表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

オタマジャクシと水たまり

 久しぶりの執筆&投稿なのでリハビリも兼ねてます。見苦しいところがあるかと思いますがあしからず。

「……つまり、ステアリン酸の中の親水基だけが水に溶けて、疎水基は水に溶けないから、こーんな感じで起き上がるんですよ」

 化学教師はそう言うと、黒板にオタマジャクシが逆立ちしたみたいな図を描いた。彼曰く、こうして水の表面に単分子膜が生成されるらしい。まったくもって意味が分からない。


  *


 私の名前は青風彩春あおかぜいろは、私立桜風高校に通う二年生だ。学校内の不祥事を嗅ぎまわり、スクープして記事にする、学内の敏腕記者――なんてことは全くなく、その実はただのヒラ新聞委員である。

 実をいうと、警察御用達の名探偵を志していたりする。そもそも新聞委員になったのも、取材という行為を通して学内で起こる様々な事件に合法的に触れることが出来そうだからなのだ。もっともこの学校ではそんな心ときめく事件など滅多・・に起こらない。

 意味ありげな表現をしたのは、ときたまエキサイティングな事件が起こることがあるからだ。そして、なんの偶然か、私はしばしば関係者として巻き込まれる。さっきは心ときめく事件に触れたいとか呑気に抜かしたが、実際巻き込まれるとそうそう呑気なことは言っていられないものである。ついこの間も定期考査カンニング事件に何故か巻き込まれて面倒な目に遭った。話すと章が新たに追加されてしまうので、ここでは割愛させていただこう。


  *


 それは暑さが本格的に顔を出し始めた6月のある日のことだった。

 口元がやけに湿っていることが気になり、私は目を覚ました。化学の時間だった。

 ぼんやりとする目の前では、寝始めた時に男性教師によって描かれたオタマジャクシが、いつのまにか軍団を成していた。意識が混濁としている私には、あれを描いて何を説明したいのかが全くもって理解できない(はっきりしていてもたぶん理解できないが)。しかし、逆立ちオタマジャクシ――想像するだけでなんだか気分が悪くなってくるから不思議なものだ。

 とにかく、今から真面目にオタマジャクシを見たところで、理解できないという現状は全く変わらない。決めた、とりあえず残りの時間は有意義に過ごそう。私は再び夢の国に旅立とうと視線を下げ、そしてつい先ほど机上に造成されたらしい湖に気が付いた。

 ――はしたない。はしたなさ過ぎるぞ。

 いや、微睡まどろみながら涎が垂れてしまうのは仕方のないことだと思う。弁明するみたいだが、誰だって寝ながら無意識のうちに涎だらーんっていうのは経験したことがあるはずだ。だけれども、この湖――池ではなく、湖だ。これは酷すぎる。

 とりあえず埋め立て工事を行うべく、ティッシュを三枚くらい被せたら、まるで汚物を処理しているみたいになった。いや、汚いものを処理しているんだからこれも立派な汚物処理か。

 ここで、私ははたと気が付いてあたりを見回した。この現場を誰かに目撃されてしまったかもしれないと思ったからだ。幸い、私の周りはみんな寝ているようだ。爆睡していたのが私だけではないことがわかって少し安心した。

 目撃者が存在しない以上、この湖の処理をどうにかすれば、完全犯罪成立だ。「私ならできる!!」と心の中で自分を鼓舞して、私は涎の処理を始めた。

「終わった……」

 音を立てず静かにふき取るのには思いのほか時間をとられ、5分かかってようやく一息つくことができた。時計を見ると、まだ10分ほど授業時間は残っている。無事に処理が終わった安心感からか、私は再び机につっ伏した。


 10分後、私の机の上には広大なダムとも呼ぶべき水たまりが出来上がっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ