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第6話【森の探索】

【ミトラ視点】


 高ランク冒険者の強さだったり、過去の逸話だったり、そういったものも少しは知っているつもりだった。


 宮廷魔術師や、騎士団長を始めとした上級騎士が貴族やそれに近い階級の者達の憧れだとしたならば、Bランク以上の冒険者は一般の民や貧乏な民の憧れだった。


 宮廷魔術師なんてのはまず魔術師としての才能が無ければ目指しようも無い。上級騎士も、家柄と、幼少時より受けたエリート教育ありきの存在である。


 対して、高ランク冒険者の中には戦争孤児だった者や、それこそ元奴隷だった者までいるのだ。


 故に、ある種の難民であり孤児でもある僕も、心の何処かで憧れている部分があった。


 荷物持ちとはいえ、そんな高ランク冒険者のイオリさんやエレレトさんについて行けることにドキドキしていたのも仕方が無いことだろう。


「どぉりゃあっ!」


 だが、僕の浅はかな高ランク冒険者のイメージはそんな気合いの掛け声と共に砕けて消えた。


 皆がゴブリンやオークの攻撃を躱したり、盾や剣で受けたりしている中、イオリさんは思い切り地面と水平に剣を振った。


 その一撃で、イオリさんの剣を肩に受けたオークが真っ二つになり、更にその吹き飛んだオークの身体にぶつかって一体のオークと二体のゴブリンが倒れた。


「な、なん、なんだっ!? なんだ、あの馬鹿力は!?」


 怖そうなエルフの男の人、イエルミエルさんがそんな叫び声を上げる。まさに、僕の心の声の代弁者と言える叫びだった。


「さぁ、期待のスラッガー、イオリ選手! ホームラン性の鋭いヒットーッ! 残念ながらフェンスに当たりましたが、フェンスを破壊して無理やりホームランです!」


「な、何を言ってるんだ、あの人は!?」


 イエルミエルさんの絶叫が響く中、イオリさんは地面を蹴って他のオークに走り寄り、また剣を振るう。


「不動の四番イオリ選手、第二打席はどうか!?」


 そんな掛け声と共に、またも真っ二つになって弾け飛ぶオークの身体。


「やはりホームラン! 今シーズン十五試合全打席でホームランです!」


 血を撒き散らしながら意味不明なことを叫ぶイオリさんに、さしものイエルミエルさんも唖然として固まってしまった。


「そ、そうか。バーサーカーのスキル持ちか……だから皆遠慮していたんだな、うん」


 なるほど!


 イエルミエルさんの推理に思わずそう言いそうになった。


 だが、残念ながら僕は知っているのだ。真面目に戦ったら、目にも止まらぬ剣技を使うことが出来るのがイオリさんである。


 狂戦士(バーサーカー)などでは無い。


「旦那に負けていられないな!」


 太い声がして、今度はゴブリンがまとめて切り倒された。セグダディさんだ。


 流石に、街一番のベテラン冒険者だ。僕から見ても危なげが無く、堅実に魔物を倒している気がする。


 そして意外だったのがイエルミエルさんである。


「まったく……私は私のペースでやらせてもらう」


 そんな言葉を吐きながら弓を持ち直したイエルミエルさんは、瞬く間に三本の矢を放った。矢は吸い込まれるようにゴブリンの頭を射抜き、次々とゴブリンの数を減らしている。


 多分、単純な討伐数ならイエルミエルさんが一番多いだろう。


「ミトラー。水をくれー」


「は、はーい!」


 対して、僕はイオリさんの後方に控え、要求された荷物を渡しに行くだけである。ちなみに、何故かエレレトさんも僕と一緒に後方待機していたりする。


「ありがとさん」


 笑いながら水を受け取るイオリさんは爽やかな筈なのに、身体のいたる所に魔物の血が付着していて恐ろしい姿になっている。


「……さて」


 水をたっぷり飲んだイオリさんは片手の甲で口元を拭き取り、そう話を切り出す。


「それなりに森の奥に入ってみたが、これまでにオークが二十体とゴブリンが百体といったところか?」


 皆を振り返りながらそう口にすると、エレレトさんが一番に答えた。


「ゴブリンが百二十三体、オークが三十体ですね。クィエさんとイエルミエルさんが補助してくれたお陰で殆ど遭遇した魔物は一掃できました」


「お、逃してないのか。やるな、二人とも」


 イオリさんがそう言って笑うと、犬獣人のクィエさんとイエルミエルさんが顔を上げた。


「やはははー。照れますなぁー」


「ふん。与えられた役目を果たしているだけだ」


 二人の反応に苦笑し、セグダディさんがイオリさんを見た。


「それで、旦那。どうするんだ? まだ行くかい?」


「ぶっちゃけもう帰りたいけど、まだ大した情報は無いんだよなー」


「これまででこんだけ魔物が出たら充分異変アリで良いと思うが、旦那的には不足かい?」


 セグダディさんがそう尋ねると、イオリさんは頭を捻りながら唸る。


「うーん……結局、たまたま群れで浅いところまで出て来たのか。それとも人口爆発大氾濫なのか。はたまた低位の魔物が逃げ出すようなヤバい魔物が出たのか……まぁ、大氾濫の割には数が少ない気もするし、ちょいヤバい魔物が出たとかが一番現実味あるか?」


「数、これで少ないのか……」


「オークやゴブリンが群れで逃げ出す魔物って……サイクロプスとか?」


「サイクロプス一体だったら森の浅いところまでは来ないだろ」


 イオリさんのセリフに各々がそんな事を口にする。


 僕は、無数の木々によって薄暗くなった森の奥を眺め、小さく呟いた。


「……何か、音がする」


 僕はうさ耳をピンと立て、耳を澄ました。


 風が枝を揺らし、葉をこすり合せる音。小さな川のせせらぎ。微かな鳥や虫の鳴き声。


 そして、重い何かがぬかるんだ地面を這うような、不気味な音。


「……大蛇、じゃ無い。足踏みと、何かを引きずる音……?」


「やっぱり兎獣人は耳が良いねぇ……私はまだはっきりとは聞こえないなぁ」


 僕の呟いた言葉に、クィエさんが感心したようにそう言った。


「おいおい、マジか? 足踏みと引きずる音って……四足歩行に長い尻尾がある奴しか思い浮かばねぇぞ」


「え、それって……」


「いや、分からんぞ。ブラックスコーピオンみたいに巨大サソリ系の魔物の可能性もあるし」


「それもキツいっての」


 高ランク冒険者の集団である筈なのに、明らかに動揺するような相手。


 僕もまだ見たことは無いけど、段々とこちらに近付いてくる音を聞くうちに、そのイメージは固まって来た。


「に、に、に、逃げましょう……! そちらから向かって来てます!」


 そう言うと、皆がイオリさんの方向を見た。


「こっちからか?」


 イオリさんはそう言うと、後ろを振り返り、何故か足元に落ちていた石を握って投げた。


「なんでっ!?」


「ちょ、アンタ何やってんだ!?」


 皆が絶叫する中、風を切る勢いで投げられた石が何かに当たる音がした。


 そして、鼓膜を直接揺らすような恐ろしい鳴き声が響き渡る。うさ耳と背筋がゾワゾワとするような鳴き声に、僕の足はカタカタと震える。


 イオリさんはその鳴き声を聞き、頷いた。


「今の声はドラゴンだな。間違い無い」



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