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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕達は必然で出来ている。

作者: 春野夏生

高校2年の春、僕達はクラス替えが終わり、数日間経っていた。僕は高校1年の時から大人しめで教室ではいつも1人で絵を書いていた。友達はというとクラスに2人くらいはいた。しかし、2年生ではみんなバラバラになってしまい、僕は1人になってしまった。まぁ別にひとりが嫌という訳では無いけど…。やはりクラスには僕みたいな根暗なやつとは対照的にクラスの中心的な人物になり、楽しく過ごしているやつもいる。まぁこういうふうになるように教師がわざと振り分けているのだろうけど…。僕は今日も1人で机に向かって絵を書いていた。


「……柊斗。浅井柊斗。」

「あ、はい。」


僕はすっかり絵を描くことに集中してしまってまったく周りを気にしていなかった。僕はいつも思う。この"浅井"という苗字の家に生まれてきたせいで僕はいつもびっくりしてしまう。"渡辺"みたいに後ろの方の苗字なら前の人までが長いからある程度の予測はできる。僕はそうやって羨ましがっていた。そして名前を呼ばれて返事をしたので描いていた続きの絵を描こうとした。すると僕の消しゴムが僕の腕にあたり机から落ちた。それを拾おうと手を差し伸べるとそれよりも先にスラッとした綺麗な肌の腕が先に消しゴムへとたどり着いた。そして顔を上げると隣の席の北崎風遊花が、消しゴムを拾ってくれていた。


「ありがとう…」


僕は少し見とれていたがずっと見続けるとただの変態の陰キャだと思われるため、僕はお礼を言って絵を描こうとした。すると、


「さっきから何描いてるの?ちょっと見せてよー。」

「いや、でもこれは……」

「それっ!」


彼女は僕が「やめて」と言う前に僕の描いていた絵を取ってきた。


「ちょっと……まだ……」

「これあそこの山だよね?」

「え?…あ…うん。で、でもそこまで上手くないし、人に見せるような程でもないからかえし…………。」

「上手だね。私から見たらなんでこんなに上手くかけるのか不思議なくらいだよ。……あ、そうだ!今度私にも絵の描き方教えてくれない?私絵下手くそなんだよねー。中学では次世代ピカソって言われたくらいなんだ。」

「いいけど、次世代ピカソって言われたくらいなら教える必要は無いと思うんだけど。」

「次世代ピカソは芸術的じゃなくてただただ下手くそなだけなの!じゃあ明日から朝早く学校に来るから浅井君も早く来てね!」

「えっ!?明日からするの?」

「うん。当たり前でしょ?やるって決めたことはすぐに実行しなきゃ!なんか用事でもあった?」

「特にはないけど……。」

「だよねー。」

「だよねーって失礼じゃない?」

「まぁとにかく用事がないならよろしくね!」


そう言って彼女はどこかに行ってしまった。僕は話していることに集中しすぎて誰と話していたのかというのを忘れてしまっていた。我に返ると周りからの視線がとても痛いことに気がついた。あんなに可愛い女子から頼まれるなんてそう滅多にない。周りの男子は完全に僕に対して敵対心を抱いている。僕も断るつもりだった。しかし、女子というのは怖いもので上目遣いで頼まれると男子は断りづらい。ましてや僕はこれまで女子との交流が少なかったのでそういう技にはとても効果抜群だ。彼女はクラスの中心的な子でみんなから人気だ。まぁ可愛いからというのもあるけど。男子は多分そうだろう。僕は女子と話をしたことが原因でさっきからペンが震えて上手く絵が描けない。いつもならペンが踊っているように描くことが出来るのに。ほんとに女子はこわい。そう思いながら僕は絵を描いているのを一旦中断して次の授業の準備をした。次の授業は移動教室だった。いつも僕は移動教室も1人だ。みんなと一緒に行くことが憧れている。だが、残念ながら僕には一緒に行く友達がいない。寂しいものだ。すると、後ろから、


「浅井君、ちょっと浅井君!」


僕はめったに呼ばれることの無い名前に反応して振り返った。するとそこには北崎さんがいた。


「ちょっとこれ、落としたよ。」

「あ、ありがとう。」


北崎さんが渡してくれたのは僕が朝描いていた絵だった。僕は次の授業で絵の続きを描こうと思って持ってきたつもりだっだ。それを何かの拍子に多分落としてしまったのだろう。それを拾ってくれたのが北崎さんで良かった。他の人が拾っていたら、僕の絵の下手さがバレてしまう。実際下手なのだからしょうがないだろう。僕は北崎さんにお辞儀をしてから教室へと向かった。そして僕は北崎さんのおかけで絵を授業中に描くことが出来た。僕が通っている学校の先生はみんな生徒には興味が無い。だから周りには寝てるやつもいればスマホを机の下でいじっているやつもいる。本当は授業中に絵を描くこととかスマホをいじることや寝ることはどこの高校でも許されないことだろう。こういう先生が緩い時北崎さんは何をしているのかと言うとやっぱり授業を真面目に聞いている。僕のクラスで真面目に聞いているのは数人くらいしかいないが北崎さんはその中でも特に真面目に聞いている。そんなに授業中真面目なら頭が偉いのではないかと思う人も多いと思う。そう思う人はちゃんと人間観察を見直した方が良いのかもしれない。彼女はクラスでワースト1・2を争うおバカさんだ。そして僕は退屈な授業をなんとか乗り越えた。そして午前の授業を終えて昼休憩に入った。僕はこの時間が一番嫌だ。周りはとてもうるさい。まるでパチンコ屋に居るようだ。聞きたくもない話もよく耳に入ってくる。今日はクラスの男子1名が好きな子に告白するという話だった。僕にはそんなことどうでもいい。早く告ってけりをつけてこい。そう思っていると、次に聞こえてきたワードに僕の耳のアンテナが立った。


「お前マジで言ってんの!?」

「マジだよ。」

「さすがに無理だよー。北崎さんに告るなんてー。」

「いや、でも最近めっちゃいい感じなんだって。」

「まぁ友達の俺は応援してやらんことも無いけど。」

「だよなー。お前ならそう言ってくれると信じてたぜ。」

「調子に乗るなよ。」


その告ろうとしている男子の相手がまさかの北崎さんらしい。僕はその話を聞いたあと授業を受け放課後へとなった。気がつくと僕の足は屋上へと進んでいた。


「北崎さん、あのー……ぼ、僕と付き合ってください!」


言ったー!北崎さんはどう答えるんだ?僕は1人で興奮していた。元々こういうのには興味なかったのになんで興奮しているんだ?そう思っていると、


「ご、ごめんなさい。」


北崎さんは確かにそう答えた。心の中でほっとしている自分がいる。いつも通りの僕ならそんなことはどうでもいいと思うはず。しかし、今日の僕は違った。なぜかほっとしている。これは何なのだろう。今すぐ僕はこの気持ちを誰かと共有して確かめたい。これがなんなのか。そして北崎さんは僕がいる扉の方へ歩いてきた。ここにいてはまずい。僕は咄嗟に近くの掃除用ロッカーへと入った。そして北崎さんは階段を降りていった。

そして次の日彼女は昨日言ったことを守って朝早く学校に来ていた。僕は昨日のことが頭から離れずにいた。僕はゆっくりと教室に入りゆっくりと席に着いた。すると、彼女は、


「なんで無視するのー!お・は・よ・う・は?」

「お、おはようございます。」

「ダメだねー。そんなんじゃ友達作れないよ?」

「友達は作れなくても作品は作れるからいいよ。」

「なんでそんなこと言うのー?友達いた方が楽しいじゃん?」

「僕は1人の方が楽しいかな。」

「私とはほんと真逆だね。」

「まぁ生きている世界が違うからね。」

「それは人間みんな一緒です!」

「そっかそっか。」

「冷たいなー。南極ぐらい冷たいよ。」

「南極は冷たいとは言わない。寒いっていうんだよ。しかも多分南極はまだ人が住めているから北極の方が寒いんじゃないかな?」

「うるさいなー!まぁとにかく今日は絵が上手になるまで教えてもらうからね?」

「それは多分今日では無理だよ。」

「それくらい教えてもらうってことだよ!」

「はいはい。」

「で、まず絵を描くにはどこから書けばいいの?」

「あ、あー。えっとね。まずはこの………。」


そして僕達はやっとの事で絵を描き始めた。本当にこれがずっと続くのだろうか。彼女が続くようには思えないのだが。そう思っているうちに1週間はちゃんと毎朝やっていた。素直に凄い。まず、ちゃんと僕の話を聞いてくれるだけでこっちが嬉しくなる。この時初めて教師の気持ちがわかったからもしれない。

それから数日後、僕と北崎さんは日直で一緒になった。北崎さんと二人きりになるのは朝以外はなったことが無い。まぁ話すことも無いから無理に話に行く必要も無い。早く終わらせて帰ろう。けど1人でこれはさすがに無理がある。北崎さんに手伝ってもらおうと思い、北崎さんの方を見ると北崎さんは窓の外を眺めていた。


「あのー、北崎さん?掃除やってくれる?僕一人じゃ無理なんだよね。」

「あ、ごめんごめん、なんかぼーっとしちゃって。分かった。掃除ね!」

「そうそう掃除。とりあえずそのゴミを片付けてくれるかな?」

「わ、わかったよぉ。」


北崎さんは僕が仕事を頼むとゴミ袋をもって教室を出た。すると廊下から。「ガシャン!」と音がしたので僕は慌てて教室を出た。すると北崎さんが派手に転けていた。僕は「大丈夫?」と声をかけて廊下に散らばったゴミを拾い集めた。こういう時はお掃除ロボットが役に立つのだろう。僕はみんなが欲しがる理由がわかった。それより、今日の北崎さんは少しおかしい。僕は北崎さんに「今日は帰っていい。あとは僕がやるから。」と言って彼女を帰らせようとした。すると彼女は振り返って僕のLINEを聞いてきた。僕は別に害はないと思いLINEを交換した。その後僕は1人で掃除を終わらせ家に帰った。すると北崎さんからLINEが来た。


「▼あのさ、浅井君?」

「▽何?」

「▼もしも良ければなんだけど……そのー……私の相談相手になってくれない?」

「▽え?」

「▼私ってほら!友達多いじゃん?あ、自慢じゃないんだよ?でね、そのみんなを信用してないわけじゃないんだけど、あんまり相談できないというか…浅井君ならそういうの得意そうだし?だめ………かな?」


もちろんいいとも!と、返信をするのはやばいだろう。絶対これからの学校生活に支障が出る。僕はとても考えた。そしてでてきた言葉が、


「▽そんなに話してわかるかわからないけど僕でいいなら相談に乗ってあげるよ。」


まぁこれが自分が考えた中で1番ベストアンサーだったと思う。すると北崎さんからは、


「▼ほんと!?ありがと!じゃあこれからお風呂に入るからその後に聞いてね!寝てちゃダメだよ?」


そう返ってきた。そして数分間待った。しかし、なかなか返信が来ない。さすがに30分スマホを見ながら待つのは辛い。すると僕は深い眠りについていた。

朝目覚めるとスマホには北崎さんから怒ったスタンプが送られていた。これは絶対に学校でしばかれるやつだ。僕は覚悟を決めて学校へと向かった。

朝いつも通りの朝早い時間に学校に着き教室に入ろうとするとドア越しでもわかるような嫌なオーラが漂っていた。そして僕は教室のドアを開けるとそこには北崎さんと昨日北崎さんに告白していた子がいた。


「この間ちゃんとごめんなさいって言ったじゃん!」

「でも僕は君のことが好きなんだ!ちょっとくらい考えてくれよ!」

「もう私には好きな人がいるんだ。だから断ったの。」

「そいつと僕は何が違うんだ。俺だって北崎さんに好かれようといい事してるつもりなのに。どうして……。」


僕はドアを開けてしまったことを後悔した。まさかこんな状況になっているなんて思っても見なかった。教室に入ってしまった以上後戻りは出来ない。僕はゆっくりと2人に気づかれないように席につこうとした。しかし、僕はそのミッションをクリアすることは出来なかった。北崎さんは僕に気づいて、


「あ、浅井くーん!お・は・よ!」

「お、おはようございます。」

「君ももう帰って。今から私浅井くんと絵を描くから。」


そう彼女が言うと彼は肩を落として帰って行った。


「あの子のこといいの?」

「ほんとしつこいよね。私は好きな人がいるから断ったって言うのに。LINEでも言ってくるんだよ?」

「あの子の君への思いは凄いね。」

「もう好かれてるのは嬉しいけどなんか行き過ぎて迷惑なんだよね。」

「僕は好かれることがないからそういう迷惑を受けなくて済むな。」

「またーそんなこと言うー!ちょっとは自分を良いふうに思ったら?」

「良くないからいいふうに思えないのかもよ?」

「あなたに宿題です。明日までに自分の長所を考えてきなさい。」

「考えてこなければ?」

「私の言うことを聞いてもらう。」

「それは大変だね。」

「そうよ。ちゃんと考えてくるのよ。では授業を始めましょう。」

「その言葉は僕が言う言葉だよ。」


なぜか宿題を出された僕は昨日と同じように北崎さんと絵を描いた。昨日のことは何も話には出なかった。そして早いけれど一日が終わり、家に帰ってスマホを開いた。すると北崎さんからLINEが来ていた。


「▼昨日私が相談を言う前に寝たでしょ!(怒笑)」

「▽ごめんごめん寝てしまった。けど君もお風呂タイム長すぎだよ。」

「▼女の子はお風呂は長いの!」

「▽そうか。女の子は長いのか。」

「▼そうよ。それより相談なんだけど私さモデルのオーディションを受けようとおもってるんだけどどう思う?」

「▽それが相談?」

「▼そうだよ。で、どう思うの?」

「▽んー。僕は別にいいと思うけど僕の判断で決めるのは違うよ。親とかと相談した方がいいんじゃない?」

「▼こんなこと親には言えないよ。」

「▽君がこれからモデルになりたいと思うんなら受けた方がいいんじゃない?」

「▼んー。あまり参考にならないね爆笑」

「▽なら、相談しに来ないでくれる?」

「▼嘘だよ。ごめんね。ちょっと考えてみるよ。」


僕はその言葉を見てスマホを閉じた。北崎さんがモデルか。まぁあのスタイルであの可愛さは多分世間一般的に見て上位の方になるだろうから多分オーディションも受かるだろう。

次の日僕は学校に行って教室に入った。すると、そこにはいつもいる北崎さんがいなかった。どうしたのだろうか。やっぱり朝早く毎日来ることは無理だったのだろうか。僕は北崎さんがいない中で黙々と絵を描き始めた。朝のSHRが始まるチャイムが鳴った。周りを見てみると北崎さんの姿はなかった。昨日の僕のLINEの対応がいけなかったのだろうか。僕は少し心配していた。すると昼休憩に僕のスマホが震えた。


「▼浅井くん、今から学校抜け出して私の家に来てくれない?」


北崎さんからだ。僕は迷った。そのLINEの内容は最後に書かれている北崎さんの家の住所であろう場所に来て欲しいというものだった。僕は悩んだ。しかし、学校に行っている僕を呼び出すとはとても大きなことがあったのだろう。僕は指示通りに北崎さんの家に向かった。

北崎さんの家の前に立ちインターホンを鳴らした。すると階段を降りてくる音が聞こえた。そして玄関が開き北崎さんの姿が見えた。僕は家に上がるよう言われ、北崎さんの部屋へと案内された。女子の部屋に入るのは初めてだ。


「浅井くん、呼び出しちゃってごめんね?」

「別に大丈夫だよ。なんか大変なことでもあったの?」

「そーなんだよね。めちゃめちゃ大きな決断があるんだ。」

「朝の卵は目玉焼きか卵焼きか?」

「そんなんで呼び出さないよ。」

「あースクランブルエッグか。」

「そういうことじゃない。昨日話していたオーディションの事だよ。」

「あーその事か。まだ悩んでるのか。」

「結構悩むんだよ。」

「そんなに悩むんだったらやめたら?」

「え、でも……」

「悩むってことはやりたくないって気持ちがあるんでしょ?やりたいなら悩まないよ。どうせ親のこととか考えてるんでしょ?」

「う、うん。」

「まぁわからない事でもないけどさ。自分がやりたいことを止める親なんてそうそういないよ。」

「でもうちの親は……」

「後悔したくないんだったら何かを諦めないと。別に親に怒られるくらい後で怒ったことの恥をかかせるくらいの結果残せばいいんじゃない?」

「あ、浅井くん……」

「で、どっちなの?卵焼き?目玉焼き?スクランブルエッグ?」

「も、もう!違うって!今めっちゃ浅井くんのことを尊敬していたところなのに!」

「そのまま尊敬してくれてもいいけど。」

「でもありがと。私決めたよ。オーディション受ける!」

「そっかそっか。頑張れ。」

「もっと、こう、ない?僕の分まで頑張ってくれ!とか。」

「そんなに応援しといて受からなかった時が恥ずかしくなるから。これくらいにしとくよ。」

「もう!」

「じゃあ僕はこれでドロンするよ。」

「う、うん。ほんとにありがとね。」

「うん。」


僕はことを済ませてどうしようか迷った。今から学校に行っても先生に怒られるだけだ。かと言って家に帰るのも親に怪しまれる。とりあえずネットカフェで時間を潰すか。ということで僕はネットカフェに行った。そして僕は3時間位時間を潰すことに成功した。家に帰りしばらくすると北崎さんからLINEが来た。


「▼なんか第1次オーディション写真送るらしいんやけど、これでいいかな?」


そう言って送られてきた写真を見た。ふつーに可愛い。僕はなんでこんなこと一緒にいるのだろうと思った。僕は素直に、


「▽いいと思う。」


と送った。すると北崎さんからは、もっと無いのかとLINEが来たが思ったことを言っただけなのでこれ以上ない。僕はないとだけ返信した。

次の日学校に行くと僕が着く前に北崎さんが来ていた。すると北崎さんは笑顔で僕に近づいてきた。


「浅井くん、お・は・よ!」

「おはよ。」

「私今思ったんだけど、浅井くんって呼ぶのなんかいやなんだよねー。」

「ふーん。」

「で、柊くんって呼んでいい?」

「ダメって言ったら?」

「柊ちゃんって呼ぶ。」

「柊くんでいいよ。」

「柊くんも私の事下の名前で呼んでね。」

「呼ばないよ。」

「ダメ。強制。」

「なんでいきなりこんなこと言わないといけないんだよ。」

「私たちほかの友達と違う関係じゃん?」

「だとしてもだよ。」

「もうごちゃごちゃ言わない。下の名前で呼んで。」

「ごちゃごちゃ言ってるのはどっちだよ。」


ということで僕は北崎さんのことを風遊花と呼ぶことになった。

それからなんだかんだ1ヶ月たった。ある休日僕は風遊花の家に呼び出された。その理由は第1次オーディションの結果が届くというものだった。僕は風遊花の家に行き彼女の部屋で茶菓子を食べていた。すると、風遊花が茶色の大きな封筒を持ってきた。僕達はドキドキしてハサミを入れた。そして中の紙を出すとそこには


"おめでとうございます。一次審査合格です。二次審査は3ヶ月後の9月2日で東京で行います。必ずお越しください。"


そう書いてあった。僕達は2分間ぐらい時空が歪んだみたいに沈黙していた。そして僕達は我に返り大声で喜んだ。彼女は無意識に僕に抱きついてきた。


「あ、ごめん。」

「いや、いいよ。それよりおめでとう。」

「ありがとう。柊くんのおかげだよ。」

「僕もあるんだ。」

「なにが?」

「僕も試験を受けてきたんだ。」

「なんの?」

「ファッションデザイナー。」

「柊くんファッションデザイナーになるの!?」

「うん。それで試験を受けたんだ。」


僕も彼女にはバレないように将来に向けて頑張ってたくさんの試験を受けた。僕の将来の夢はファッションデザイナーになることだ。そのために頑張った。本当は前から結果は届いていたが、彼女の合否が分かってから僕も開けようと思っていた。そしてそれを開ける時がやってきた。僕は封筒にハサミを入れた。そして中の紙を出した。まずは、カラーコーディネーター検定試験だ。僕は今まで以上にドキドキしていた。結果は…………合格だった。素直に嬉しかった。あとまだまだある。そして、ファッション色彩能力検定、洋裁技術検定、パターンメイキング技術検定、ファッション販売能力検定と全て合格していった。あとはひとつだけ。しかも一番自信の無いやつだ。ファッションビジネス能力検定。あとこれだけ。そして恐る恐る開いてみると、そこには大きく合格という言葉が書かれていた。僕はとても嬉しかった。もうその場にいる僕達はそれぞれの合格という言葉を目にして目の中がナイアガラの滝みたいになっていた。

僕達はまだこのことを誰も知らない。みんなも思っていないだろう。風遊花が東京に行くことを。僕は全ての試験を合格したことで少し浮かれていた。しかも最近風遊花と一緒に帰ることも多くなっていた。だから最近クラスの子からの目線がとても気になる。そして今日の放課後も僕は帰ろうとしていた。すると風遊花が当然のように僕のところに来た。


「柊くん。一緒にか・え・ろ?」

「その言い方はやめてくれ。」

「ごめんごめん。じゃあ普通に帰ろ?」

「まぁいいけど。」


そして僕達は教室を出ようとすると、クラスの男子に話しかけられた。


「お前達もしかして付き合ってんの?」

「付き合ってねーよ。」

「付き合ってるよ?」

「は?お前何言ってんだよ。付き合ってないって。」

「お前ら仲いいなー。まぁいいや。楽しんでー。」


クラスの男子はそう言って笑いながら帰って行った。そして僕達も帰り始めた。

そしてそんな毎日を過ごし3ヶ月が経った。僕は風遊花が東京に行く三日前に風遊花の家に呼び出された。


「柊くん、いきなり呼び出してごめんね」

「いつもの事だからそんなに気にしてない。」

「で、呼び出した理由なんだけどね。一緒に東京に来てくれない?」

「やだ。」

「なんでよー?一生のお願い!1人じゃ心細いの!」

「知らねーよ。僕はこっち側で応援してるからさ。」

「他の子には頼めないの!」

「一生のお願いって言ったからな。」

「さすが!柊くん優しい!」

「分かりきってることだから口に出さなくてもいいよ。」

「少しは照れてよ。」


ということで僕は風遊花と一緒に東京に行くことになった。お金は今回は風遊花が負担してくれるらしい。なんか僕が呼ばれた身だから仕方ないのだろうけどなんか申し訳ない。このお金は後でバイトしながら返そう。そう決めて僕は東京に風遊花と行った。

東京行きの新幹線で僕達は駅弁を食べながら向かっていた。すると、風遊花が僕の駅弁に入っているお肉を取ってきた。


「ちょっ!何すんだよ!」

「お肉1枚くらいいいじゃん。」

「俺はそのためにこの駅弁を買ったんだよ!」

「じゃあ私のこのお肉あげるから。」

「そういう問題じゃない!もう、いいよ!」


僕は拗ねてしまった。たかが駅弁のお肉で。僕と風遊花はなんか気まづい雰囲気になってしまった。そして名古屋から東京までの間僕達は一言も喋ることがないまま新幹線を降りた。話さなかったけど多分この後は風遊花はホテルに行くのだろう。それくらいはわかった。しかし、その後どうなるかは誰もわからなかった。そして思った通り風遊花はホテルへと向かっていた。そしてそのホテルで大事件が起きた。


「あの……柊くん。ホテルの部屋私と一緒でいいかな?」

「やだよ。男子と女子が同じ部屋ってやばいだろ。」

「私は気にしないからさ。」

「僕が気にするよ。」

「ほんとお願い!」

「僕は違うホテル探すよ。」

「待って、私が柊くんと一緒に居たいから東京までも呼び出したの!」

「え?」

「と、とにかく同じ部屋にして?」


僕は言われるがままになってしまった。ホテルの部屋が2つ取れないってどういうことだよ。めちゃめちゃ人気なのか?このホテル。そういうことで僕と風遊花は同じ部屋で一日を過ごすことになった。先に行っておくが僕は思春期の男の子とは違う。そういった男子高校生がよく考えるベットシーンなんかはしない。当たり前だが僕はソファーで寝る。それよりさっきの風遊花が言っていた僕と一緒に居たいってどういうことだ?僕の頭の中はスクランブルエッグみたいにぐちゃぐちゃになっていた。するとショッピングを終えてきた風遊花が部屋に帰ってきた。なにかとても大きな荷物を持って帰ってきた。多分みんなにあげるお土産だろう。すると風遊花がいきなり僕の目の前で正座をしてきた。


「あのね、さっきの事だけど……。」

「ごめん。新幹線でのこと。あんなことで拗ねるなんて。マジでごめん。」

「ふふっ。まだそのこと気にしてたんだ。私も悪かったからそれは水に流そ?それよりさっきの事なんだけど……。」

「新幹線ことで頭がおかしくなったのか?」

「ちがう。あのね。もし私がオーディション受かったら私の言うこと一つ聞いて?でも受からなかったら柊くんの言うことなんでも聞くから?」

「しょうがない。新幹線のこともあるから聞いてあげよう。」

「あれは水に流すって言ったでしょ。」


風遊花は何を企んでいるのだろうか。僕はそれが気になって仕方がない。もう明日のこともあるし何も考えずに早く寝た方がいいのだろう。ということで僕達は十時で早かったが寝ることにした。

そして翌日オーディションの日だ。僕は自分で作ったお守りを彼女に渡した。僕が会場に行くと妙な緊張を与えてしまうかもしれないからホテルにいることにした。しかし、ホテルでも何時間も待つのはしんどい。僕は少しだけ外に出て気分転換をしようとした。けど東京はすごい。あちこちに人がいる。しかもこのホテルには僕達が泊まっている日にあの有名な芸能人も泊まっているという。そんな東京で半日を過ごして風遊花を待った。そして風遊花が帰ってきた。僕達は明日から学校のため急いでチェックアウトして新幹線に乗った。


「私今日の面接心配なんだよね。」

「そんな心配してもあっちの人には関係ないよ。」

「だよね。落ちてたらどうしよ。」

「そうなった場合僕の言うことを聞いてもらう。」

「そうだよね。」

「落ちることはあんまり考えない方がいい。」

「うん。」


風遊花は今日のオーディションの面接がとても心配らしい。こんなに心配する彼女を見るのは初めてだ。そんな彼女のオーディションの心配を聞いてあげながら僕達は新幹線を降りた。

そしてオーディション合否発表日。僕達は学校を休んで風遊花の家に居た。そして連絡がきた。電話をスピーカーにして聞いた。


「もしもし。残念ながら次回頑張ってください。」


彼女は電話を切ったあと泣いた。そして僕は泣く彼女のそばにずっと寄り添った。これがそばにいる身として1番ベストな答えだっただろうから。そして泣き止みしばらくしてから彼女は僕の言うことを聞くために近くのレストランへと行った。僕はオーディションに落ちた彼女を目の当たりにして実際聞いて欲しかった内容を言うことが出来ず、パフェを奢ってくれということを言うくらいしかできなかった。すると彼女はいきなりこんなことを言い始めた。


「やっぱり私にはモデルは似合わないのかなー。」

「そんなことないよ。」

「でもやってみて気づいたんだ。周りの人の方がモデルにピッタリかもって。私なんか出ちゃいけないんだろうなって。」


僕はそんな下向きな考えを持つ彼女にイラッときた。


「君は!君はそんな軽い気持ちでこのオーディションを受けようと思ったのか?あんだけ僕に相談しておいて!落ちたから自分はダメかもしれません?ふざけるな。君はこのオーディションのために日頃練習してきたんだろ!君は気づいてないかもしれないけど僕は知ってるよ!君がこっそり歩く練習をしていることを。」

「え?」

「そんな気持ちなんだったら一生モデルにはなれないよ!」


僕はカッとなってその場を出た。あとから思ったがやりすぎた。後で謝ろう。けどこの喧嘩はいつもと違う。長く続きそうだ。その予想は後に的中することとなる。

次の日学校に行くと風遊花の姿があった。僕は謝ろうとして風遊花に喋りかけようとするが直ぐに友達の所に行ってしまう。多分僕を避けているのだろう。僕はなんてことをしたんだ。今まで以上に反省しているつもりなのに。そうやって謝る日がどんどん遅れていってしまった。

そして謝ることが出来ずクラス替えとなった。僕は風遊花と違うクラスになった。そしてますます喋りにくくなった。今の時期色々と部活勧誘やらでみんな忙しい。僕はそうやってガヤガヤしているとこがあんまり好きではないので家に帰って絵を描くことにした。すると帰り道街の掲示板でモデルのオーディションを募集しているという広告を目にした。あの時も多分風遊花もこうやってモデルのオーディションを見つけたんだろうな。その時一気にあの時の思い出がよみがえってくる。多分僕は……。そうやって考えていると僕は風遊花の家に来ていた。多分この時間帯は風遊花は帰っていない。僕はインターホンを鳴らした。するとそこに出てきたのは風遊花のお母さんだった。


「あの。風遊花さんの友達の浅井と言います。お話があるのですがちょっとよろしいですか?」

「あーいいですよ。」


そう言ってお母さんは家に入れてくれた。僕がここに来た理由は一つ、あの時僕が言ってしまったことは彼女にモデルになってもらいたいと心の底から思ったからだ。そして僕が作った服を来て欲しい。彼女に夢を諦めて欲しくない。そして彼女のことが………。そういう思いから僕は彼女のお母さんのもとへ来ていた。彼女のお父さんは彼女が小さい頃に亡くなっているらしい。そして今彼女のことをお母さんはたった一人で世話しているらしい。彼女があの時オーディションを受けるかどうかためらった理由が今更ながら分かった。


「お母さん、いきなりですが彼女がモデルになりたいと思っていることをご存知ですか?」

「あ、そうなんですか?」

「もし彼女がモデルのオーディションを受けたいと言ったらどうします。」

「それはもちろん止めますよ。それよりなんでそんなことを聞くんですか?」

「あのー、彼女は去年モデルのオーディションを受けていました。」

「え?」

「僕は去年彼女に相談されました。モデルのオーディションを受けたいのだけどどう思うかと。その時僕は受けた方がいいのではないかと言ってしまいました。その時はまだ彼女の家庭の事情も知りませんでした。そして彼女はお母さんに内緒でオーディションを受けました。すると彼女は一次審査を受かり二次審査まで行きました。そして彼女は多分お母さんに友達の家で泊まると言っていたと思います。その時実は僕と東京に行きました。そして彼女は二次審査を受け、残念ながら落ちてしまいました。こんな勝手な真似をして本当に申し訳ありませんでした!」

「本当に勝手よ。これで事故にでもあったら………。」

「けど!僕は間違った部分もあったかもしれませんが全部が間違いだとは思いません。少なくとも彼女がオーディションを受けたことは間違ってないと思います。お母さんは知っていますか?彼女の努力を。彼女はオーディションを受けるとなった日からモデルに必要な歩き方とかを必死に勉強していました。僕にも内緒で。」

「だからって私がオーディションを受けることを許可することは関係ないわ。」

「あなたは本当にそれでいいんですか?娘は自分の将来に向かって頑張っているんですよ?それを応援するというのが親なんじゃないんですか?」

「………」

「もう一度考えてやってはくれませんか?」


僕はそれを言ったあと彼女の家を出た。

そして次の日僕は彼女を昼休憩屋上に呼び出した。


「どうしたの?」

「悪い記憶を思い出さすかもしれないけど、これ。」


僕はオーディションの広告を彼女に渡した。


「誰も悪い記憶なんて言ってないよ。」

「え?」

「私ね昨日聞いちゃったの。柊くんが私の親に説得してくれているの。それで柊くんが帰ってからお母さんにオーディションを受けていいって言われたの。だからもう一度受ける。私の為にも、柊くんの為にも!」

「うん。」

「それで私も伝えないことがあるの。私柊くんのことが………好きです!もし良かったら付き合ってください。」

「……ごめんなさい。けど、風遊花がモデルのオーディション全部受かったらその願い受ける。けど受からなかったら僕の願いを聞いてもらう。それでいい?」

「………うん。」


そして僕達はそういう約束をして屋上を出た。

そしてある日彼女からLINEが来た。


「▼柊くん!一次審査受かったよ!二次審査も頑張るね!」


そうきた。僕は「▽おめでとう!」と返してあげた。そしてもう一つ。


「▽二次審査僕は東京に行かない。風遊花一人で頑張って!応援してる!」

「▼……うん。今回は一人で頑張る。お守りはちょうだいね?」

「▽もちろん。」


そして二次審査当日彼女は東京に居る。そして今ホールの中で面接をしている。


「私はモデルになって………」


彼女の言葉が一瞬止まった。そして少し彼女の瞳が潤んだ。多分それは僕のせいだろう。今彼女の目の前で僕と目が合ったから。そう、僕も東京に来ている。彼女が心配だから!そして彼女は気持ちを切り替えたようにさっきよりもしっかりと話すようになった。そのあとのウォーキングテストも練習の時より良くなっていた。そしてオーディションが終わり彼女は直ぐに僕のところに駆けつけてくれた。


「来てくれたんだ!」

「たまたま通りかかっただけだよ。」

「ほんとに素直じゃないんだから!」


そして僕達はあの時と同じように急いで新幹線へと乗った。

そしていよいよ合否の発表。彼女はずっとスマホを握りしめている。そしてスマホが鳴った。そして彼女はスピーカーにして電話をとった。


「もしもし…。二次審査の結果は…………。」


そして数年後。僕達は同じ屋根の下で暮らしている。しかし、結婚はしていない。そして彼女は今日もランウェイを美しく歩いている。僕が作った服で。あの日僕達が出会っていなかったらこんなことにはなっていなかっただろう。これは運命だろうか。違うな。僕は思う。これは運命ではなく必然である。

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