以上、契約に従ってあなたの初恋をやり直さないと天界に戻れないじゃない!それどころか……」
「それどころか?おい!何か隠してやがるな!」
覚えた感情を押し殺して穏やかに天使に問い掛けたのだが、天使は尚も口調を改めずに怒気を孕んでぶつぶつと言っている。それどころかと口にして思わず両手で自分の口を塞いだ。そこでやっと自分が何を言おうとしたのか理解した様子で踏みとどまった。
その様子を見て何かあると踏んだ俺は天使の両手を持って閉じた口を開かそうとする。
「んんんー何も隠していませんよー」
「おい!説明しろよ!」
天使の両手を掴んで顔面を迫るという行為をやって初めて理解した。こんなことはしたことがない。余りにも近過ぎる距離、まるで迫っているみたいになる状況にお互い顔を赤らめてしまうので、慌てて天使の両手を離した。
少しばかり距離と無言の時間が流れる。
「そ、それよりも、とにかく初恋をやり直しませんか?」
「まずは話を聞いてからだ」
「ぐっ!」
おい、さっきまでの天使然とした佇まいはどこにいったんだと思わせられる態度を取っている。
「口惜しいですが、説明させて頂きます……」
「おう!」
いつの間にか立場が入れ替わっているのだが、気にしない。隠し事をしているであろう天使の方が悪いのだと思う。
「あなたがやり直しをしないと私は天界に帰れません」
「それはさっき聞いた。その後だ」
「それで、その、あなたがやり直しをしないならば、次に恋愛が成就するまでは私がお手伝いすることになっています」
「は?そんなことか?じゃあ手伝ってくれよ!」
天使から説明されるのだが、それのどこに問題があるのだろうかと思う。
「そんなこと!?そんなことですって!?でもあなたの恋愛ポイントは―――」
「俺の恋愛ポイントがなんだって?」
「い、いえ、なんでもありません。それよりもやり直しをする方が話は早いのですよ?」
何かまだ隠してやがるなと思うのだが、天使は口を噤んで再度やり直しを要求して来た。本来やり直しをお願いするのは俺、引いては人間側のお願いだろうに天使のお前がなんでそんなにお願いするんだよと思ってしまう。どこか必死さも窺えた。
「だから、さっきも言ったけど、やり直しはしないって。次の恋を頑張るよ」
「それができないからこうしてやり直しをようしようって言ってるんじゃないの!―――あっ!」
「……おい、今なんつった?俺の次の恋ができないだと?」
ここまで真剣に話を聞いているのだ。今更聞き間違いはないと思う。まさかとは思うが一応確認してみることにした。
「さっき言っていた恋愛ポイントってのが関係してるんじゃないだろうな?」
「えっ?いやぁ、そのぉ……」
天使はしどろもどろになる。絶対に何か隠しているとこの様子から断言出来た。
「もう観念して全部白状しろ。なっ?」
少し優し目に声を掛けることにした。これだけ追及しても答えないということは、どうやら負い目を感じている様子なのだろうと思う。
天使は俺の声を聞いて上目遣いに見て恐る恐る口を開き始める。
「非常に……申し上げにくいのですが…………あなたの恋愛ポイント、つまり今後の恋愛に活かせることのできる天使にしか見えない数値なのですが、私の……不注意で…………無くなってしまいました」
「は?どういうことだ?なんでなくなったんだ?」
天使の話を聞いて戸惑いを隠せない。こいつは何を失敗したんだ?
「……天使は、召喚された際、個々人の恋愛ポイントの半分を使用することになっているのです。召喚イコールやり直しですので当然それはやり直しをしても減ったままです。ですが、やり直しをしなくても残った半分を使って後の恋愛に使用します。その際の天使のサポートにはポイントは減りません。むしろ減ることはあるのですが、それは天使が恋愛成就のために有効に使います。……それで、あなたのポイントは私が間違って全部やり直しの方に回してしまったので、あなたはやり直しに成功しない限り一生独り身のままになります」
俯いたまま、細々と話す内容を一言一句聞き漏らさないようにする。話の内容を聞いて驚愕した。
「どうやったらそんなミスをするんだよ!?それってつまり、やり直しをしてもしなくても俺は恋愛ポイントがなくなったままだということだな?それも一度失敗した人生を成功するかどうかわからないことに賭けなければいけない、と!?」
「はい、そうなります」
「とんだダメ天使だな。堕天使どころか駄天使だな」
「なんですって!」
天使に向かって悪態を吐いたら天使はキッと睨んできた。なんだよお前が悪いんだろ、と一言返してキッと睨み返すと天使は微妙にたじろいでしまった。
「ちっ!あぁー!もうわかった!」
「わかってくれましたか!?」
「ああわかった!意地でもやり直しはしねぇ!」
「は?」
天使は俺が諦めてやり直しをするのだと思うとパッと表情を明るくさせた。しかし、成功するかどうかもわからないことに一生は賭けられない。俺の言葉を聞いて天使は目を丸くする。では一体何がわかったのかと。
「仕方ない、お前ここに住め」
「えっ?」
天使に俺の家に住むことを提案する。
「だから、責任を取ってなんか方法を探せ。方法がないならお前が俺と付き合え。それで万事解決だ」
「私が、あなたと?ここに?」
天使は驚き過ぎて呆けてしまっている。最初の荘厳さはどこへやら。
「おう、だからそう言ってるだろ?大丈夫心配すんな。俺の両親は今海外に住んでるから当分帰って来ねぇ。それに人間になれるんだろ?なら問題ねぇ」
「……あなたは何を言っているのですか?」
「どっちにしろ天界には帰れねぇんだろ?ならここに居させてやるって言ってんだ。他にも問題は色々とあるだろうが細かい問題は後で解決すれば良い。まぁお前が俺と付き合ってくれたら済む話じゃねぇか?」
「そんなことできるわけがないでしょう!天使と人間なんですよ!?それに天使を手籠めにしようとするなんてとんだ鬼畜人間がいたもんですね」
「元々はそっちのミスだろ?」
「ぐっ!ですが、召喚したのはそっちですよ!」
「知らねぇよ、勝手に来たんだろ。俺は呼んでねぇ。お前らのシステムに利用されただけだっつの。挙句巻き込まれたんだしな。それに、お前は俺がやり直しに失敗してこのまま一生独り身でおればいいと思ってたんだもんな。ずるいよなー、それ。俺が忘れるのをいいことに言わなけりゃバレなかったんだもんな。自分が天界に帰るために自分の失敗を隠したまま」
「ぐぐぐっ」
天使の失敗をくどくどと追及した。だんだんと肩を萎めていく。
「よし、決まりだな。じゃあこれからよろしく頼む」
「わ、わかりました……」
にやりと微笑む俺に対して、天使は無理やり笑顔を作って笑いかける。渋々承諾した様子が透けて見える。
「そういや、名前はなんていうんだ?俺は遠坂晃」
「私はシェラ・マーキュリーです」
「そっか、じゃあよろしくなシェラ」
お互い一緒に住むことになるのだから自己紹介をする。
「もう馴れ馴れしく呼び捨てですか?じゃあ私も呼び捨てにします。あ・き・ら!」
「むしろその呼び方なんかエロい」
初めて呼ばれる名前だが、微妙に間隔を開けて呼ばれることに妙な艶やかさを感じて思わず感想を口にしてしまう。
「もう!さいってー!」
「はははっ、面白いなお前。それに可愛いな。あっ、見た目はもちろん天使だからか可愛いけど、最初の余所行きの態度よりも今の方が素だろ?絶対その方が可愛いって」
「ぐっ、そ、そんなことではだまされませんからね!絶対にあなたの恋愛ポイントを復活させる方法を探してみせます!」
「ん、それまでよろしく」
こうして何故か俺と天使との不思議な同棲生活が始まったのだった。俺の将来の伴侶が無事に見つかることを祈ろう。
ふと思いついたので書いてみました。やっぱりこういう感じの方が好きなのですが、今書いてる連載はギャグ要素ほとんどないより現代恋愛なので、そのつもりで見に来てください。