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異世界転移してきた冒険者を現地人が見たらこうなる 〜なんかラーメンとかビールがどうとか言ってるんですけど〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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第12話【ミトラの葛藤】

 イオリが宿を引き払い、一人で荷物を馬車に乗せていると、ミトラが悲しそうな顔でイオリを見上げた。


「……本当に行っちゃうんですね」


 イオリは大きな皮の袋を馬車に載せると、その袋に片手を置いた格好でミトラに顔を向ける。


「この街は良い街だ。領主が良い奴だと、街も大体良い街になる。住むには最良と言えるかもな」


 イオリは笑いながらそう言うと、目を細めて、ゆっくりと街の景色を眺め、息を吐いた。


「……この街が好きで出たく無いのなら、断ってくれて良い。だが、もし興味があるなら、俺達と一緒に来るか?」


 イオリがそう言うと、ミトラは驚きに目を見開き、次に悲しそうに、困ったように笑った。


「……ダメですよ。僕には家族がいます。大事な大事な家族です。冒険者にもその為になったんですから」


「体の弱い妹だろう?」


 イオリが確認するようにそう呟くと、ミトラは口を噤んで頷く。


「そこまで知るつもりも無かったが、成り行きで家の前まで寄ってしまったからな。偶然、とは言えないが、思わず色々と聞いてしまった。悪いな」


 そんな台詞を受け、ミトラは眉をハの字にして笑う。


「あはは……仕方がないですよ。僕も、イオリさんとエレレトさんが家の前を通り過ぎたことに気が付いてましたから」


「……確証が持てない事を言いたく無いが、もし、お前の妹の身体が人並みに強くなるかもしれないと聞いたら……どうする? お前は、それに賭けてみるか? それとも、これまで通り、お前が妹を守っていくのか?」


 イオリの真剣な問いかけに、ミトラはすぐには答えることが出来なかった。


 じっくり数十秒、何も言わずに俯くミトラに、イオリも何も言わず待った。


 そして、ミトラは顔を上げる。


「……笑われるかもしれませんが、僕はいつかAランク冒険者になって、妹の身体を治すつもりです。その為には、地位とお金が必要だと思っています。夢物語ですが、Aランクにもなれば……もしかしたら、王都の大神官様にエクストラヒールを施していただけるかもしれない」


 ミトラは力強い目でイオリを見て、そう口にした。対して、イオリは何処か哀しげにミトラの目から視線を逸らす。


「……回復魔術か。教会の神官かAランク冒険者の回復術師にハイヒールをやってもらうのが関の山だろう。なにせ、王族や上級貴族に何かあったら悪いから、平時は大神官は魔力消費の激しい魔術を使わないからな」


「……分かっています。僕の言っていることが難しいことなのは承知の上です。でも、必ずやり遂げます! エリヤの、妹の為に!」


 ミトラのその宣言に、イオリは難しい顔のまま、自分の頬を指先で撫でた。


 そこへ、エレレトが何処からか姿を見せる。


「おはよう、ミトラ君」


「あ、おはようございます、エレレトさん!」


 ミトラと挨拶を交わすと、エレレトはイオリに顔を向けた。


「……イオリさん。言いつけ通り、ギルドマスターからのAランク昇格試験の話も、ヘルエムメルク侯爵の仕官の話も断って来ましたよ」


「え!? Aランク昇格!? 仕官!? こ、断ったんですか!?」


 ミトラが飛び上がって驚く中、イオリが嫌そうな顔をして鼻を鳴らす。


「だって、そんなに有名になりたくないしなぁー。Aランクになると急に面倒な依頼ばっかりお願いされるし。侯爵のとこの仕官の話だって、明らかに騎士団とか守備兵とかの役職につけたそうな気配だったしな。もう面倒臭そうな気配がビシビシと感じましたとも」


「い、いや、でも……どちらも一生困らないような高待遇でしょう?」


「別にBランクの根無し草でも困らないしー」


「そりゃそうでしょうけど……」


 釈然としない様子のミトラを見て、エレレトが首を傾げた。


「……イオリさん? ミトラ君にはあの話はしたんですか?」


「旅の同行の誘いですね。すごく嬉しかったんですけど、僕には大事な家族がいるので……誘ってもらって、本当にありがとうございます。僕は、この街できっとAランクになってみせます」


 泣きそうな顔で笑うミトラに、エレレトの目が細められた。そして、イオリに顔が向く。


「……イオリさん?」


 その低い声に、イオリが苦笑いを返す。


「ちゃんと言ったぞ? 俺達と一緒に来るかって……」


「イオリさんが回復魔術使える事は?」


「え!? 回復魔術使えるんですか!? イオリさん、剣士じゃ……っ!?」


 エレレトの一言にミトラが目を剥き、イオリは鼻歌を歌いながら馬のブラッシングを始めた。


 信じられない者を見るような目でイオリを見つめるミトラに、エレレトは静かに話し掛ける。


「イオリさんはミトラ君の妹さんの為に、ある薬を探そうとしてるのよ。その薬が本当にあるか分からないし、効くかも分からない。だから、ミトラ君を連れて行きたくないのね」


「く、薬? それって……」


「英雄神話にも登場する幻の薬、千神酒よ」


「せ、せんじん……で、伝説上の薬じゃないですか……それこそ夢物語じゃ……」


 ミトラが困惑した顔でそう呟くと、エレレトは腕を組んで胸を張った。


「私だって他の誰かから聞いたら信じないわ。でも、それを口にしたのはイオリさんよ。私は間違い無く薬が手に入ると思っているわ」


 エレレトが力強くそう断言すると、ミトラは眉根を寄せて俯いた。


「で、でも、何年……いや、何十年と掛かるかも……」


「それは……でも、他の方法を選んでも何年も何十年も掛かるでしょう?」


 そんな会話をして一気に暗く重い空気になる二人。それを見て、イオリが飄々とした態度で口を開く。


「あ、いや、千神酒はある程度予想がついてるからな。多分、二ヵ月か三ヵ月で何とかなると思うぞ」


「え!?」


「二ヵ月!?」


 イオリの台詞に揃って驚愕するミトラとエレレト。その顔を見て、イオリは肩を竦める。


「あると便利だと思って情報は集めてたからな。行きに一ヵ月か一ヵ月半。帰りに一ヵ月か一ヵ月半で二、三ヵ月という計算」


「往復込みの時間ですか!?」


 エレレトの絶叫に近い声での問いかけに、イオリは耳を手で塞ぎながら頷いた。


 そして、ミトラに顔を向ける。


「馬車には十分な空きがある。来るんなら一番に薬はやろう。来なくても、多分三ヵ月後には届けてやる」


 イオリがそう告げると、ミトラは深く頷いた。


「……行きます。妹の為に何か出来るなら、僕が……」


 そこまで口にして、ミトラは「あっ」と声を上げた。


「……でも、やはり二ヵ月とか三ヵ月も妹を一人で置いていくのは……」


 ミトラが俯くと、イオリは呆れたような顔でミトラを見る。


「なんでお前が馬車に乗る計算で考えてんだよ。歩け、軟弱者。足を鍛えるのだ」


「へ? ど、どういう意味ですか?」


「馬車に乗るのはミトラの妹だって意味だよ。薬を一番に試すなら、一緒に行くしか無いだろう」


「エリヤが一緒に……!? ちょ、ちょっと待って下さい。妹も一緒に連れて行くんですか!?」


 ミトラが血相を変えてそう口にすると、イオリは馬車の壁に背中を預け、目を細める。


「ミトラ。過保護過ぎ。もし冒険者として大成する前にお前が死んだらどうする? 今のままじゃ妹一人で生きていけないだろ?」


「そ、それは……」


 言い淀むミトラに、イオリがエレレトを指差して口を開いた。


「例えば、エレレトに妹を会わせ、もし自分に何かあったら妹を頼むと伝えておく。それだけでも、ミトラに何かあっても妹が生きていける確率は上がる」


「……え、エレレトさんにそんな……」


「遠慮するなよ。頼れる人間がいたら頼っておけ、少年。もしどうしても気兼ねするなら、妹でも働ける仕事を見つけてやることだ。必ずそういった仕事はあるぞ」


 イオリの言葉に、ミトラは複雑そうな顔で押し黙った。エレレトは黙ったままの二人を見つめ、横から口を出す。


「……この街の冒険者ギルドはかなり良い雰囲気ね。だから、冒険者ギルドの受付とか。後は領主様も良い方のようだったから、メイドとして雇ってもらうとか」


「そ、それは……妹は身体が弱くて……」


 そう呟き、ミトラはまた沈黙した。その悩む姿を暫く眺め、イオリは肩を竦める。


「まぁ、結局はお前の問題だからな。妹に決断する機会が無いのは可哀想だが」


 イオリがそう呟くと、ミトラは顔を上げた。


「…………エリヤに、決断する機会を……?」


 イオリの言葉を繰り返したミトラは眉根を寄せて、ゆっくりと頷く。


「……イオリさん。僕の妹に会って貰えますか? 妹に、話をしてみます」



ようやくメインキャラクターが揃う…!

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