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異世界転移してきた冒険者を現地人が見たらこうなる 〜なんかラーメンとかビールがどうとか言ってるんですけど〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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第19話【山の主】

 ドラゴンは翼を広げ、徐々にイオリ達のいる崖の方へと降りてきた。


 巻き上がった砂埃が周囲に一気に広がり、ドラゴンは崖の上に後ろ足から着地し、地面を叩くように前足を地面に叩きつける。


 唸り声を上げてイオリ達に顔を寄せるドラゴンに、ミトラ兄妹が震え上がった。


 鋭く大きな牙が無数に並ぶ巨大な口に、エレレトも厳しい表情で腰を落とし、剣を構える。


 そんな中、イオリは剣を持った手をぶらりと下げてドラゴンを見上げた。


「中々の大きさだな。これなら問題無いだろう。悪いが、生き血を少し貰うぞ」


 イオリがそう告げると、ドラゴンの目が細められた。


『……生き血、だと?』


「ドラゴンが喋ったぁあああっ!?」


 聞き取りづらいが、低く嗄れた重々しい声をドラゴンが発し、イオリが即座に絶叫した。


 その大声にミトラ達は肩を跳ねさせて驚き、ドラゴンも煩わしそうに目を細める。


「あの、長い年月を生きた高位のドラゴンは喋る個体もいるという……」


 エレレトが言いづらそうにそう言うと、イオリは深く頷いた。


「あ、知ってる。喋るドラゴンはこれで二体目だしな。お約束だから叫んだだけだ」


 イオリがそう言うとエレレトは脱力して肩を落とした。


『……稀にみる面倒臭い人間だ……』


「うるさい。お約束の大切さを知らない奴だな」


 ドラゴンに文句を言い返し、イオリは背後を指差す。


「ちょい血が欲しいんだよ。予備も含めて五百ミリリットルくらいおくれ」


 そう言って笑うイオリに、ドラゴンが目を瞬かせて動きを止めた。


「五百ミリ……? というか、イオリさん気安すぎますよ……」


 ミトラが突っ込むが、イオリは取り合わずにドラゴンと視線を交わす。


「で、痛くしないから生き血をくれよ。献血だ。ただ今、ドラゴンの血が足りていません。皆様のご協力をお待ちしております」


 イオリが顔の前で両手を合わせて頭を下げると、ドラゴンは首を傾げて喉を鳴らした。


『……意味は解らぬが、我を相手に物怖じしていないことは分かった。面倒臭いが面白い人間だ』


 ドラゴンはそう口にすると、前足で地を蹴り、上体を起こして首を持ち上げながら咆哮した。高い位置からイオリ達を見下ろすと、翼を広げたドラゴンが再び口を開く。


『さぁ、我を従えたければ力を示せ……! 我が認めるのは強者のみ……!』


「うっわ、きた! やっぱりな! なんでドラゴンは脳筋ばっかりなんだよ、おい!」


『……脳筋というのが何か分からんが、楽に死ねると思うなよ』


「おお、急に威圧感が上がった!?」


 イオリが驚くと、ミトラが剣を抜きながら涙目で叫ぶ。


「イオリさんが挑発するからですよ……!?」


「諦めなさい! イオリさんはバカなんだから!」


「おい、エレレト! 心の声が漏れてるぞ!」


 エレレトのミトラへの言葉にイオリが両手を挙げて怒った。その三人を眺め、エリヤが口元に手を当ててその場に崩れ落ちる。頬には一筋の涙が流れていた。


「ああ……これで皆死んじゃうのね。私のせいで……ごめんなさい、皆……」


 混乱状態にある四人を見て、ドラゴンが飛び掛かるような格好のまま固まっていた。


『……なんて纏まりの無い人間どもだ。やはり人間とは愚かである』


 ドラゴンは一人納得したように首を倒し、そう呟いたのだった。





 巨大な岩が砕け散り、恐ろしい勢いで拳大の岩の破片が降り注ぐ。


 それをイオリとエレレトが剣で弾き、ミトラは必死に避ける。


「し、し、し、死んじゃう! 絶対に死んじゃう!」


「元気いっぱいじゃんか」


「うわーん! イオリさんの馬鹿ー!」


 涙目でイオリへ罵声を飛ばすミトラに、イオリの後ろで身を小さくしているエリヤが声を出した。


「お兄ちゃん、頑張って!」


 エリヤが声援を送ると、ミトラは歯を食いしばって顔を上げた。


 ドラゴンは尾を振り、今度は巨大な木を一撃でヘシ折る。


「ひ、ひぃやぁあああっ!?」


 倒れ掛かってくる巨大な木に、ミトラが地面を転がるようにして回避した。その木を、イオリが剣で切り飛ばす。


『……ほう』


 イオリの力に、ドラゴンは目を僅かに開いた。イオリは切り飛ばした木を片足で踏むと、剣を肩に担いだ。


「さぁ、エレレト! 俺の屍を越えていけ!」


「はぁ……分かりました。負けそうな時は助けてくださいね」


 エレレトは苦笑交じりにそう言うと、イオリの隣に立つ。ミトラとエリヤが驚いて二人を見ると、イオリは笑いながらエレレトの肩に手を乗せた。


「身体能力向上に、魔力と自然治癒力向上も付けとくか」


「魔力の盾もお願いします」


「我が儘な奴だな。ほれ」


 笑いながらそんなことを言うと、エレレトの体が薄く発光する。黄、青、赤、緑の淡い光を順番に発していき、最後には薄っすらと白い光がエレレトを包み込んだ。


 その光景に、ミトラが目を剥く。


「補助魔術……?」


「綺麗……!」


 月夜の中、白い光を纏ったエレレトが巨大なドラゴンと対峙する光景に、エリヤは熱い息を吐いて感嘆の声を漏らした。


 エレレトが剣を構えると、手にした剣の刃が燃え上がった。刀身が見えなくなるほどの勢いで燃え上がる炎に、ドラゴンは目を鋭く細める。


『魔剣か。それにその光……以前、相対した強者と同じだな。面白い……!』


「……行きます!」


 声を発した直後、エレレトは地を蹴って走り出し、ドラゴンは鋭い牙で襲い掛かった。


 エレレトがドラゴンの鼻先を踏み付けて更に高く飛び上がって剣を振るうと、ドラゴンの大きなツノが半ばまで切断される。


『ぐぅ……! 小癪な……!』


 くぐもった声を上げながら、ドラゴンは素早く身体を反転させ、巨大な翼と長い尾をエレレト目掛けて叩きつける。


 エレレトは空中でドラゴンの翼を剣で受けたが、尾を足に受けて弾き飛ばされた。岩が露出した山肌に叩きつけられ、ヒビが入った岩の上に落ちる。


「……く、一撃でこれほど……」


 エレレトが片膝をついて何とか起き上がると、ドラゴンは顔を向けて口を開いた。


 ドラゴンの口の中から薄っすらと光が滲み出し、エレレトが慌てて逃げようと身体を起こす。


「え、エレレトさん!」


 エリヤが悲鳴を上げ、ミトラが走り出す。


 逃げようとしたエレレトの踏み出した足から力が抜け、体勢を崩した。


 ドラゴンの口から眩いばかりの光が溢れ、エレレトが倒れながらに剣を構えてドラゴンに向き直る。


『……潔し』


 ドラゴンは目を細めてそう呟くと、口を限界まで開いた。


 直後、走ってきたミトラがエレレトを横から突き飛ばした。ドラゴンに意識を向けて集中していたエレレトは、ミトラに押されただけでアッサリと地面を転がる。


「きゃあっ!?」


 悲鳴を上げてなだらかな坂を転がるエレレトと、涙を目に浮かべたままドラゴンを睨むミトラ。


 そして、ドラゴンの口から白い光が吹き出した。


「あっち向いてホーイッ!」


 しかし、ドラゴンの白い光のブレスが吐き出された瞬間、横からイオリが拳を振るう。


 飛び掛かりながら振るわれた拳はドラゴンの横っ面を殴り飛ばし、吐き出されたブレスは光の奔流となり、夜の空を切り裂いた。


『グ、ォオ……』


 ブレスが搔き消え、苦悶の声を漏らしながら踏鞴を踏むドラゴンに、イオリが飛び掛かる。


「よいしょ」


 そんな気の抜けた声とともに、イオリはドラゴンの後頭部に向けて剣を振った。


 地に響くような鈍い音が響き渡り、ドラゴンは背中を反らせて地面へと倒れ込んだ。地響きが止み、白眼を剥いて倒れたドラゴンの背に乗り、イオリが口の端を上げる。


「安心するが良い。峰打ちじゃ」



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