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第15話【目的地は】

「いやぁ、助かった! まさか、Aランク冒険者の方に助けてもらえるとは!」


 行商人の男がそう言って笑うと、エレレトは首を左右に振って口を開いた。


「いえ、大したことはしていません。それでは、道中気をつけて」


 エレレトがそう言って立ち去ろうとし、行商人一行が口を開きかけた。


 だが、行商人一行よりも先にイオリが口を開く。


「いや、おい。行く先にトロールが現れて逃げてきたんだから、向かう先は同じだろうに」


「はっ」


 イオリが片方の眉を上げて口にした言葉に、エレレトはピタリと動きを止める。そして、そっと頬を赤く染めた。


 動きを止めたエレレトの背中を横目に、行商人の男は苦笑いを浮かべてイオリを見た。


「そ、それなのですが、出来たら次の街まで護衛をお願いしても良いでしょうか。普段なら、餌が少ない街道にトロールが三体も出る事は無いでしょう。つまり……」


「近くの森か山で異変が……か?」


「は、はい!」


 イオリの台詞に行商人は即答する。それを見て、イオリは腕を組んで顎を引いた。


「ほほう。今をときめく冒険者のアイドル、エレレトちゃんを護衛に連れてくなら、さて幾らになるか」


 イオリがそう言うと、行商人の男はグッと唇を噛み、深く頷いて胸を張った。


「次の街まで残り五日から六日! 一日金貨二枚出します!」


「良し! 中々やるじゃないか! おっさんの男気に乾杯!」


「ああ! 噂のSランク目前の冒険者と繋がりが持てるのだ! 限界まで奮発させてもらったよ! はっはっは!」


 二人が一緒に大声で笑い合う姿を、エレレトが半眼で見据える。


「え、エレレトさんの依頼料をイオリさんが決めてますけど……」


 ミトラがそう指摘すると、エレレトは深い溜め息を吐いて肩を竦めた。


「……そういう人よ。不思議と悪い方向にいかないから文句も言えないの」


「た、大変ですね……」


 エレレトとミトラがそんな会話をしていると、馬車の窓から顔を出したエリヤが楽しそうに笑った。その顔を見て、二人も釣られるように笑う。


 そんな平和な光景に、息も絶え絶えといった様相の冒険者達が肩を落とした。


「……旦那達、トロールの素材はどうするんで?」


「止まってたら別の魔物が来るかもしれないっすよー……」


 冒険者達が控え目に意見を口にするが、誰も聞くものはいなかった。





 がたがたと揺れる馬車の上で、エリヤがゆったりと流れる風に目を閉じる。


「……良い風ですね」


「そうだな。天気も良いし、毎日毎日金貨が貯まっていくし、ミトラも少し強くなったし、金がウッハウッハだし」


「お金は大事ですからね」


「そうだぞ。時は金なりと言うが、誰も買えない筈の時間が金と同価値なんだからな。カネ超大事」


 イオリがそう言うと、エレレトが首を傾げる。


「……金貨は私への依頼料では?」


 エレレトのその一言に、イオリとエリヤはわざとらしく目を見開いて顔を向き合わせた。


「聞いたか、エリヤ。俺達には一枚もくれないんだってよ……」


「銀貨一枚でも良いから欲しいですよねぇ。いえ、銅貨一枚でも……」


「あ、あげます! あげますから、そういう言い方はしないで下さい! 人を業突く張りみたいに……」


「業突く張りなんて言葉どこで覚えたんだ? おばあちゃんみたいな奴だな」


「お、おば……っ!?」


 イオリ達が間の抜けたやり取りをする中、行商人の男はすぐ近くを歩いているミトラに目を向けた。


「……み、ミトラ君もあっちの馬車に乗って良いんだよ?」


 そんな言葉を掛けられると、ミトラは乾いた笑い声を上げながら首を左右に振る。


「はは……僕が馬車の外にいた方が魔物の接近に気付けますからね。良いんですよ、僕なんて……ぐす」


 いじけるミトラに、行商人の馬車の周りを歩いていた冒険者達が慌てて声をかけた。


「い、いや、流石はエレレト殿の仲間だな! 一人で警戒を任されるなんて、相当信頼が厚いってことだよ!」


「そうだよな! やっぱAランク冒険者の仲間ってことは凄いんだろ?」


 声を掛けられたミトラは照れ笑いを浮かべながら顔を上げる。


「え、いや、そんなことないですよ。ほら、僕なんてまだEランクだし」


「え? Eランクって……低すぎ……はっ!?」


 ミトラの発言に冒険者の一人が思わず心の声を漏らしてしまい、ミトラは再度肩を落とした。


 そして、遠くを見つめる。


「……ふ、ふふふ。そうですよね。新米冒険者の僕なんかが此処にいるなんて、場違いですよね……でも、良いんです。これからすぐに強くなって、イオリさんに正面から文句を言えるくらいの高ランク冒険者に……!」


 ミトラがぶつぶつと独り言を呟きながら一人で勝手に盛り上がり始めた時、隣を行く馬車からイオリが顔を出した。


「ミトラ!」


「へゃいっ!? ご、ごごご、ごめ、ごごごめめめ……!?」


 突然名を呼ばれたミトラは飛び上がって驚き、アワアワとその場で動き回った。その様子を怪訝そうに眺め、イオリが口を開く。


「なんだ? スタンドか? スタンド使いだったのか、お前? まぁいい。あっち側に魔物はいないか?」


 イオリがそう言って街道から外れた先にある山の方向を指差した。ミトラはそれを聞いてうさ耳を動かす。


 まるでアンテナのようにうさ耳をピコピコと動かし、ミトラが眉根を寄せた。


「……山の方で何か聞こえますが、はっきりはしないですね。ただ、間違いなく大型の魔物がいると思います」


 ミトラがそう答えると、イオリは面倒臭そうに生返事をした。


「ふぅん……なるほどな」


 含みがある発言に、ミトラは不満げに口を尖らせる。


「いや、イオリさん。あそこすっごく遠いですからね? 僕だから少しでも音を拾えるんですよ? ね?」


 ミトラが自分の能力をアピールすると、イオリは目を細めて口の端を上げた。


「ほほう? 言うじゃないか。なら、次の街に着いた後はその力を存分に発揮してもらおう。楽しみにしていろ」


「え? え? ちょ、ちょっとイオリさん!?」


 不穏な台詞を残して馬車の中に引っ込んだイオリにミトラは慌てて声を掛けたが、もう顔を出すことは無かった。


 不安そうにするミトラに対して、イオリは馬車の中から静かに自身が指差した山を眺める。


 周囲から頭一つ二つはゆうに抜き出た、頂上が白く染まるほどの大きな山。雲にも届くその山の麓には、距離感が狂うような巨大な樹が無数に並んでいた。


 その景色をジッと眺めるイオリの横顔を見て、エレレトは眉根を寄せる。


「……一ヶ月から一ヶ月半で着く……まさか、あの山に……?」


 エレレトのその呟きに、イオリは不敵な笑みを浮かべて返事とした。



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